第20話士気の低くなった軍隊
「クレスト殿。軍は整備され、十分に訓練をつんでおりますが、なぜか兵たちの士気があがりません。みんなやる気はあるのですが、夜になるとひっそり泣いていたり、寝言を言ったりしています。どうにかできないでしょうか?」
「考えさせてくれ」
俺はそう言った。
「精霊タン。兵たちの士気なんだけど、なんとかできないかな?整理整頓で」
「できるよ。あれはね。戦いとその後の事で、大きなストレスを受けたことが原因なんだ。それを全部吐き出させると、回復するかもしれない。ただね。みんなプライドが高いからね
紙に気持ちをぜんぶ書き出させること
泣かせること
叫ばせること
が大切かな、どうやればいいかはムズカシイけど」
「そっか精霊タン、ありがとうよ」
俺は兵たちの前でこう切り出した
「まず泣くことから始めませんか?」
ざわつく兵たち
「まず泣くことから始めませんか?」
もう一度俺は言った
気持わるい沈黙があたりをながれる。
「まず泣くことから始めませんか?」
再び俺は言った。
「ふざけるな!!」
突然若い兵が口火を切った
「ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!」
罵声の連鎖が場を覆った。
若い兵は怒りをあらわにし
「泣くなんて男のするものじゃない」
そう言い放った。
俺は、ふっとため息をつきながら
「そっか。じゃあ赤ん坊は男じゃないんだな」
そう語った。
若い兵は、阿呆でも見るかのように、顎をつきあげ
「赤ん坊はまだ小さい。泣くのが仕事だ」
そう言った。
「赤ん坊はなぜ泣くのが仕事なんだ」
冷静に俺はそう聞いた。
ますます助長された若い兵は
「赤ん坊は言葉がうまく話せない。だから泣いて気持ちを伝えるんだ」
そう言った。
「そうか泣いて気持ちを伝えるのか。なるほどな」
若い兵は大きくうなづいた。周りはシーンとした
「じゃあお前らは気持ちをちゃんと伝えているのか?」
突然の言葉に、場は動揺をした。
気持ちをちゃんと伝えているのか?
その言葉はあまりにも重かった。
兵は
耐え耐え耐え
我慢し我慢し我慢し
そして戦わなければならない
気持ちをちゃんと伝えることなどできないのだ
さすがの若い兵も言葉を失った。
「オレは知っている。お前たちが、夜な夜な過去を悔い涙を流しているのを
オレは知っている。お前たちが、シャワーを浴びながら涙を隠していることを
オレは知っている。お前たちが、亡くなった仲間に申し訳なく思っていることを
オレは知っている。お前たちが、今度の戦いで死のうと思っていることを
オレは知っている。お前たちが、それでも前に進もうとしていることを」
辺りからは、鼻をすする声が聴こえる。声を押し殺して、それでも感情を表にださないでおこうとする最後の抵抗が続く。
俺のほほには、一筋の涙がこぼれた。
「だから。今日は泣け!お前らは今日は兵ではない。ただの赤子だ。だから今日は泣け!泣け!泣け!これは命令だ」
規律ある兵たちが、隊列を崩し、ひざから砕け落ち、なさけなく手をつき、泣いた。
兵たちの感情という名の最後の砦は、あっけなく崩れ去った。
そこには屈強な男たちの顔はない。ただ悲しみにくれる赤ん坊の姿 そのものであった。
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