第9話剣術を学ぶ

最後は剣術だ。



国語と数学と歴史はわかるが、剣術はまったくわからない。



幸い、国語も数学も歴史も成績が上がり、残るはこれだけ。



勉強はなんとかできたが、運動系は前世でも苦手だったし、この身体の持ち主も元々病弱だったので、正直、不安で仕方なかった。



精霊タンは、



「動作を単純なパーツに分解し、その分解した動作を徹底的に覚えてから、少しずつ組み合わせれば剣術は上達する」



と言っていた。



「分解して組み合わせる……理屈はわかるけど、本当に通じるのか?」



半信半疑だった。



そこでまず、アイビー先生に剣術の基礎を習い、その上達スピードが速いかどうかを見てもらうことにした。



この国の剣術は、日本の剣道とほぼ変わらない。足運び、腕の素振りが基本のようだ。



早速先生に稽古場で教わることに。



「異国のすごい賢者が編み出した勉強方法では、このように動きを分解して覚えます」



そう言って、俺は教わった動きを細かく区切って見せた。



「ただし雑にやると逆に変な癖がつく。だから、最初は“ゆっくり・正確に”を意識するのがコツです。」



先生も少し首をかしげながら、「そうですか……試しにやってみますね」と言い、俺の真似を始める。



はじめはぎこちなかったが、10分、20分と経つうちに――。



「あれ……いや、これ……スムーズですね」



驚いた表情で、先生は木剣を持つ手を見下ろした。



「複雑な動作は、脳が“ひとつの動き”として覚えようとすると混乱する。でも、小さな動きに分ければ、ひとつずつ“脳の引き出し”にしまえる。だから効率がいいんです」



そういいながら


俺も身体が思いのほか軽く、スッと動く。



「これ、本当にいいですね……!」



思わず口をついて出た言葉に、先生はクスッと笑った。



「あなた、なかなかすごいことを教えてくれますね」



その後も、動きを組み合わせて1時間ほど続けると、まるで1週間程度練習したかのような滑らかさになっていた。



先生も思わず、ポツリとつぶやく。



「これ……本当にガチなやつです」



「先生が“ガチ”とか言うんだ?」と笑うと、先生は思わず頬を赤らめて笑い返してきた。



練習が終わり、木陰で汗をぬぐっていると、先生がふと遠くを見ながら言った。



「……私、昔は本当に剣が苦手で…。同期の子たちがどんどん上手くなる中、私だけ取り残されて……何度も泣きました」



「え、先生がですか?」



「ええ。あの時の悔しさがあったから、今はこうして剣を教える立場にいるけれど……今日、あなたのやり方を見て、昔の私にこれを教えてあげたかったなって、少し思ったんです」



先生の瞳が、少しだけ潤んで見えた。



その時、稽古場の外で見ていた生徒たちがざわめく。



「なんか今日、先生めちゃくちゃキレイに動いてない?」



「本当だ、先生の動きがいつもと違う……!」



その声に、先生は照れくさそうに笑いながらも、ちょっと胸を張ってみせた。



「これもあなたのおかげね」と、小さな声で言い、俺の方をまっすぐ見つめた。



「いや、先生の努力の成果ですよ」と返したが、内心は少しだけドキドキしていた。



精霊タンの声が、ふっと心の中に響く。



「な?整理整頓、万能だろ?」



「……たしかにな」



今日はきっと、掃除以上にすごいものを手に入れた気がした――。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る