元汚部屋住人が異世界転生して王国を再建した話――整理整頓スキルで静かに無双します

坂本クリア

第1話汚部屋すぎて死んだ男の転生先は?

「……臭い。……動けない。……苦しい……」



それが、俺の人生の最期の記憶だった。



季節は夏、日付は忘れたが、間違いなく8月の灼熱日。


エアコンは半年前から沈黙を貫き、部屋は不法投棄レベルのゴミで埋もれていた。


水もない。風もない。ゴミ袋の山が湿気を吸って膨らみ、俺の可動域をさらに圧迫した。



結果として、俺は脱水とエコノミークラス症候群、そして圧倒的な悪臭により、ひっそりとこの世を去った。



目覚めたとき、暗闇の中に光の粒子があった。まばゆく、そしてどこか懐かしい。



「おい、聞こえるか。おい、君。……しかし、なんというか、くさいな君」



「……うん。ここ、どこだ。あんたは……」



「私かい? 私は神様だよ。うっかりとはいえ、ずいぶん不本意な死に方だったようだね」



辺りを見渡しても一面の闇。静寂の中にただ光の粒子と、神様の声が響く。



「それでね。目覚めてすぐでわるいんだけど、君…転生者リストに載っているんだ」



「転生者リスト?」



「そう。転生者リスト」



「と…いうことは、すごいチート能力とか、そういうのを希望すれば貰えるんですか?」



「あ~君もか…。そういう転生はね。神様の中でも上位のものにしか与えられないんだ。私クラスの神には到底ムリ」



「じゃあチェンジで」



「はぁ……チェンジなんてムリだよ」



「えーじゃあ転生先とか選べるんですか?」



「それも無理だね。今回の場合の転生は、本来死ぬ運命だった人物の人生を引き継ぐ、という形式。つまり依り代だね」



「依り代って……」



「つまり、誰かの人生に途中から乗っかるってことさ」



「……設定重すぎないですか、それ」



「まぁこのパターンがいちばんハードモードだけど……いちばん“やりがい”もあるよ」



「最後聞き取れなかったんですけど?」



「いや、なんでもない。で、何か欲しい能力ある?」



俺は真剣に考えた。自分に欠けていたものを。



「……片付けができる能力をください」



「そんな能力はないけど、じゃあ片付けるときにナビゲーションをしてくれる精霊をあげよう。じゃ、よろしく」



そう言って光は消えた。


もう少し交渉しておくべきだったかもしれない――。



気が付くと、俺は知らないベッドに横たわっていた。


雰囲気からして、中世ヨーロッパっぽい。どうやら転生は本当にしたらしい。



ズキン……



頭が痛い。記憶が、流れ込んでくる。



これは依り代だったクレストという人物の記憶だ。


あまりにも気持ち悪くて、何度も吐いた。


自分の中に他人の記憶が入ってくる――これは、二日酔いの5倍は不快だった。



どうやら俺の依り代クレストは病弱な青年で、18歳になってすぐ、食中毒で亡くなったようだ。



両親は戦争で死に、兄は財産だけ奪って他国に逃げた。


残されたのはボロ屋敷と15エーカーの農地、そして大量の道具類。



使用人も解雇され、広い屋敷にひとりぼっちだった。



……あれ、なんか前世と重なる。胸が痛くなるのは気のせいだろうか。



そして、心の奥から小さな声が聞こえた。



――「生きたい。生きたい。生きたい……」



彼の想いが、今の俺に重なっていた。



「そうだ。俺だけの人生じゃない。やってやるさ」



そのとき、ふと目を閉じると――



光の玉がふわりと目の前に現れた。



「よっ。オイラは精霊。神様に聞いただろ? 君が片付けるとき、ナビゲーションするって」



「ナビゲーションって具体的には?」



「そうだね。整理整頓と掃除のテクを教える感じかな」



「……それだけ?」



「君、整理整頓と掃除なめてない?」



「いや、でもさ。チートな武器スキルの方が……」



「ふふふ、甘いな。まあ見てなよ。勉強でもケンカでも、困った時はオレっちに“これ整理整頓でなんとかならない?”って聞いてみな」



「OK、わかったよ。ところで名前はないの?」



「名前はね、縛るからつけないの。だから“精霊タン”でいいよ」



「精霊タンね。よろしく」



「じゃあ用がある時は、目をつぶって心の声で呼んでよ。待ってるぜ」



「ありがとう、精霊タン」



――こうして俺は、「片付けスキル」と「謎の精霊タン」とともに、新しい人生を始めることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る