離れた旧校舎〜集められたのは、天才の15人

Veroki-Kika

1−1 新学期

ここは星野宮私立中高一貫校。三重県亀山市(実際にはありません)のうち、随一の有名難関校。

『えー。皆さん、今年も新学年を迎えられたことを、我々教員は、とても嬉しく感じております』

4月1日。普通より早い始業式が始まる。

『中には、点数が悪かったせいで、退学した生徒もいるかも知れませんが、皆さんはああならぬよう、今年一年、有意義に…』

校長の話を、皆が真剣に聞いている中、数人の生徒は集中力を切らしていた。

そのうちの1人、星野夜月ほしのやつき

淡い緑の髪は、肩くらいまで伸ばされていて、背も低く小柄。一見すると少女だが、彼は立派な男子生徒。

月は、ぼんやりと椅子に座りながら窓から見える青葉を見ていた。

爽やかな青空。本当なら、今すぐに駆け出して走りたいような良い天気なのに、なぜ自分は部屋の中で椅子に座ってよくわからないが長い話を聞かなければならないのか。

そんなことを考える。

もちろん、話の内容は一切頭に入っていない。

ただ、ぼんやりと座っているだけだ。

「ねぇねぇ、月」

隣からこそっと声をかけられた。

長い青髪を2つにくくっていて、前髪がぱっつん。

肌が青白い1人の少女。

月の友達、澄野四ツすみのよつばだ。

四ツ葉も話に飽きたらしく、月に話しかけたらしい。

「ねぇ、今日の放課後、お団子食べにいこーよ。美味しいとこ、できたんだって」

四ツ葉は大の甘い物好き。月も好きだが、四ツ葉には敵わない。

四ツ葉の髪留めも、みたらし団子の飾りがついている。

「いいよ。それなら、咲人くんも誘わない?」

「いいけど…あいつOKするかな?」

月は一つ前に座る赤髪の少年の肩をトンっと叩く。

「咲人くん、今日の放課後、団子食べに行かない?」

「おっけー。いいよ。四ツ葉もくんの?」

「うわっ二つ返事!意外…」

四ツ葉が驚いたような顔をした。

彼は明石咲人あかしさきと。月とは小学5年生の時から一緒。

「うん。美味しいって噂のお団子屋さんなの!」

「おっけー。また連絡して」

「うん。わかった」

そう言って咲人は前を向いた。

月はまた退屈そうに外を眺める。

空の上で、トンビが気持ち良さそうに飛んでいた。

『えー。皆さん、こんにちは。星野宮私立学園の理事長・青春美晴あおはるみはるです』

1時間の校長熱弁トークが終わり、次は理事長・青春美晴の番となった。

美晴は今22歳。超若手だ。月が今中学3年生の15歳。四つしか変わらない。

月がふと視線を戻す。

「あ…」

美晴と目があった。

気のせいかもしれない。だが、美晴の目は、確かに月1人をとらえていた。

強い目力。

月は思わず引き込まれそうになるが、グッと堪えて目を逸らす。

美晴はそれを見て少し目を細めた。

だが、そのまま全校生徒に視線を戻す。

「咲人」

「ん?なに?」

咲人は何もわからないようなセリフをいうが、四ツ葉には彼が四ツ葉の言いたいことを理解していることがわかっていた。

「あの理事長、月のこと見てたよね」

「あー。あの変態か。そうだな」

2人は月にバレないように月の方へと視線を向ける。

相変わらず青い空を見上げている月。

「まっ。こんな天才のこと、誰でも目に映るだろ」

「そーだね。実際、あいつに目をつけてるみたいだしね。その中でも、やっぱり月が目立つのかな?」

「そりゃそうだろ。月のあの才能。あいつは裏の顔もあるからな」

「裏の顔?」

「ああ。美晴のやつ、月のことに目をつけてる」

「……わたし、絶対に、月を守らないと」

そんな会話をしながらも、咲人はバッチバチの殺気を美晴に向けていた。

1時間後。理事長熱弁トークが終了。

『児童生徒の皆さん、各自教室に戻ってください。ですが、………さん達は、残るように』

「えっ?」

月達は声を上げる。

自分たちの名前も入っていた。


数分後。体育館には、15人が残っていた。

前には、男と女が立っている。

「突然すまない。国家保護推奨委員会代表の月野熊つきのぐまだ」

「同じく副代表、蛍光希よ」

「君たちの担任になった」

「……はっ?」

15人の声が重なる。

「君たちは、国家秘密要注意人物に当てはまったのよ」

(何を言っているんだ)

心の中のセリフまで合わさる。

「君たちは、各自素晴らしい才能を持っている。それは良いことなのだが、君たちの能を上手く使えば、国家転落まであり得る」

月野熊は一人一人を見ながら語る。

「そこで、君たちは旧校舎Sクラスとし、私と蛍が監視するようになったのだ」

「いきなりそう言われても…」

「そんなこと言われたって、」

咲人が一歩前に出た。

(咲人くん…)

(やる気だ!)

月と四ツ葉は目を合わせる。

「俺らの能力、中3の能力如きで国家転落?何言ってんだ。そんな雑魚い国家ならすぐ滅んでんだろ?それにいきなりSとか何言ってんだ。監視ってことはまるで俺ら犯罪者か?そんなわけねーだろ。それに旧校舎ってどんくらい遠いと思ってんだ。この本校舎から3km40m。運動苦手なやつのことも考えろよ。3kmだぜ?例えば俺の家からまずこの学園まで6km89m。つまり合わせたら9km129m。登校だけで9km!歩くんだぜ?つまり往復合わせると 18km258m。そこまで歩けって?ここにいる家が1番遠いやつは登校だけで18km。中3にここまで歩かせんのか?というか、俺らの能力は別に監視するほどのものもないし、お前ら国家にも関係ない。国家がそこまで俺らを監視したい理由と、どうすれば国家が転落するのか、もっっと具体例が欲しいんだけど」

咲人はものすごい早口で捲し立てる。

月は苦笑いだ。

(咲人くん、早口で相手を捲し立てるの得意だからな…)

月野熊と蛍は完全に怯んでいる。

「いろいろあるだろう。だが、頼む。そうしないと…………

お前らが殺される」

「!?」

「お前達の能力が世間にバレれば、当然利用しようとするもの、目障りと思うものも出てくる。そういうものを防ぐためでもあるのだ」

月達は目を合わせる。

しばらくすると、月は少し前に出た。

「わかりました。ですが、いくつかの約束は守ってもらいたい。

一つ、少々の遅刻を許すこと。

二つ、僕たちのことを、許可なしに国家に差し出さないこと。

この二つで、了承しましょう」

「わかった」

月の瞳には、強い意志が宿っていた。

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