第54話 私たちは愛の使者

 奈央と結斗のだいしゅきホールドウォータースライダーのあと、四人は流れるプールエリアにやってきた。


 奈央はレンタルした特大の浮き輪に座り、両手を広げて優雅にぷかぷか。

 その目元には、いつの間にかサングラスまで装備していた。


「お前……そのサングラス、いつ用意したんだよ。てか、室内プールなのにそれ必要か?」


 結斗は呆れ顔で奈央の浮き輪の端に頭だけ乗せ、体は水に浮かべながら流れていく。


「雰囲気重視」


 と、奈央はドヤ顔で一言。

 結斗は「意味がわかんねぇよ」とため息をつくが、どこか楽しそうだ。


 後方には、ビーチボールを無理やり浮き輪代わりにしている真也と柊の姿があった。

 二人ともチラチラと結斗と奈央を見ながら、ほんのり頬を赤らめている。

 おそらく先程の結斗と奈央のだいしゅきホールドウォータースライダーを見たからだろう。


「恋人って、なんか……すごいね……」

「それな」


 二人は小声で頷き合う。



 そして流れるプールでまったりしたあとは食事タイム。自動で波が出来る人口砂浜の周りをぐるりと取り囲むように並んでいるフードコートへ。


 どの店も結構な人が並んでいて、席も空いてる席はまばら。誰かが席を確保して、他の人が買いに行くのが定石だろう。

 しかし──


「ここで男子だけで買いに行くと、残った私たちはナンパされる」


 奈央が真顔でそう言い出した。


「七瀬ちゃん!? ナ、ナンパなんてほんとにあるの!?」


「ある。結斗の部屋にある本で読んだ。地味巨乳とスレンダー活発系美少女。狙われない理由が無い。結斗の部屋にある本ではそうだった」


「俺の部屋のって言う必要なくない?」


「ついうっかり」


「この野郎。でもまぁ、奈央が言ってるのも一理ある。だろ? 真也」


「んあ? お……おう! 確かにそうだな!」


「え、真也……それって私のこと、美少女って思ってるってこと?」


 柊が期待を込めた目で真也を見上げる。


「あ……あぁ。琴子はその、可愛いと……思うぞ……」


「〜〜〜〜っ!?」


「ん、行こ。さっさと行こ」


 ラブコメの波動を感じた奈央は、結斗の腕を引いてさっさと歩き出した。柊と真也も顔を赤くしながら二人についていく。


 というわけで、結局全員でフードコートに向かうことに。


 行列に並ぶ途中──

 奈央の耳に、後ろからチャラい声が聞こえてきた。


「あの子たち、可愛くね?」

「メガネの子、シャツで隠れてるけど、めちゃくちゃ胸あるぞ……」

「ポニテの子もなんかめっちゃ可愛いな。でもどっちも男持ちか」

「関係ねぇよ。歩いててちょっと当たっちまうのはしょうがないっての」

「だな、行こうぜ」


 そして男たちは、奈央や柊にわざとぶつかろうとしてくる。


「ふっ──あまい」


 奈央は片足を結斗の足の間に入れ、同時に腕を引き、くるりと体を回して一瞬で結斗と位置を交換して回避。

 柊は咄嗟に真也に抱き寄せられ、ぶつからずに済んだ。


「大丈夫か?」

「……っ!」


 真也の腕の中で柊の心臓は爆発しそうに高鳴る。

 そして感情が抑えきれなくなった柊は、ポロリと口にしてしまった。


「……ほんと、こういうとこ……好き……。」


「──っ!?」


 真也は目を見開き、しばし言葉を失う。

 やがて結斗と奈央に一言、


「悪い、ちょっと抜ける」


「あっ……真也?」


 そう言うと、柊の手を引き、列から離れて歩き出した。



「おーおー、やっと行ったな」


 そんな二人を見送りながら結斗はニヤニヤ。


「適当に買っておく。ジュースの氷が溶ける前に戻ってきて」


 奈央も小さく手を振って見送った。


 二人は食べ物を買い、席を確保して待っていると、やがて、真也と柊が戻ってきた。

 しかも、恋人繋ぎで。

 柊の顔は真っ赤で、目元には涙の跡が残っている。


(……嬉し涙か)


 結斗と奈央は無言で視線を交わし、頷いた。


 そして、席につくや否や、真也が宣言する。


「俺たち、付き合うことになった!」


「も、もう言うのぉ!? 恥ずかしい……!」


 柊は慌てて真也の腕を叩く。


 すると奈央が胸を持ち上げるように腕を組み、サングラスをクイッと指で押し上げ、神妙な顔でこう言った。


「ん、実は私たちは二人をくっつけるために来た愛の使者。そして二人はくっついた。……じゃ、もう帰っていい?」


「台無しだよ!!」


 そして、結斗が全力でツッコむのだった。


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