第47話 映画館は神聖な場所であると、誰かが言った

 映画館のロビー、シアター前の売店。

 唯斗と奈央は真剣な表情で注文をしていた。


「ポップコーンは塩だろ?」


「もちろん。それが一番」


「ドリンクは?」


「ジンジャーエール。シュワッとしたのがいい」


「おっけ。さすがだな。俺はコーラだ」


 打ち合わせ済みかのように、無駄のないやりとりで購入。

 トレーに載ったポップコーンとドリンクを丁寧に受け取り、シアター内へ。


 静かに、そして姿勢正しく座席に腰を下ろす2人。

 座席のドリンクホルダーに慎重にトレーをセットし、肘掛けの主導権は自然と交互に。


 スクリーンに映る“静かに”のマナー映像に、2人は心の中でうなずいていた。


 映画館は神聖な場である。


 これは二人の暗黙の了解だった。


 ・上映中に手を繋ぐ?

 →しない。

 ・ドリンクの回し飲み?

 →菌がどうとかじゃない。そういう問題じゃない。

 ・こそこそ話す?

 →映画に集中してない人のすることだ。

 ・イチャイチャする?

 →家でやれ。


 映画館は映画を楽しむ場所である。当然の事だ。


 やがて照明が消え、静寂に包まれた空間に、ただスクリーンの光だけが揺れる。


 物語が始まり、やがて物語が終わる。


 エンドロールが流れ始める頃には──二人とも自然と背筋が伸びていた。



 ◇◇◇



 エンドロールを最後まで観たあとすぐに席を立ち、ゴミが落ちていないかを確認すると、並びを崩さないようにロビーの物販エリアへ。


「パンフレット、表紙いいね」


「うん。紙質も凝ってる。これは買い」


 結斗は推しキャラのキーホルダーを手に取り、奈央は劇中の音楽CDをチェック。


 そのとき、ショーケースの一角に目を留める。

 人気キャラのぬいぐるみが数個だけ並んでいて、近くには小さな子供たちが集まっていた。


「ママー、これ欲しい〜!」


 奈央もそのぬいぐるみに目を向けるが──手を出さない。

 そして静かに微笑む。


「……そう。それでいいの。推しは、推せる時に推して。あなた達に譲るわ」


 結斗はそんな奈央の姿を見て、無言でただ、頷いた。


 ◇◇◇


 その後、ショッピングモール内の落ち着いたカフェに移動した二人はコーヒーを注文し、隅の席に腰を下ろす。


 そして──椅子に座った瞬間。


「まずはあのバトルシーンから」

「あれな! 俺、あのセリフ鳥肌立ったわ!」

「分かりみがマリアナ海溝並に深い。私も震えた」


 ダムが決壊したかの如く喋り出す二人。


「それに演出も最高。作画もいつもより二……んーん、五割増しで力入ってた」


「あと背景! 爆風の中の影の描き方、えげつなかったよな」


「BGMの入り方も最高。ピアノが一瞬止まってからのあれ、ずるい!」


「あと、エンディングの入り。完璧すぎて、もはや反則」


 コーヒーの湯気が立つ中、2人は熱量の高い“感想戦”を繰り広げていた。

 他の客には、まさかこの美男美女カップルがアニメ映画の演出について語っているとは思われないだろう。


 時折、結斗が口にする考察に奈央が感心し──

 逆に奈央が語るマニアックな作画の話に結斗が「なるほど」と唸る。


 まるで“戦友”のようなその会話。


 しかし、そんな空気が心地いいと思えることに、結斗は幸せを感じていた。


 その時、奈央がふと結斗のカップに目をやる。


「それ、一口飲んでいい?」


「いいぞ」


 奈央はカップを手に取り、口をつけ──ごくり、と一口。


「ん、これもおいし。私のも」


 そう言って奈央は自分が頼んだのを結斗の方にずいっと押し出す。


「お? これも美味いな」


「でしょ? ふふ、味覚が一緒なの嬉しい」


 そんな奈央の無防備な笑顔に、結斗は「映画より心臓に悪い」と、小さく呟いたのだった。




 ▼▼▼

 最近暑いですね。みなさんも熱中症にはお気を付けて。

 私は連日の猛暑にちょっとダウン気味です。

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あ、〇滅の映画、めっちゃみたい……

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