第34話 人は見かけによらない?
「……おっ、範囲出たな。夏休み前テスト」
担任の板書を写し終えた俺は、伸びをしながらノートを畳んだ。
「よっしゃ。テストはだるいけど、午前中で帰れるのは最高〜」
なんて、軽やかに言いながら下校したその足で、いつものように奈央と一緒に部屋へ。リュックを投げて、クーラーの効いた部屋にダイブ。
隣では、奈央が無言でソファに腰を下ろし、ペットボトルのお茶を開けていた。
俺はそんな奈央の様子に首を傾げる。
「なあ、さっきから無言だけど……。疲れた?」
返ってきたのは──
「……夏休み中、私はきっと補習」
静かで、でもどこか諦めのこもった低い声だった。
「補習って……あ、成績ヤバい感じ?」
「だから、夏休み中のお昼ご飯は、自分で作って食べて」
目にハイライトがない。
肩からは黒いオーラすら立ち上ってるように見える。
「ちょ、ちょっと待て。そんなヤバいのか? 成績」
奈央は無言で、俺に向かって小テストの答案用紙を差し出す。
それに目を通した瞬間──固まった。
「おまっ……っ! 名前書いたら加点されるレベルでこれって……!」
そこには、赤点どころか“底なし沼”と化した点数が堂々と。
「学校じゃメガネにお下げに無表情で勉強出来そうに見られる格好なのに!」
奈央はゆっくり髪をほどき、ふわっとなびかせ、ソファで足を組み、挑発的な表情になる。
「どう? この見た目なら、勉強できなさそうでしょ?」
「アホかぁああああ!!」
「だ、だって見た目で勉強出来そうとか判断するから…」
「はぁ、しゃーねぇな。教えてやるよ」
奈央は不思議そうに瞬きをした。
「……結斗、そんなに出来たっけ?」
「前回の順位、見せてやろうか?」
スマホで成績表のスクショを見せると、奈央は絶句。
「……順位が上位……裏切り者め……」
その視線は、どこか恨めしげだった。
「へんな韻を踏むな。つーか最初から味方だっただろ俺は!」
そして、勉強会が始まった。
「はい、ここな。問2は“選ばれた理由”を聞かれてるから、選んだ結果じゃなくて──」
「えっと、“なぜなら〜”って書くんだよね?」
「そうそう。じゃないと理由にならん」
ノートの上で赤ペンが走り、奈央が口を尖らせながら書き込む。
「……学校の勉強なんてどうせ大人になったら使わない」
「勉強しないやつの常套句使うな」
「彼氏が冷たい」
「夏休み中に遊べなくなるだろうが」
「暑いし、どうせ部屋から出ないくせに」
「その部屋に一緒にいる時間減るだろ」
「確かに。じゃあ、赤点回避したらなんかご褒美ちょうだい」
「回避できたらな」
「うん」
奈央は一瞬唇を噛んで、それから小さく頷いた。
「じゃあ……結斗のためにも、頑張る」
「いや、お前のために頑張れ」
「わかった。将来の私たちの子供に勉強を教えられるように頑張る」
不意打ちの一言に、手が止まった。
「……あー、もうっ……そういうの反則だろ……」
奈央はくすくすと笑って、再びペンを走らせる。
ただ…………ほんとに大丈夫か?
俺は奈央の答案を見て、何故か不安がよぎった……。
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