第14話 ずっとそばにいたよ

「……ん……あっつ……」


 汗でシーツがしっとりと湿っている。

 喉はカラカラで、体はだるく、頭もぼんやり。


 さっきよりも熱が上がっているのがわかる。


「やっぱり……また、熱上がっちゃったね」


 どこかから聞こえた声に、俺はうっすらと目を開けた。


 視界の端に見えたのは――

 真剣な顔つきの七瀬だった。


 いつもの軽口も冗談もない、心配がにじむ表情。


「すごい汗……ごめん、ちょっと着替えさせる」


「ん……」


 返事もまともにできないまま、俺は体を預ける。

 Tシャツをめくり、そっと脱がせてくれる指先が

 熱のせいか、やたらと冷たく感じた。 


 着替えを終えると、七瀬は俺の汗を拭いたタオルや脱いだ服をまとめて、すぐに洗濯機に放り込んで戻ってくる。


「……今日は、泊まるから」


「え……?」


「何かあっても、すぐ対応できるように」


 いつもより静かで、落ち着いた口調。

 その一言に、どれだけ俺のことを心配してくれているのかが、熱で鈍い頭でも、なんとなくわかった。


 


 ◇◇◇


 


 深夜――


 冷えピタを貼り替えられる感触で、俺はまた浅く目を覚ました。


 氷枕も交換されていたらしく、寝返りをしたときに頬に当たる部分が冷たくて気持ちいい。


 視線をずらすと、そこに七瀬がいた。


 目の下には少しクマが浮かび、疲れているはずなのに、彼女は静かに微笑んでいた。


 


「……大丈夫? 少し、熱下がったみたい」


「……お前……寝てないだろ……」


「ちょっとだけ寝た。何かあったらすぐ起きられるように」


「バカかよ……」


「うん、バカかも」


 そう言って、七瀬は俺の手をそっと握る。


 手のひらから伝わる温もりが、薬よりも効いてる気がして、俺は目を閉じた。


「……何かあったら言って。ここにいるから」


 優しくて、どこか切ないその声は、夢と現実の狭間で、いつまでも耳に残っていた。



 ◇◇◇



 翌朝。


「……ん……」


 体を起こすと、熱は落ち着いていた。

 頭の重さもだるさもあるけど、明らかに昨日よりは楽になっている。


 部屋を見渡すけど七瀬はいない。

 さすがに、もう帰ったか。

 そりゃそうだよな。


 と思った瞬間。


「はい、おはよう」


 キッチンから現れたのは――エプロン姿の七瀬。


 


「えっ?」


「朝ごはん、作ってから帰ろうと思って」


 トレーの上にはおかゆと味噌汁と、それに卵焼き。


「今日も学校休んで。まだ本調子じゃないし」


「……まあ、正直まだフラつくけど。お前こそ、寝てないだろ? そんなで大丈夫かよ」


「大丈夫。さすがに今日は学校行かない。じゃないと色々言われそう」


「悪いな……」


「でも、心配しなくていい。何かあったら、すぐ連絡して。すぐ来る。体育中だったら運動着で来る」


「……お前、ほんとに……」


 俺が何か言おうとすると、七瀬はそっと微笑んで口を挟んだ。


「じゃ、行ってきます」


「……気をつけてな」


 


 ドアが閉まったあと、俺は布団に身を戻して天井を見上げた。


 昨日までの苦しさが嘘のように消え、今はただ、胸のあたりが、やけにあたたかかった。

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