異世界転生あかり

ゆう

一章【全ての始まり】

第1話 見知らぬ光景が広がっていました

ざわざわと、人によっては耳障りな音が鳴り止むことを知らないようにずっと、ずっと響く。


 「ねぇ聞いた?第二の地球だって」


 「知ってる!朝テレビで見たよ。行けるとなったら何年後になるんだろ」


 「おい、朝のニュース見たか?第二の地球!夢があるよな〜」


 「魔法使える世界とかないかな?」


「ねぇだろそんな、どこぞの漫画じゃないんだから」


 足跡と共に声が耳に入る。これから学校に行く女子高校生や仕事に行くサラリーマン。人々は生きるために足を運び、自ら憂鬱の場所へと赴くのだ。


 『昨夜、第二の地球と呼ばれる地球に似た惑星が発見されました。これはこの先人類の─────』


 ビルの真上に大きく映るスクリーンにニュースが乗る。女性アナウンサーがテレビに手で文字を指しながら淡々と話す。


「第二の地球…」


 してはいけないと分かっているがしてしまう歩きスマホをしている茶色髪の少女は、その単語に反応しスクリーンを見上げた。

 つい見入ってしまい、スマホから鳴る通知音に気づきスクリーンから目を離しスマホを見る。

 通知の正体は友達からのメールであった。『■■駅で待ってるからね!』と可愛らしい猫のスタンプと共に送られれている。

 『うん、遅刻しないから安心して』と送りスマホの電源を切る。


 少女は数分歩いて、駅に入り電車を待つ。

 高校生になって早くも一ヶ月が経つが、苦手な電車には毎度迷いそうになるのが悩み事だ。


「─────」


 スマホに親指を動かして、検索欄の所に文字を打ち込み漫画を検索する。高校生になってから忙しくなったため、隙間時間である電車の待ち時間には、漫画を読むのが恒例となっていた。


「────神に」


 一つの声が耳に入る。後ろからだろうか、前からだろうか。それとも右から、左から───


「祈りを」


 ───背後からだ、とそう確信したと同時に背中に衝撃が与えられる。

 その衝撃は力強く、少女は咄嗟に「あ」と声が漏れる。持っていたスマホが手からずり落ち、足がふらつく。

 

  ────やばい、やばいやばいやばい!


 『まもなく右側に───』


 アナウンスの声が聞こえ信じ難い光景に必死に抗おうとする。

 自分は今空中にいる。背中を押され線路に、線路に───落とされた。


 電車の接近音が耳に入る。それと同時に周囲から叫び声が聞こえ、電車のクラクションが頭に響き、恐怖が体全体を襲う。


「───あ」


 落下、落下───そして目の前に広がるのはライトを照らした電車。


 鈍い音が響く、駅に。音が───


 ◇◆◇◆


 何故落とされた?何故自分を突き落とした?何故殺した?

 何故、何故、何故、何故、何故─────


 気持ち悪い、頭が痛い。ここはどこだろうか。

 必死に固まったように動かない体を無理やり動かし、自分の顔に触れる。顔はある。あるはずだ。触れた感覚がしたはずなのにしない。どういうことだ。何が起きたんだ。

 頭の中で思考をしていると頭に耳鳴りが、がんがんと響きより痛くなる。

 助けてくれ、そう叫びたいのに口が動かない。ただ、痛みが、痛みが思考を止めさせる。

 体が熱い、血管を通っている血が速くなるのを感じる。息が出来ない、喉はあるはずなんだ。なのにどうして─────


「大丈夫?」


 案じる声が耳に入る。

 それを聞いた途端、痛みから、苦しみから解放され意識が戻る。自分の体を確かめたい、自分を突き落とした人は誰なのか、声をかけた人は誰なのか。確かめたい一心で、一度開けることが出来なくなった瞼を開ける───


「───あ」


 ゆっくり目を開けると見知らぬ光景が広がっていた。

 広い草原、雲ひとつ無い青空、ここは何処なのかを確かめたくなり寝転んでいた体を起こす。


「自分は確か───」


「あ!起きた!大丈夫?」


「え?ってうわ!」


 背後から声がし咄嗟に距離をとる。

 先程、背後からした声し後ろを振り返ろうとした瞬間に突き落とされた事が恐怖になり、反射的にそのような行動を取ってしまった。


「うん、元気そうだね」


 恐る恐る顔を上げ自分に話しかける人を見る。


「貴方は…?」


 そこに居たのは、幼さもあり愛嬌がある顔が整った少女だった。腰まである美しい白髪を低い位置で二つに結び、宝石のような琥珀色の目でこちらを見つめている。

セーターの中にシャツを着て、黒いミニスカートを履いている。そのような服装は学生のようであり、彼女のスタイルの良さが分かる。

 身長は恐らく百六十五ほど。日本女性の平均より高い。


「あぁ、ごめんね!急に話しかけられてびっくりしちゃうよね」


 彼女は少女に手を伸ばし口を開く。


「私はルナ!ホシノ・ルナ。気軽に呼んで!」


 満面の笑みを贈る彼女───ルナの手を取り立ち上がる。知らない人だが、自己紹介をしてくれたのにも関わらずこちらはしないのは非常識だろうと思い自分の口を開ける。


「私は川本あかりです。あかりって呼んでください」


「アカリちゃんね!色々と話を聞きたいことはあるけど、まぁ、自己紹介も大切だよね」


 そう言ったルナはある一本の大きな木に指を指す。


「あれが、私の姉!」


 少女───アカリは彼女の指を指す先に目線を動かせ、ルナが言う人を見る。その人は木に隠れており、黒髪がちらちらと見える。


「目が覚めたのか、よかった。すまないが少し君を警戒していた。けれどそれは必要なかったようだね」


 木から出てきた彼女は足を前に運びアカリの前に立つ。ここは美女しかいないのか、と疑問に思うほど彼女は美しかった。

 ルナは可愛い女の子であり、彼女は美しい女性である。黒い髪を高い位置で一括りにし、右目を白い眼帯で隠している。

 キリッとした目で宝石のように美しい紫目でアカリを見つめる彼女は口元に笑みを浮かばせ、目を細めて微笑んでいた。

 身長は恐らく百七十はある彼女の服装は、黒いジャージに肩から裾まで白い線が入っている。シンプルな服装だが、同じく彼女のスタイルの良さが分かる。


「私はホシノ・ルカ。ルナの双子の姉だ。双子と言ってもまったくと言っていいほど似ていないけどね」


 眉を八の字にしそういうルカ。彼女言った通りルナとルカは似ていない。確かに小さい鼻や唇の形はよく見てみると似ているが、髪の色、目の色、目つきなどまったくと言っていいほど似ていない。


「あ、ルナさんにルカさん…よろしくお願いします」


 目の前に立つ美少女に倒されそうになりながらもアカリは頭を下げる。


「あの…いきなりで申し訳ないんですけど…」


「気になることがあるなら何でも言っていい」


 躊躇しているとルカは笑顔でそう言う。彼女の優しさに心が温まりながらずっと疑問に思っていたことを口にする。


「ここ、どこですか?」


「────あ、ここ?ここはルネラルド学校の敷地内だよ。今は見えないから分かんないと思うけど」


 少し沈黙の時間が過ぎルナがそう言うとルカは頷く。

 学校の敷地内、と言われてもそこには何も無い。広い草原が広がり、所々に木がある。それだけだ。


「見えない…ってどういうことですか?」


「隠匿魔法で学校を隠しているんだよ。不法侵入されない為にね。」


「それは他言無用なはずだけれど…」


 アカリの疑問にルナは腕を組み話すとルカはため息を吐く。魔法、と聞きアカリは「魔法!?」と大きな声を上げてしまう。咄嗟に両手で口を覆い、わざとらしく咳をする。


「ま、魔法って…漫画みたいなこと言いますね」


「この世界では魔法が使えるんだよ」


 この世界、ということはどういうことだろうか。

 ───まさか、異世界?

 自分は一度死んだ。死んだはずだ。なのにどうして生きている?体に痛みは無い、苦しさもない。逆に死ぬ前よりも元気になっている。


 よく漫画で見る異世界転生───そんな夢のような事があるのだろうか。


 考え込んでいるアカリを見たルナは彼女の肩に手を置き明るい声で話す。


「まぁ、とにかくアカリは聞きたいことがあるんでしょ?とりあえず、空き教室で話そうか」


 そう言ったルナは目を見開きルカを見る。彼女に見られたルカは唇をへの字にし、先程よりも深いため息を吐く。


 ルカは指を鳴らし、その音が草原に響く────


「───え」


 信じ難い光景にアカリは声が漏れる。

 そこに広がるのは───


「ここが、魔法学校ルネラルド学校!どお?すごいでしょ!世界で一番広いんだよ」


「が、外国…?」 


 白いレンガの外壁に青い屋根、劣塔を持つその学校は西洋風に建てられたものだった。

 目の前にある大きな噴水を囲むように四階ほどの高さの校舎が建てられ、まるで絵本から出てきたかのようだった。


「ひっひろー!!」


 アカリ達三人がいるのは噴水がある中庭。

 ───中庭だけで東京ドーム一個分はあるだろう。


 アカリの驚いた声が学校全体に響いた。

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