第34話 おばちゃん聖女、再び絶望する

「次!」


 暁の守護者が門に入る順番になった。


「あんたら、一緒に行こう」


 ライガスがそう言う。

 和代とミラは顔を見合わせて頷き、そろそろとライガスたちの後ろに着いていく。


「お前らは五人か?身分証を」


 門の兵士にそう言われたライガスは、冒険者証を兵士に見せながら答えた。


「俺たちは冒険者だ。こっちの女二人は今から登録しに行くから身分証はない。しかし、俺たちが身分を保証しよう」


 皆、驚いてライガスを見つめる。


 兵士は五人とタカオを観察し、鼻を鳴らして言った。


「フンッ。銀級パーティの暁の守護者か。女の通行料は銀貨二枚だ」


「ああ」


 そう言ってライガスは銀貨五枚を兵士に渡す。兵士は表情を変えずに言った。


「行ってよし」



 門をくぐり抜けると、和代は止めていた息をぶはぁーっと吐き出してライガスに言った。


「ほんまにありがとう!」


「別に良いぞ。それより冒険者ギルドだ。行くぞ」


 和代とミラは慌てて暁の守護者たちに着いていく。


 街を歩くと中々の賑わいだった。冒険者と思わしき者が多いのか、武器や鎧のたてるガチャガチャとした音が大きく聞こえる。店の呼び込みの声や道行く人々の話し声が聞こえる中に、屋台で焼かれた肉の匂いや不思議な香辛料の匂いが混ざる。

 石造りの家々が立ち並ぶ光景に、和代はキョロキョロとしながら足を進める。


「あんまキョロキョロすんな。おのぼりさんだと思われてカモられるぞ」


 弓使いのタルクがそう言って注意する。


「そうだよ。特にミラさんはフードを深めに被った方が良い。俺たちから離れた後に狙われて攫われたら、俺たちも寝覚めが悪いからね」


 エリオットもそう言って二人を気遣ってくれる。

 ミラはフードを更に深く被りながら答える。


「ありがとうございます」


「ありがとうやけど、うちはフード被らんでも大丈夫って事か?……ま、楽でええか」


「いや、その猫も綺麗だから攫われんようにな。フード被ってその中に入れときゃどうだ?」


 ライガスがそう言う。


「なるほどぉ。えーと、……うちは攫われへんっちゅー事か??ん?……まぁオバハンやししゃあないけどもや……」


「にゃあ」


「うるさいタカオ」


「ははっ。愉快なやつらだなぁ」


 そうこうしている間にも一行は進んで行き、気付けば西部劇で見るような小さな扉がついた、大きな建物の前に立っていた。


「ひゃー!もしかしてここが冒険者ギルドか?」


 和代は外壁に飾られた、剣と盾と炎をモチーフにした紋章を眺めながら言う。


「そうだぞ。どの街でも大体門から道標が出てるからな。これから冒険者になるんだろ?何かあってもとりあえずギルドまで着けば、大抵の事は何とかなるぞ」


「ライガス、それはちょっと雑じゃないかな?」


「エリオット!じゃあお前がやらかしてギルドに助けてもらった話をだな……」


「わぁぁ!ごめんごめん、ほら、早く入ろう!ここに立ってても仕方ないよ!」


「ライガー、後で聞かせてな?」


「ライガスだ!……高くつくぜ?」


「ほなやめとこか」


「何でだよ!」


「あっはっはっは!」


 わちゃわちゃとしながらも冒険者ギルドに入っていく和代たち。

 少しギシギシという扉を揺らして入ったそこは、しかして静けさと微かなホコリの匂いが漂う、だだっ広い空間だった。

 どうやら横には併設の定食屋のようなものがあるようだが、そちらもロープが張ってあり、誰もいない。


「冒険者ギルド!カッパロッサ支部へようこそ!!!」


 静けさを破るように、場違いなほど元気な声が響き渡る。和代たちがビクッとしてそちらに視線を向けると、そこにはリスのようなつぶらな瞳に大きな眼鏡をかけ、たっぷりとした栗毛をおさげに編んだ女性が、ニコニコしながら受付の向こう側に立っていた。


「さぁさぁ、こちらへどうぞ!!冒険者の方々ですよね?!どうぞどうぞ!!お待ちしておりましたー!!」


 和代たちは戸惑いながらもそちらへ向かう。


「ご用件をお伺いいたします!あと、依頼もございますので、宜しければ是非受けていただきたいです!!」


「とりあえずこの二人の冒険者登録だな」


「了解でーす!こちらのお二人は新しいパーティメンバーの方ですか?」


「いや、違う。俺たちは別件だ。ギルドマスターに会いたい」


 ライガスがそう言いながら冒険者カードを受付の女性に見せる。


「は、はい!ギルマスー!!」


 すると、奥からガタイの良いスキンヘッドの男性が出てきた。


「ミラちゃん、ハゲッチーノちゃうやんな?」


「和代ちゃん、見た目で判断するのは早計ですよ」


「お前ら、聞こえてんぞ?」


「ひぃ!」

「ひぃ!」


 ジロリと和代とミラを見るスキンヘッドの男性に、すくみ上がる二人。


「俺はここのギルドマスターのハーゲンだ」


「何でなん?!!」


「何だ文句あんのか」


「和代ちゃん!」


「ちゃうちゃう!ごめんごめん!文句は……神さんにはちょっとあるかもやけど、あんたにはない!あんたは何も悪ぅない!!悪ぅ……ない……」


「何か釈然としないなぁ……。ま、で、用事は何だ?」


 絶望したような顔をしてハーゲンを見つめる和代に変わってミラが答える。


「わ、私たちは、冒険者登録に来ました」


「ギルマスに用事があるのは俺たちだな」


「ん?パーティメンバーじゃないのか?」


「いや、さっきそこで会ったばっかりだ。俺たちは三人で『暁の守護者』というパーティを組んでいる。その二人は門の前で街に入る金を貸してやったんだ。魔石を持ってるらしいから買い取ってやってくれ。そして俺たちに返すように言ってくれ」


 はっはっは。と笑うライガスにハーゲンは肩をすくめて言う。


「変な奴らだな。じゃあお前らは俺について来い。茶は出せんがまぁゆっくりして行け。見ての通り暇なんだ」


 そう言って二階へ続く階段を登り始める。その途中でふと立ち止まり、振り返ってこう言った。


「おーい、ルル!そいつらの冒険者登録ちゃんとやっとけよー!」


「わかってますよー!」


 二階に向かう背中に向かって叫び返した受付の女性は、和代とミラに向かって言った。


「さ、では冒険者登録、やっちゃいましょう!!」


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