第12話 おばちゃん聖女、魔法を練習する
「魔法って…誰にでも、使えたり、する??…うちにも、あんな草とかぴゃーって生やしたり出来る?」
目をキラッキラと輝かせた和代。圧が強い。
「わ、私…の、魔法は…ちょっと違う…と言いますか…あは」
「和代様…ミラの魔法は少し特殊なのです」
「そうなん…か…」
しおしおと萎びたナスのようになる和代。
「あ、で、でも!簡単な…魔法なら、使える…かも、です!」
「ほんま?!教えて教えて!」
「は、はい!えっと…ですね、まずは…じゃ、じゃあ、光を出してみましょう!」
「光?ピッカーンて?」
「はい!ピッカーンです!こう、例えば指を出して、この指光れーって言うと…」
その時、
ピカァァァッッッッッ!!
視界が真っ白に染まった。
「ちょ、ま──わっ!? うおっまぶしっ!!」
「きゃあああっ!?」
光が、指どころかミラ本人を中心に神殿の床一面をドーム状に包みこむ。
そして、
ボンッ!
風が一気に吹き抜け、天井のホコリまで宙を舞った。
「ピギャー!!!!」と怪鳥の声も響く。
「……あ、あれっ!? こ、こんなに出るはずじゃ──」
「うぅ…」
目を押さえながら立ち上がる和代。
ミラは両手をぱたぱた振りながら、半泣きで謝っている。
「す、すみませんっ、私、いつもの感じでやったんですけど、こんなことになるなんて……」
「……まるで、太陽の中に突っ込んだ気分でした……」
「あああ…タカオ様もすみません……」
「いえ、…恐らくはあの呪いが解けたのが何か鍵になっているのでしょう。それより、和代様は大丈夫ですか?」
「あぁ、うん。大丈夫やで…」
「和代様。ミラは魔力操作をやり直しせねばいけない様ですから、我がお教えしましょう。ええ。我が」
和代は目をパシパシさせながら答える。
「何やあんた、うちがミラちゃんに魔法教えてー言うたんが気に入らんかったんか?嫉妬か?可愛いやっちゃなー。飴ちゃんいるか?」
「こほん。飴ちゃん…は、後でください。いえ、違います。先ずは魔力操作です。魔力操作!ミラ、何がピッカーンですか。まずは魔力操作でしょう!」
「は…はい…すみません…」
「和代様、簡単に言いますと、まずは身体の中の魔力を探します。大体暖かかったりドロリとしていたりしますが…そしてそれを、動かします。指先に光を集めたければその魔力を指先に集め、光らせるイメージを持たせて発動句を唱えます。この場合———」
「ピッカーン!」
ピカァァァッッッッッ!!
視界が真っ白に染まった。
「和代様ぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
「ピギャー!!!」
光がようやく収まると同時に、
ミラはその場にへたりこみ、和代は床にしりもちをつき、タカオは──無言で目を押さえていた。
「……先ずは魔力操作、と申し上げましたよね」
「……はい」
「ピッカーン!では、ございません」
「うん……その……ごめん……」
タカオは一つため息をついて、ゆっくり和代の前に歩み出た。
「魔力を感じ、流し、指先に集め、光のイメージを持ち、発動句を唱える──この工程を、私は説明している途中でした」
「説明聞きながら実践してたら、出来そうやなーって思って、つい……」
「つい!!ついで人の目を焼くレベルの魔法を撃たないで下さい!!」
バシッと尻尾で床を叩くタカオ。
「しかも発動句がピッカーン!とは。詠唱ですらありません。あれはもはや掛け声です」
「いやほら。さっき言うてたし…」
「言い訳はいりません!そしてミラさん。あなたもですよ」
「は、はいっっっ!!」
「魔力量が制限されていたから感覚がわからなかったなどという言い訳は通用しません。その分、今は出力過多になることくらい予想してください」
「うっ……申し訳ございません……」
「次にあんな光を放ったら、死の森の魔物がドン引きして逃げます」
「逆に助かるのでは?」
「それとこれとは別問題です!!!」
「すんませんでしたー!!」
「すみませんでしたー!!」
フンフンと鼻を鳴らすタカオ。
その鼻先に和代はそろそろと飴を差し出す。タカオはキッと和代の顔を睨んで飴を奪い、崩れかけた柱の上にサッと登って行ってしまった。
和代とミラは顔を見合わせ、ため息をつく。
「ミラちゃん、魔力操作教えて」
「そうですね。一緒にやりましょうか…」
タカオは柱の上で飴をゆっくり、美味しそうに舐めている。
「タカオー!お昼ご飯にせんかー?」
ふぁぁぁっと欠伸をして、タカオは和代の側に行く。
「さっきはごめんなぁ。ちょっと調子乗ってもぉてん」
「私も、すみませんでした」
「いえ、我も少し怒りすぎた様に思います。申し訳ありません」
「ふふ、仲直りやな!よし、お昼にしよ!」
そこに並べられたのは各種おにぎり、カップ味噌汁に使い捨てのスプーン、それに猫缶(まぐろ)。
ペットボトルの水や緑茶まである。
「これは…凄いですね」
「ですよねー!和代ちゃんが全部テッテレーン!って出してくれたんです!」
「せやでー!タカオは今回はこれな!まぐろのやつ!朝のとどっちが好きか教えてやー!」
「ありがとうございます」
「さ、食べよ食べよ!いただきまーす!」
「あれ、和代ちゃん、これってどうするんですか?」
カップ味噌汁を持って首を傾げるミラ。それを見て、「いゃあ!CMみたい!やっぱり美人さんやなぁ、ミラちゃんは!」と思わず言う和代。
「か、和代ちゃん?」
「あぁ!ごめんごめん!それな!このパッケージ剥いて、ほんで中身出して…っと。ここにお湯注ぐねん!そしたら味噌汁の…ってお湯か…」
「あぁ、お湯ですか…」
「あっ…………魔法で、出来たり……する?」
「へっ?魔法でですか?」
「うん。いや、まぁ、ダメ元や!やってみよ!」
カップ味噌汁の上に人差し指を出し、眉間に皺を寄せて全力で集中し出す和代。
「んーーーー、お湯が、沸きましたー!ピロピロピロ〜!!」
人差し指辺りからカップ味噌汁へ向かってチョロチョロと出始める。とても真剣な姿にミラもタカオも固唾を飲んで見守る。
やがて
「でけたー!!!!」
「おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
思わず声が揃う二人。
「見事な魔力操作でございました。…ピロピロピローは詠唱ではございませんが…午前の間に随分頑張られたのですね」
「さすが和代ちゃんです!」
「えへへへー。いくつになっても褒められたら嬉しいもんやなぁ。ほら、せっかくやし冷めへんうちに食べてまお」
「そうですね」
「はーい!」
和やかな時間が流れる。
因みに、タカオはまぐろの美味しさに堕ちたそうだ。
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