16話「羽化・孵化(2)」

彼女ボクの弟を殺した後、彼女の身体は突然現れた真っ白な繭に包まれてしまった。


あれから数日。理科準備室の隅に鎮座する繭が、とても愛おしくて撫で続けている。

(これも彼女の一部だと思うと…………本当に愛おしいな。)

あまりの愛おしさに負けて、ここ数日はこの繭を撫でてしまう事が多い。

(上の方を撫でると、稀にもぞもぞと動くところも愛おしいな。)

(…………可愛い。)

「……いつになったら出てきてくれるんだ。」

「…………結構寂しいんだけど。」

……そう呟いた事が聴こえてしまったのか、繭から音がした。


ぱり、ぱり、と。音を出して繭にヒビが入る。

ヒビが入ったところを突き破り、片方の真っ白な腕が外界こちらへと現れた。

それを見たボクはその腕を掴み、自分の方へと引っ張る。

(あ、べちょべちょしてる。)

繭の中は肉体を守る為の何かが混ざっているのかもしれない。これが終わったら繭を解剖してみよう。

引っ張っているおかげか、彼女の肉体の8割が外界へと出た。

…………繭の中のものがぬとりとへばりついているせいか、足が出てこない。

(…………思いっきり引っ張るか。)

彼女の両腕を力を入れて掴み、自分の方へと思いっきり引っ張った!!!!!!!




思いっきり引っ張ったせいで後ろに倒れてしまったが、彼女の肉体は全て外界こちらに出たので問題はない。




繭の中のものをタオルで拭いてやり、目を覚ますのを待つ。

(温かくした方がよかったり……するかな?)

とりあえず、あり合わせの毛布を彼女の身体にかけた。



少しして、彼女の身体がもぞもぞと動き出す。

「ん……んん…………。」

少し鋭くなった指で瞼を擦り、ゆっくりと瞼を上げる。

「…………お兄様……?」

「おはよう。」

「………………私……ねてたの……?」

「うん。寝てたよ。」

少しばちりとしていそうな睫毛が美しく見える。

「………………立てる?」

「た、てる……と思う…………。」

彼女の脚の形は人間のものではなくなってしまった。まるでコンパスのように見える。

(回らせたら円が描けそうだな。)

「あ、あ、あ。」

脚の先が尖っているせいでバランスが取れないらしい。

「イスに座ったら?」

「そ、そうする。」

ボクはイスを彼女の前に持ってくる。

彼女はそのイスの座面に手を置いて、跳び箱を跳ぶような動きでゆっくりと腰掛けた。



彼女が座っている間、ボクは繭を解剖する。

着ている白衣に中のものが付着しても気にしない。

(このべちょべちょとしているものは……人間の身体の羊水と似たような役割をしているのか。)

指に付いた透明な液体を舐めてみる。………………味はしない。口の中にぬとりとした感覚が生まれただけだ。

「え、ちょ、何舐めてるの?!」

「ん?繭の中の液体。」

「は…………は?」

彼女には少し見えていたらしく、驚かれた。


一度繭から後ろへと下がるように這い出て、指に付いたままになっている液体を今度は彼女の前で舐めてみた。

「み、見せなくていい見せなくていいっ!!!!」



「も〜……舐めるんじゃなくてタオルで拭いてよね。」

「ん……善処はしようかな。」

「はぁ……。」

彼女はタオルを使って透明な液体が全身が汚れてしまったボクを拭く。

正直に言うなら、立てひざの姿勢になったままでいるのは足が痛くなるが、それは気にせずに拭かれる事を甘んじて受け入れる。

「なんか、お兄様って髪が長いからさ。ちょっとだけ女の人に見えるせいで、液体で汚れられると変な気を起こしそう。」

「誰が?」

「私が!!!」




解剖やらなんやらをして、彼女がバランスが取れるものが出来上がった。

「これを着けたら大丈夫な筈。」

この繭は外側がかなり硬い。だから、その硬さと布状にしたときの長さを利用して専用の脚の先の留め具を作った。

「…………あ、なんかくっついたみたい。」

「……脚だけ中々出てこなかったのは、まだ形を作っていた途中だったのか……ごめん。」

「いや……大丈夫。作ってくれたやつのおかげで形として出来上がったみたいだし。」

彼女の脚の先は、針のような細い形から豪華な机の脚のような安定感のある形に成ったらしい。

「あ、うん。大丈夫みたい。」

彼女は普通に歩けている。

………………ところで。彼女が寝ている間、勝手に彼女に服を着せていたがいつものズボンを履かせるのを忘れていた。



ので。いつものズボンを探し、手渡した。

「あ゙〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?!?」

「ごめんちょっとだけ出てて!!」

「はいは〜い。」

ボクは理科準備室から一度出た。

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