それにしても畜生。

魔人。

1章『基点』

プロローグ「ある日の夜の話」

それは昔。それは現在

この学園が学校で、壁と床が白くて綺麗なものではなく木製で、教室の数が少なかった頃から七不思議というものはあった。

それはトイレの花子さんだったり、音楽室のピアノだったり、校庭の像だったり…………色々存在していた事を覚えている。

そして、次第に風化して存在が消えてしまった事も覚えている。


昔からある七不思議で唯一残されているのはボク理科室の天使さんだけになってしまった。

(まぁ……彼奴らとはやり方が違ったから、残れるのは当然だけど。)

七不思議、及び怪異や霊とは、悪く言えば突発的に喧嘩を売るヤクザのようなもの。だから負けたり存在を忘れられると意味がない。

ボクが忘れられていないのは、噂の中に無害という言葉がありこの学園の名前から取られているからだと思っている。

…………違うかもしれないけど。





今日は誰も噂していなかったのに、ドアが開く音が聴こえた。

「…………あの……天使さんですか……?」

「理科室の天使ならボクの事だけど……。」

「あ、えっと……!」

突然訪ねてきた生徒は焦って言葉が続かなくなってしまっているらしく、このままでは過呼吸にでもなってしまう気がしたので一度宥める事にした。

「落ち着いて落ち着いて。ゆっくり伝えよう。」

「……ふぅ……。」

目の前の生徒は一呼吸を置いた。

「あの、天使さん……。」

そう言いながら紙を見せられた。

それをチラリと一瞬だけ視界に入れる。

それには赤が沢山あった。

(…………あぁ……赤点取っちゃったのか。)

「勉強を教えてください!!!」



「あはは……いいよ。教えてあげる。」

「でも、1時には帰ってよ?」

「は、はい……!」





教えていて分かった事。それは、この生徒は覚えが良い。それでも赤点を取ってしまうのは先生の教え方が合っていないのかもしれない、となんとなく思いながら間違えているところをゆっくりと教えていく。

「あ、い、今のところ。」

「…………ここ?」

「今なんとなくで解いちゃったから……その……。」

「うん。いいよ。何度でも教えてあげる。」

この学園の七不思議が不定期に替わるのにはちょっとした理由がある。




それは、存在感を欲しい外からの怪異と七不思議が戦い、負けてしまうから。

あとは、噂されなくなってしまうから…………とか、色々とある。

「あ、やっと分かった…………かも……。」

(…………な〜んだ。かも、かぁ……。)

この生徒は社会がダメらしい。

「ここ。間違えてる。」

「え……。」

「答えを間違えてるというか…………答える欄を間違えてる。」

「うああ……。」

答えを書く欄を間違えると後が全てズレてしまうのでその反応はわかる。それはボクでも唸る。




この生徒が社会の次に苦手なのは古典らしかった。

古典は……というか国語に教えるところは無い。古典と国語は表現力と読解力が試されるので、教えても意味が無い。

「古典…………は教えられないかな。」

「まぁ……ですよね…………。」

「漢字を覚えろ、文章を読め、とか。そういう事しか言えないからなぁ…………。」

「ですよねーー………………。」




「あ、そろそろ1時になるみたいなので帰ります……!」

「ん、忘れ物しないようにね。」

「は、はい…………!」

「…………。」

理科室から出て行く生徒の、次第に遠く小さくなっていく背中を眺める。



(…………。)

見えなくなったところで、理科室のドアを閉めた。

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