※ 30日目 焦らし責め、或いは懇願

「ドライバー取ってください」


「はい」


「ありがとうございます」



30日目。

朝のシャワー、朝食、ハーブのお世話を終えて。

アタシは今ベッドを組み立てている。

梓さんの家には布団があって、寝るのにベッドは必要ない。

このベッドは……アタシを拘束する為の物だ。


いつの間に手に入れたのか、金属のフレームを組み合わせて作るこのベッド。

四隅に枷を繋ぐポールがあって、完成したらアタシはこのベッドに大の時で四肢を拘束される事になる。

不器用というか不慣れというか。こういう作業が苦手な梓さんに変わってアタシが組み立てている訳だけど……これから自分を拘束し、抵抗力を封じ、アタシを好き放題弄ぶ檻を自分で作っていくのはドキドキして……そして妙な罪悪感や背徳感で心臓に悪い。



「よいしょっ……と。ふぅ」



組立が完了して、一仕事を終えて額の汗を拭った。 



「ありがとう沙耶ちゃん。お布団敷くわね」



痛くない様にという配慮か革張りシートの上に布団が敷かれた。

梓さんの匂いで余計に興奮しそうだ。或いはそれを狙ってるのか。



「服を脱いで横になって?」


「は、はい」



裸になって、ベッドに寝転がって四肢を広げる。

梓さんはアタシの手足に四隅に繋いだ枷を伸ばして、嵌めて、引いて撓みを無くして固定していく。

アタシは手足をピンと伸ばして動けなくなって、梓さんに身を委ねる事しかできなくなる。



「ん……いいわね。可愛いわ」



梓さんは満足気に微笑んで、アタシの頭をよしよしと撫でてくれた。



「こんなふうに沙耶ちゃんの手足を拘束して弄ぶのが夢だったの。

大の字の拘束って無防備で、それでいて被虐的で……でも、後ろ手の拘束と違ってスペースや道具も必要だから躊躇っていたの。思い切って買って良かった」


「……そう、ですか。はい、分かる気がします。今、とても頼りなくて心細いです」


「ふふ、嬉しい。でも、まだこれからよ」



そう言って、梓さんは視界を封じるアイマスクをかけ、口にボールギャグを押し込んだ。



「んっ……んぐっ……」



これで視界と言葉を封じられてしまった。



「ふふっ、似合うわ……とっても可愛い」



衣擦れの音がして、アタシと同じ様に裸になる気配がした。



「さあ、いっぱい遊びましょうね……」



声を弾ませた梓さんの手はアタシの肌を撫で擦る。

鎖骨から脇腹、腰と足の間。……大事な所には刺激をくれないで周囲を擽って焦らす意地悪な手つきだ。

焦らされている感覚はじわじわとアタシを昂ぶらせていくけど……でも、一番欲しい所には触れてくれない。



「ん……んっ……」


「あら、どうしたの?」



分かってる癖に、梓さんはアタシが言葉にしておねだりするまで絶対にしてくれない。



「ふふ、お口塞がれてるから言えないわよね」


「ん……んぅ」


「でも分かるわよ? 沙耶ちゃんの事なら何でも。

だから、して欲しい事があったらちゃんと言ってね?」



そう言って、梓さんはまた焦らしを再開した。

ああもう、本当に意地悪な人だ。

でも、そんな意地悪な所も含めて好きなのが惚れた弱みと言う奴か。



「んっ、んぅっ……んぐっ……!」



身体を揺らして身悶えて、どうにかこの疼きを誤魔化そうとする。

でも全然収まらない。普段よりもずっと疼いてる。

そんなアタシを見てくすくす笑って、梓さんは悦に浸っている様だ。



「あはっ、可愛いわ沙耶ちゃん。もっと虐めたくなってきた」


「んんっ……!」



弱い所をカリカリと掻かれて、耳にふっと息を吹き掛けられて。

それだけで敏感になったアタシの身体はビクビクと震えて反応してしまう。



「気持ち良いみたいね」


「んっ……!」



耳元で囁かれる低い声がぞくりとする。



「可愛いわ沙耶ちゃん……ほら、もっと可愛い顔を見せて」


「んー! んんぅっ……!」



アタシが感じる度に嬉しそうな声が上がる。

見えないけど、きっとアタシが身を捩る度に嗜虐的な笑みを浮かべているに違いない。



「ふふ、可愛い可愛い……」


「んんんんぅっ……!」


「やっぱり沙耶ちゃんは凄いわ。私を虐める沙耶ちゃんも、私に虐められる沙耶ちゃんも、どっちもこんなにも可愛いんだもの」


「んぅ……!」


「大丈夫。もっともっと焦らしてあげるから」


「んんっ……!」



首筋に柔らかい唇が触れて……舌先が這う感触がした。



「んー……っ!」



ぬるぬるした生暖かいものが這いずる感覚は心地良くて、だからこそ耐え難い。



「んっ……!」



首元から鎖骨へと移動する舌先。ゾクゾクする。



「ふふ、絶対にイかせてあげないから」



あぁ、壊れてしまいそうだ……



◇◇◇◇◇



「んー…んー……っ」



あれからどれ程の時間が経ったんだろう。

適時水分は補給させてくれるけど、一向に責め手は止まらない。

最早懇願する気力も無くて、ただただ梓さんのされるがままに責められて、涙を流して呻き声を上げる事しか出来ない。



「……ね、沙耶ちゃん。もうイきたい?」


「……! ん、んっ!」



突如問い掛けられた質問に必死で肯定の返事をする。

すると梓さんは笑った。慈愛混じりのくすくす笑いじゃなくて、自嘲気味の乾いた笑いを。



「外すわね」


「んぁ……」



目隠しとボールギャグを外され、自由になった口から大きく息を吸って吐く。



「あぁ……はぁ……」


「イかせてほしい?」


「はい……お願いです。もうこれ以上は……」


「そう……じゃあ、東京に帰らないで」



どくん、と心臓が跳ねた。



「それは、出来ません」


「……そう」


「んあぁっ⁉︎」



敏感な部分を摘まれて、今までで一番強い刺激で。

だけど寸前で離されて、直前でお預けを食らう。



「うぁ……くっ……うぁあ……」


「沙耶ちゃん」


「だめです、お願いですから……」


「このままずっと沙耶ちゃんを監禁しても良いのよ?

そんなの嫌でしょう? 大丈夫、私達二人ならきっと……」


「梓さんっ!」


「……っ⁉︎」



大声を上げて、梓さんの体がビクッと震えた。

思えば梓に怒鳴ったのはこれが初めてだな……



「そんな事をしてもすぐに捜査の手が伸びます。

このままずっと一緒には居られないって梓さんも分かってるんでしょう?」


「でも、だって、だって……っ」


「どんなに拷問されてもアタシの答えは変わりません。

アタシは、明日東京に帰ります」


「いや、いや……お願い、沙耶ちゃん……っ」



はらはらを涙を流す梓さん。

心が痛む……だけど、言わなきゃいけない。



「……アタシはリハビリ療養士になりたいんです」


「……? えぇ、そう言っていたわね」


「それは何も身体だけじゃない。心の傷も治せるリハビリ療養士になりたいんです。

そして、梓さんを癒して支えていきたい」


「私……? 私はもう……」


「癒えていません。痛みを無理矢理忘れただけです。

だからこうして無理だと分かっていてもアタシを引き止めようとしている。執着している。

その事事態は嬉しいです。ですが健全ではありません。だから……」


「怖い……怖いの! また大切な人が私の元から去ってしまわないか……」


「アタシは! アタシは……目標を失って、自暴自棄になって、未来への希望も無くて……!

でも、梓さんに出会いました。梓さんに癒してもらいました。

梓さんのおかげで、新しい夢と目標が出来ました。

だから次はアタシの番なんです。アタシが、梓さんを救う番なんです。

だからお願いします。アタシを東京に行かせてください」


「怖い、寂しい……東京に行ってしまったら、次に会えるのは何時?

きっと受験のその日まで勉強漬けで、白鷺村に来る暇なんてない。

だからと言って、合格したとしても……」


「はい。だから、そこは梓さんに頑張ってもらいます」


「わ、私、に……?」


「アタシはお金がありません。大学生になったとしても、恐らくバイトをする暇も無い。

だから梓さんと二人で暮らすには、梓さんが東京に来て、部屋を借りてもらうしか無いんです。

梓さんの収入に頼りっきりで、梓さんが心の療養の為に都会から離れたのを知った上で……お願いします。

アタシの為に……二人で一緒に暮らす為に、東京に移り住む準備をしておいてください」


「……沙耶ちゃんにこんなふうに我儘を言われたのは初めて、ね」


「駄目、ですか?」


「ううん、駄目じゃないわ。沙耶ちゃんはきちんと私達二人の将来の事を考えていてくれたのね……

うん、私が一方的に甘えている現状は……良くないわ。

だって、私達はお互い支え合うパートナーだものね」



梓さんの微笑みは弱々しくて。だけど、確かになにか吹っ切れた様な印象があった。



「分かった。約束しましょう。沙耶ちゃんの合格祝いに備えて、沙耶ちゃんの学校の近くに賃貸を探して、住める様にしておくわ」


「……! ありがとうございますっ!」


「こちらこそありがとう。沙耶ちゃんのおかげで前に進めるわ。

……そのお詫びとお礼、という訳では無いのだけれど」


「ん……っ!?」



いきなり胸を揉まれて声を上げてしまう。

真剣な話はしていたけど、アタシの身体は依然として生殺しのままで……



「最高に、気持ち良くしてあげる」


「んん……っ」



キスされて、下腹部を触られて。



「んっ……ぁ…あっ……あっ……んぁああ……っ!!」



ああぁ……ずっと焦らされていたからか、軽く触られただけなのに。



「ぁ……ぁぁ……っ」



いとも簡単に絶頂させられて。



「……おやすみなさい。私、頑張るからね」



梓さんの決意の篭った笑顔を見ながら、アタシは意識は深い深い闇へと堕ちていった。



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