28日目 灯台


「撮りますね」


「はーい」



28日目。

前日に決めた通り、今日はのんびりと過ごす。

ひたすら触れ合って快楽に溺れるのも悪くないけど……こうして梓さんと穏やかな時間を過ごすのも良いものだ。



「撮れましたよ」


「ありがとう。次は紗耶ちゃんよ。こっちに来て」


「はい」



とりあえず村のあちこちを回ってお互いの写真を撮りまくろう、という話になった。

容赦なく太陽光が降り注いでくる。暑いけど吹き抜ける風自体は爽やかで多少は心地良い。



「ふふ、可愛いわ沙耶ちゃん」


「ありがとうございます」



梓さんに何度も可愛いと言われてきて。

梓さんの方がずっと可愛いって思いは変わらないけど……それでもアタシ自身可愛いと言われても以前程疑ったり卑下したりはしなくなっていた。

今は梓さんがセレクトした服を着ているのも自信になっているのだろうか。


今のアタシの服装は白から青へのグラデーションが綺麗な空色のノースリーブのワンピース。

このワンピースは丈の長さも常識的だ。

こんな普通の服も持ってたんですね梓さん。



「次はどこ?」


「灯台に行こうかと。少し坂を登る事になりますけど」


「分かったわ、行きましょう」



一方梓さんの服装はシンプルな白ワンピース。

こちらも常識的な丈だ。それならあの時に着せてくれればとも思うけど、きっとノーパンノーブラでギリギリの丈の白ワンピースを着た女の人が梓さんの癖なんだろう。

昨日のチャイナ服の丈もギリギリだったし、梓さんはそういう服が好みなのかもしれない。



「ふぅ、ふぅ……」


「少し休憩しますか?」


「いいえ、大丈夫。ふふ、この村に来てから一ヶ月も経ってない沙耶ちゃんに案内されるなんて不思議な気分」


「アタシは地元の人と住んでるので……」



梓さんはこの村に着てから1年ぐらいだけど、特に散策とかはしてなかったらしい。

対してアタシの方は叔母さん達がガッツリ地元民だ。

今日のお出かけ……いや、デートコースも叔母さん達に色々聞いて決めた。

……まぁ、叔母さん達はデートとも、アタシと梓さんがそういう関係だっていう事も知らないんだけど。



「はぁ、はぁ……着いたぁ……」


「お疲れ様です。少し休みましょう。お水どうぞ」


「ありがとう……」



適当な木陰の石段に座り、水筒からちびちびと水を飲む梓さん。

アタシもそれに倣って木陰で水筒を開ける。



「ふー……」


「良い風ね……ねぇ沙耶ちゃん」


「はい?」



水を飲んでいたら、唐突に梓さんがアタシの肩に腕を回してもたれかかってくる。

暑い、と思う。だけどその肌と吐息の熱は確実に気温とは違う熱さをアタシに与えてくる。



「梓さ……」


「んっ……」



不意打ちだった。

水筒で両手の塞がってるアタシは抵抗する間もなく唇を奪われた。



「ん、ふぁ……っ」


「んく……ふふ、元気出てきたわ」


「もう……」



流石に野外だからか触れ合うだけの奴だったけど……それでも梓さんは満足した様に自分の唇をペロリと舐めた。

……その仕草を見せられたアタシの喉がゴクリと鳴った。



「ねぇ、沙耶ちゃん」


「はい」


「灯台の近くに行ってみましょう」



梓さんは軽い……とは言えない足取りで灯台に向かう。

元より軽やかに動ける人では無いし、その上で疲れてるだろうからそれは仕方ないけど。



「近くで見ると大きいわね……世界にはもっと大きな灯台なんて幾らでもあるのでしょうけど。

ふふ、この灯台が白鷺村から漁に出る船を見送り、見守り、導いてきたのね……」



梓さんは何年前に建てられたかも分からない灯台に手を触れて。

まるで旧友と再会したみたいに微笑んだ。



「……」


「どうしたの沙耶ちゃん?何か難しい顔して」


「いえ、灯台見てる梓さん綺麗だなって思って……」


「あら……ふふふ」



アタシの呟きを聞いて嬉しそうに笑う梓さん。

ちょっと照れたみたいで頬が赤いけど……そんな梓さんを見てたらアタシまで顔が熱くなった。



◇◇◇◇◇



「ふぅ……」



あれから幾つかの景色を見て、写真を撮って、時折元気チャージと称したキスをされて。

梓さんの家に帰って来た時にはもう辺りは暗くなっていた。

梓さんが夕飯を作っている間にアタシはお風呂を掃除して。

夕飯の唐揚げを食べて、今は梓さんと一緒に入浴中。



「明日筋肉痛になるのかしら……」


「いやぁ……もうちょっと歩いただけなら大丈夫じゃないですか? 日焼け対策もしましたし」


「そうね、あの時は大変だったわね……」



梓さんは懐かしむ様な声色。

今は湯船で梓さんの膝の上に座って抱き締められている体勢だから梓さんの表情は見えない。

だけど、声色や所作で何となく分かる。分かる様になった。



「ん……梓さん?」


「ごめんね? うなじが綺麗だったから」


「だからって……」



うなじを吸われて、何なら抱き締める腕の動きも何だか妖しくて。

でも、ただでさえ疲れてるのに入浴中に致したら何が起きるか分からない。

アタシが梓さんの両手を捕まえると、拗ねた様にアタシの後頭部に額をグリグリと押し付けてきた。



「今日はもうしません」


「むぅ……仕方ないわね。明日は沙耶ちゃんが責める番よね?」


「順番で言えば、まぁ……」


「期待、してるから」


「んひぃ……っ⁉︎」



耳元で囁かれて背筋をゾクゾクとしたものが走る。

アタシだって我慢してるのに……!



「……お風呂上がったらマッサージしますからね」


「ふふ……えぇ、お願いするわね」



……梓さんには必要な処置、ではある。

だけどその際の声とか動きに色々と刺激されてしまうのも確かだ。

まぁ、我慢しないといけないんだけど……中々大変だ。



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