第15話 今回で最後って何でしょうか?


ポンッ!ポンッ!ポンッ!ポンッ!


スライムが倍々に増えます。


「始まったわね・・・」

キャサリンさんが厳しい表情でつぶやきます。


スライムは衝撃の強さによって増えるらしいから、そりゃもうドンドン増えますよ。

だって爆発してますからね。

僕のキックの時の比じゃないですよ。


「行くぞ!!逃げるんだ!!」

ヤッカイさんが叫びます。


「どっちへですか?」

僕が二股に分かれた洞窟を指差してヤッカイさんに聞きます。


「左だ!左に行けば出口だ!

 出口まで突っ走るぞ!!ついて来い!!」

ヤッカイさんが走り出すと赤いマントがひらめきます。

カッコいいです。

そしてハンサムです。

カッコハンサムです。


僕たちも走り出します。


後ろを振り返ると、大量のカラフルなスライムが洞窟いっぱいに迫ってきます。

トンネルの掘削機が向かって来る感じです。


ポンッ!ポンッ!ポンッ!ポンッ!


スライムは物凄いスピードで押し寄せて来ます。


「今度は右だ!!」

ヤッカイさんが二股に分かれた洞窟を次々とナビゲートします。


こういう時はやっぱり地元民というのは頼りになります。


「こっちだ!!」

ヤッカイさんは迷うことなく出口へと誘導します。

心強い限りです。


「行き止まりだ!!」

ヤッカイさんが叫びます。


この人、迷いました。


ヤッカイさんは行き止まりの壁を見て呆然とします。


ポンッ!ポンッ!ポンッ!ポンッ!

後ろからは大量のスライムが押し寄せています。


手前の二股の所まで引き返す時間はもうありません。


「ど、どうするの!?」

キャサリンさんがヤッカイさんを信じられないという顔で見ます。


「こりゃ、厄介なことになっちまったぜ・・・」

ヤッカイさんが目を閉じてゆっくりと何度も首を横に振ります。



僕はエレノアさんにそっと近づきます。

「そろそろいいでしょう?」

エレノアさんにつぶやきます。

「消しますよ、スライム」


『仕方ないわね・・・今回で最後よ』

エレノアさんが言います。


僕は目を閉じて心の中で唱えます。


スライムよ、消えろ・・・

エレノア・・・


そして何かを引き裂くような音・・・


『ねぇ・・・』

エレノアさんがつぶやきます。

『早くして・・・』


え?


あら?

何かを引き裂くような音は?


僕は目を開けます。


『ねぇタツキチ・・・

 早く消してよ』

エレノアさんが少し慌てます。


ん?


僕は目を閉じて再び心の中で唱えます。


スライムよ、消えろ・・・

エレノア・・・


『な・・・何してるの!タツキチ!!

 早く消しなさいよ!!』

エレノアさんが叫びます。


僕は目を開けます。


ポンッ!ポンッ!ポンッ!ポンッ!

スライムの壁がどんどん近づいてきます。


アレ?


消えてない・・・

スライムが、消えない・・・

何かを引き裂くような音も、しない・・・


なんで?


ポンッ!ポンッ!ポンッ!ポンッ!


スライムの壁がドンドン押し寄せてきます。

後ろは行き止まりです。

僕たちは壁を背にしています。

大量のスライムがみるみる迫ってきます。


『ちょっと!!タツキチッ!!

 冗談はよして!!

 スライムを早く消して!!!』

エレノアさんがパニックになります。


ポンッ!ポンッ!ポンッ!ポンッ!


迫るスライム。


僕は目を閉じます。

必死に唱えます。


消えろ消えろ消えろ消えろ

スライム消えろーー

エレノアーー


『消えないわよ!!タツキチーーッ!!』

エレノアさんが悲鳴を上げます。


なんで?


なんで消えないのでしょうか?

今まであれだけ魔物を消していたのに、一体どうしたのでしょうか?


『早く消せーー!!タツキチーーッ!!』

エレノアさんが僕の首をつかんで、グワングワン振り回します。


うわわわわぁあ

やめてくださいよ、エレノアさーーん


僕にはもう成すすべがありません。

エレノアさんに首を振り回されるだけです。


だって消せないのです。

というか消えないのです。


コレ、あれですか?

魔力ってヤツですか?

僕の魔力が尽きたって事でしょうか?

エレノアさんの指輪みたいに電池切れといった感じでしょうか?


それともスライムには、僕の魔力は効かないのでしょうか?


ポンッ!ポンッ!ポンッ!ポンッ!


もうすぐそこまで来てますよ、スライム。


『消せっつてんだろうがぁー!消せぇー!!タツキチーーッ!!』

エレノアさんが、ご乱心です。

僕の首を両手でつかんで振り回します。


うわわわわぁあ

やめてくださいよ、エレノアさーーん


マジで。




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