第11話 階級って何でしょうか?
グゴゴゴゴゴーッ!!
巨大な壁が迫って来ます。
壁に見えますが、キャサリンさんによるとこの壁は巨人ということです。
『ちょっと!タツキチ!
実験って何するつもり!?』
エレノアさんが叫びます。
「あの巨人を消すんじゃなくて、止めてみようかと思います。
なんかこう、魔物を操れたりできるといいんじゃないかなぁと」
僕はキャサリンさんには聞こえない様に、エレノアさんに小声で言います。
『ダメよ!やめて!タツキチ!!
忘れちゃったの!?』
「え?」
『私たちはこの国の様子を見に来ただけなのよ!
これ以上、干渉してはいけないわ!』
「だけど、もう魔物をいっぱい消したし・・・」
『あれは仕方のない事よ!緊急事態だったのよ!
だからもうこれ以上は消しちゃダメ!!
本来ならこれは勇者のやることなのよ!!』
そんなこと言われてもですね。
今も結構な感じで緊急事態だと思うんですよ。
だってこの巨人というか壁、こっちに迫って来てますよ。
どうしましょう?
消しちゃダメなら・・・
逃げますか?
そうですね、逃げましょう。
「おいッ!!お前たち!!」
ふいに叫び声がこだまします。
僕たちは声の方を見ます。
「何してるお前たち!!死にたいのか!!
ほらッ!早く逃げるんだッ!!」
赤いマントのハンサムな男が僕たちを指差して大声で叫びます。
僕たちは迫りくる壁から逃げます。
「よっしゃ!後はオレに任せろ!!」
赤いマントのハンサムな男が、迫りくる壁の前にスクッと立ちます。
グゴゴゴゴゴーー!!!
ハンサムな男に壁が迫ります。
ハンサムな男は壁に向かって中腰になり右手を突き出します。
「うおりゃぁぁあ!行けぇぇええ!!
ワンダフル・ファイヤーストーーム!!」
ハンサムな男が叫ぶと、右手から小さな弱々しい火の玉がポッと現れます。
ん?
何アレ?
小さな火の玉は、ゆっくりと移動して巨大な壁に触れるとスッと消えました。
は?
シャボン玉みたいに消えましたよ。
あの火の玉、全然ダメですよ。
「とりゃぁああ!!」
再びハンサムな男が叫びます。
「ワンダフル・ファイヤーストーーム!!」
やはり同じように小さな弱々しい火の玉が壁に当たって消えます。
グゴゴゴゴゴーー!!!
ハンサムな男に壁が迫ります。
「ダメだわ!あの人!!
このままじゃ潰されちゃう!」
キャサリンさんが叫びます。
『タツキチ!!』
エレノアさんが僕を見ます。
『聞いて!タツキチ!!
あの男の人の技に合わせてあなたが巨人を消すのよ!』
エレノアさんがハンサムな男を指差す。
え?
『いいから早く!タイミングを合わせて巨人を消して!!』
なるほど。
そうですね。
あのハンサムな男の魔法に合わせて僕が巨人を消せば、あの男が消したようになりますね。
そうすれば僕は干渉してないことになりますよね。
「おりゃ!!まだまだ!!」
ハンサムな男は右手を戻し叫びます。
「オレの魔力はこんなものではないぞ!!
ワンダフル!ファイヤーストーーム!!」
ハンサムな男が右手を突き出すと、小さな火の玉がゆっくりと壁に向かっていきます。
火の玉が壁に当たる寸前に、僕は目をとじて心の中でつぶやきます。
巨人よ消えろ。
エレノア・・・
これはエレノアさんからの要望なのです。
そしてハンサムな男を救うためです。
仕方のないことなのです。
ビシューーッ!!!
何かを引き裂くような凄まじい音がしました。
僕は目を開けます。
「き・・・消えた、わ・・・」
キャサリンさんが愕然とした表情でつぶやきます。
僕が巨人を消したのですが、キャサリンさんはハンサムな男が消したと思っているようです。
エレノアさんを見ると、よくやった、という顔で小さくうなずきます。
ハンサムな男は、右手を突き出したまま少しビックリした顔で、迫りくる壁があった場所を見つめています。
そりゃそうでしょう。
あんな火の玉で巨人が消えるわけないのですから。
ハンサムな男は、僕たちを確認し「大丈夫か!お前たち!!これでもう安心だ!」と叫び近寄ってきます。
もしかしてこの人は、本当に自分の魔法で消したと思っているのでしょうか?
「だ、大丈夫・・・です」
キャサリンさんが呟きます。
「おい!お前たち!オレがいなかったら、ひとたまりもなかったぞ!!
いったいこんな所で何してるんだ!?」
ハンサムな男が聞いてきます。
「私たちは、穴から落ちて・・・」
キャサリンさんが答えます。
「穴から?
てことは空間移動か?」
「はい、たぶんそうだと思います」
空間移動?
あの穴からの移動はそう呼ぶのですね。
「どこの穴からだ?」
「ガイスト鉱山の入り口です」
「ガイスト鉱山?聞いたことないな・・・」
「あなたは、どこから来たのですか?」
キャサリンさんが赤いマントのハンサムな男に聞きます。
「オレは、タップ村の外れにある洞窟からだ」
「タップ村・・・聞いたことありませんね・・・」
「とにかくココは危険だ。
お前たちのようなシロウトが来る場所じゃない!
オレが外まで送ろう!一緒について来い!」
「ありがとうございます」
キャサリンさんがお礼を言います。
「どうも。ありがとうございます」
僕もお礼を言います。
ここで初めて僕はハンサムな男と目が合います。
本当にハンサムな男です。
「では行くぞ!」
ハンサムな男は歩きはじめると、前を向いたまま聞いてきます。
「お前たち。
名は何と言う?」
「私の名前はキャサリンです」
「僕はタツキチです」
「キャサリンに、タツキチか・・・
オレの名はヤッカイ。
M級冒険者だ」
「M級?」
キャサリンさんが眉をひそめます。
「そうだM級だ」
「私はE級までしか聞いたことありませんが・・・
そんな階級があるんですね?
S級よりも上なんですか?」
キャサリンさんがたずねます。
「組合によると特別な階級らしい。
めったに居ないそうだ」
「そうなんですね・・・」
キャサリンさんはどこか納得できない様子です。
話しの流れからすると、冒険者の階級はE級まであって、ヤッカイさんはM級ということ。
A級から順番にいくと、M級はそうとう下という事になります。
だけど、S級とかいうAより上の階級もあるとするなら、M級はどの辺りなのでしょう?
というかこの人、さっきの魔法から判断すると、明らかに下の階級なのは間違いないでしょう。
E級が初心者なら、M級はとてつもない初心者ということになります。
「ところでお前たちはガイスト鉱山という所に何をしに行ってたんだ?」
「実は・・・」
キャサリンさんが経緯を説明します。
----- 説明終了 -----
「そうか・・・
それは厄介だな」
ヤッカイさんがつぶやきます。
「よし!ならばオレが手を貸してやろう!
その、モンスターセルエッグを一緒に探してやろう!」
「え?いいんですか?」
僕がヤッカイさんに聞きます。
「その代わり、お前たちがもらったオプシタイトの半分が報酬だ!どうだ?」
僕がエレノアさんを見ます。
エレノアさんがうなずきます。
オプシタイトの塊は半分あれば十分ということなのでしょう。
「お願いします」
僕がそう言うとヤッカイさんが右手を出すので握手します。
「契約成立だ」
ヤッカイさんがハンサムにほほ笑みます。
「で、そのモンスターセルエッグはドコにあるのだ?」
「ガイスト鉱山です」
エレノアさんが答えます。
「ガイスト鉱山はどこにあるのだ?」
「わかりません。
ガイスト鉱山の入り口から入ったらココに出ましたので・・・」
「そうか・・・」
ヤッカイさんが困った顔でうつむきます。
「それは厄介だな・・・」
ヤッカイさんがつぶやきます。
ああ・・・
僕たちはどうなるのでしょうか・・・
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