第03話 社畜とゴリラと約束と決意
ゴリラは、霊長目ヒト科ゴリラ属に分類される構成種の総称。
主に赤道アフリカの熱帯林に生息する地上棲の草食性大型類人猿である。
現生霊長類の中で最大で、種や性別にもよるが、身長1.25-1.8 m、体重100-270 kg、両腕を広げた幅は2.6 mに達する。
――Wikipediaより抜粋。
目の前に美少女がいる。
どこか気品のある佇まいの、優しくて小柄な美少女だ。
だが、その少女は自分のことを「ゴリラ」だと名乗った。
「えーと、ゴリラって、あのゴリラ?」
その可愛らしい姿は、俺の知ってるゴリラとは似ても似つかない。
混乱しながら尋ねると、少女は確かに頷いた。
「そう、あのゴリラです。気高く、力強く……そしてドラゴンすらも握り殺すという、あのゴリラ」
「なんか俺が思ってるゴリラと違うな!?」
「そうなんですか?」
ミリアは首を傾げ、小首をかしげる。
その仕草が可愛くて、俺は思わず見惚れてしまいそうになった。
「あ、ああ……俺の知ってるゴリラは、確かに力が強いけど、性格は温厚で、賢くて、森の賢者と呼ばれていたりする」
「うーん、似ているみたいだけど?」
「あとドラゴンを握り殺したりしない」
「……やさしい性格だからでしょうか?」
「性格の問題ではないな」
そもそも元の世界にはドラゴンがいないんだけど。
それでもいくらなんでもゴリラの方が強いってことはないだろう。
というかどんな化け物サイズなんだよ、この世界のゴリラって……。
「あはは、冗談です。私がゴリラを名乗るなんておこがましいですから。私はミリアンナといいます。ミリアと呼んでください」
「そ、そうなのか」
なにこれ、異世界ジョーク的な?
笑いどころが分からないんだけど。
カルチャーショックが過ぎるぞ、異世界。
「俺はマサトだ。よろしく、ミリア。それから改めてお礼を言わせてくれ。助けてくれてありがとう」
「困った時はお互い様ですよ、マサトさん。こんな時代なんですから」
そう言ってミリアは窓の外へ視線を向けた。
窓からは、見覚えのある燃える森が見えていた。
「マサトさんはどうしてあんな所にいたんですか?」
ミリアの真っ直ぐな問いに、俺は少し言葉を濁す。
「えーと、ちょっと迷い込んでさ」
嘘ではない。
異世界から迷い込んだのだから本当のことだ。
「なんだかワケありみたいですね」
「……まあ、な」
ミリアは少しからかうような笑みで、冗談っぽくそう言ってくれた。
俺が何かを隠していることには気づいているのだろうけど、気づかないふりをしてくれているようだ。
(異世界から来た、なんて正直に話しても信じてもらえるのか……?)
本音を言うと俺はちょっとビビってた。
ミリアはすごく良い人そうだし、変に思われるのが嫌だったから。
「そういうミリアはあそこで何をしてたんだ?」
森は燃えているし、モンスターもいる。
普通なら用もなくあんな所に近づこうとは思わないだろう。
そのおかげで俺は助かったワケだけど。
「私は……故郷の村を取り戻そうと思って、森の様子を見にいってたんです」
ミリアの瞳の奥に、強い光が宿る。
「故郷の村?」
「ええ、あの森の中に私が生まれ育った村……エルン村があるんです。今はゴブリンたちに占領されてしまって、マナのバランスが崩れて森もおかしくなって……人間は誰もいません。みんな別の村に逃げ延びました」
マナって、この世界の魔力みたいなものか?
だとしたら、あの森が燃えているのは山火事などとはまるで違う現象ってことか。
「いまさら危険を冒してゴブリンたちと戦う理由はない。村のみんなは別の村での生活を受け入れています。でも、それでも……私は故郷を取り戻したいんです」
ミリアの声に、切ないほどの決意が滲む。
「そうだったのか」
「あはは、ごめんなさい。バカですよね、騎士でもないこんな村の娘が一人でゴブリンの軍勢に勝てるワケない……私も分かってるんです。今の話は忘れてください」
ミリアが無理したように笑顔を作る。
出会ったばかりでも分かる。
本心じゃない。
ミリアはまだ諦めてないし、諦めたくないんだ。
その胸の奥で、あの森のように抑えきれない熱が炎となって燃え続けているのが分かる。
「一つ、聞いても良いか?」
「はい?」
「ゴブリンの正式名称を知らないか?」
俺の唐突な問いに、ミリアはポカンと口を開ける。
「正式名称……ですか?」
「ああ、ちゃんとした名前が知りたい。実は……俺は特殊能力を持ってるんだ。正式な名前が分かれば……ミリアの力になれるかも知れない」
それを聞いた瞬間、ミリアの目が輝いた。
その潤んだ瞳が、俺をまっすぐに見つめる。
「すごい、もしかしてあのスキルを!? そんな……信じられません! マサトさんが1000人に1人と言われているスキル所有者だったなんて!」
そうなのか。
初めて知る設定だぞ、ポンコツ女神。
「あ、ああ……だから他の人には秘密だぞ?」
「は、はい! もちろんです! 私たちだけの、二人だけの秘密です!!」
ミリアが興奮した様子で勢いよく頷く。
勢い良く胸も弾む。
こんなにテンションが上がるなんて、この世界でのスキルってのは相当価値が高いみたいだ。
「それで、ゴブリンの名前って分かるのか?」
「あ、待っててください! 調べる方法があります!」
そういうとミリアは部屋の奥から大きな本を持ってきた。
「このあたりの危険な生物に関する図鑑です!」
見たことのない文字が並んでいて内容はまるで理解できない。
異世界の文字なんだろう。
だが図鑑か、これなら期待できそうだな。
「えーと……ありました!」
パラパラと慣れた手つきでページをめくり、ミリアが目当てのページを見つけたようだ。
「マサトさん、これを見てください!」
文字は分からないが、そのページのイラストには見覚えがあった。
「ゴブリン……」
「そうです。森を占領しているゴブリンたちです。えーっと……ありました!」
ミリアの目線を追って文字を眺める。
イラストの上部にそれらしい文字列があった。
「エルドラン地域……この地域のことですね。その中級ゴブリン……正式名称はエルドランド・ミドル・ゴブリンです!」
「なんかそのまんまだな」
「ですね……でも、これでスキルが使えるんですか?」
「試してみないと分からない」
まだ一回も発動できてないスキルだからな。
確証はない。
それにミリアには悪いが、この図鑑が絶対に正しいとは限らない。
俺たちが思っているゴブリンは似ているだけで別の種類の可能性だってある。
でも、それでも……。
「とにかく試してみるしかない。ミリア、俺がいた場所に案内してもらえるか?」
「それは、良いですけど……本当に良いんですか?もしもスキルが使えなかったら……」
その時は二人そろってゴブリンたちになぶり殺しにされる事になるかもしれない。
怖くないかと聞かれれば、めちゃくちゃ怖いさ。
ミリアもそれを想像してしまったのだろう。
怯えるような表情でゴクリと息を呑んだのが伝わってきた。
だけど……。
「その時はその時だ。でも約束する。どんなことがあってもミリアだけは絶対に守る。だってこれは命を助けてもらったお礼だから。俺もミリアを助けたいんだ」
「マサトさん……!」
気が付けばミリアは目に涙を浮かべている。
その瞳は俺を信頼しきったような強い光を放っていた。
「ありがとうございます! 一緒にゴブリンたちを滅ぼしましょう!!」
そう言ってミリアは俺の手を握る。
大切な宝物を抱きしめるみたいに、ギュッと深い胸の谷間で握りしめた。
(うぉ、でっか……!)
この温もりを失うわけにはいかない。
ミリアは必ず守る。
それに敵の名前は分かったんだ。
だからきっとできるはずだ。
なぜなら俺には超最強のチートスキルがあるんだから……!!
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