第6話元雑用係、元凶を突き止める
私はベッドに座り込んで考えた。
どうやったら、元凶を潰すことができるか。
犯人の目星がついているなら、その犯人の魔力を辿って魔法でぼこぼこにすれば終わるのだが……
その肝心な犯人がわからない……
「気持ちがざわざわと騒ぎ、どうにも落ち着かない」
気分転換に窓の外を見た。雲一つない空に月がぽかんと浮かんでいた。
こんなにきれいな月を見たのは久しぶりだった。
ふと、街中を見てみると昼間見た少女が宿の前の道を横切っていった。
「――あの子だ!」
考えるより先に体が動いていた。
荷物なんて持っていない。靴の紐も緩いまま、私は宿の扉を開け放った。
夜の空気が一気に肌を刺し、肩がぶるりと震えた。
だけど、そんなのかまっていられない。
少女の足跡を追って、私は街の闇へと駆け出した。
姿は消えていたが、進むべき道は見えた。私は迷わずその先へ向かった。
ついた場所は、昼間人気なく向かう勇気がなかった場所だった。
日中、近くの人に聞いてみたら「あそこは旧市街地だよ」と返答された。
「旧市街地ってもう使われて無いってことですか?」
「そうだねーかれこれもう20年ほどは使われてないかもしれないな」
おばあさんは、しわの刻まれた手で頬に触れながら、穏やかに答えた。
私がお礼を言って立ち去ろうとしたときおばあさんが思い出したかのように突然話し始めた。
「そうそう、最近旧市街地に悪い連中らが住み着いてるって話聞いたことあるかい?」
「いやないです」
「じゃぁいい機会だからこの噂聞かせてあげるよ」
おばさんは話し始めた。
「なんだか、住み始めた頃はまだ優しい青年だったと言われたんだ。だけど、ある日を境に悪に手を染めてしまったのさ。なんだか、もったいないわよねー」
「そうですねー」
あの時は、ただの噂話だと聞き流していた。
でも今――その言葉だけが、この足を前に進ませている。
私は勇気を振り絞って暗黒の闇に包まれた旧市街地の方へ消えていくのだった。
少女よ……無事であってくれ。
****
私は、おじさんの背中を従順について行った。
ついていけば行くほど周りの光はなくなっていき、やがて目的地についた頃には真っ暗な空間だった。
「ちび、ここが今からお前に働いてもらう場所だ」
そう言い、おじさんは真っ暗の中からドアノブを握りミシミシと音を立てながらドアが開いた。
開いた先に広がっていた世界はあまりにも目を向けられなかった。
そこは、おじさんたちの仲間が集っていた。
そして、酒を飲み合い部屋の中は酒臭かった。
ドアから入ってきた私は部屋中の酒臭い男たちの視線の的だった。
酒臭い男たちの視線を一身に浴び、私はおじさんに背を押され、その輪の中心に立たされた。
おじさんは部屋中に響き渡るような声で言った。
「おい、お前らぁ!今日からこの酒場を管理兼世話係の女だ。丁寧に扱えよ?」
おじさんの最後の言葉に酒場にいた男たちが気持ち悪い笑みを浮かべていた。
誰かが笑った。誰かが唾を吐いた。
彼らにとって、私は「人間」ではないのだ。
私はとりあえず敵意がないことを示すために小さくお辞儀をした。
次の瞬間から、私はこの酒場の地獄さを痛感するのだった。
「嬢ちゃん、こっちに酒瓶くれるかな」
「こっちにもほしいな」
「こっちはつまみを」
部屋中から聞こえてくるオーダーに頭がパンクしそうだった。
だが、聞こえた順から黙々と捌いていった。
数時間休みなく動き続けていたら、最悪な事態が起きてしまった。
「……まさか、酒瓶が切れた……?」
背筋が冷たくなった。今夜、終わったかもしれない。
私は部屋中のいろいろな場所を探したが予備の酒瓶はどこにもなかった。
飲んでいたおじさんに言った。
「……すみません、酒が、切れてて……」
おじさんはものすごく酔っ払っていた。誰が見てもわかるように顔が赤らんでおり息も酒臭かった。
視線を上げるのが怖かった。唇が震える。
「ああん!?てめぇ、ナメてんのか? さっさと補充してこい、クソガキ!」
「……ッ」
私はおじさんの迫力に思わず小さく声が出てしまった。
自分なりにどうやって酒瓶を補充するか考えた。
お金はない。調達するすべもない。
一ついい案が思いついた。
これは、悪いこと。 でも、捕まったらどうなるの?……やらなきゃ、蹴られるかもしれない。
誰も助けてくれない。だったら、わたしがやるしかない。
ー盗む行為ということをー
思いついた瞬間、体はもう動いていた。
おじさんたちにバレないように酒場を抜け出した。
外はもう本当に真っ暗だった。月明かりの光しかわたしの視界にはなかった。
そうして、酒瓶を置いて有りそうな場所を探し回った。
早く探して帰らないと、と思いながら。
数分間探し続けて人の家の倉庫に潜り込み酒瓶を見つけた。
重い酒瓶を持って行こうとした瞬間私の視界から月明かりがなくなった。
「君、何をしているのかな?」
若い男性の声だった。
そう思った瞬間にはもう遅かった。
私は酒瓶を置いてその場から走り出した。
時折、後ろを振り返りながらおじさんの元へ戻った。
私の後ろに立っていた若い男性を一瞬見ることができた。
その男性は、銀色の奇妙な仮面をつけていた――月明かりに一瞬だけ光った。
酒場に戻ると酔ったおじさんが言った。
「おい!酒瓶はどこだよ!」
そう言いながら私を蹴り飛ばした。
体重が軽い私は壁にぶつかった。
「……申し訳ありません。手に入れられ……」
「なんだと!?もう一回言ってみろ」
再び腹に蹴りを入れられた。
周りの見ていただけの奴らも加担してくる。
私はただうずくまって痛くないように守る。
ただ蹴られるだけのストレス発散の道具になるのだと悟った。
私がこんな場所で消えたって、誰も気づかない。
……そう、思っていた。
「「君たち、それは見過ごせないよ?」」
若い男性の声と若い女性の声がした。
そんな人ここにはいないと思いながら入口の方を見た。
そこにいたのは、昼間お花を売ったお姉さんと先程の怪しいお兄さんだった。
私は少しだけホッとして、だんだんと意識が遠のいていく。
意識が途切れそうなとき、お姉さんの顔が私の視界に入った。
「もう大丈夫だよ。……もう、ひとりじゃない」
それを聞いて、私は目をつぶった。
****
少女の体が崩れ落ちる直前、彼女を支える腕があった。
「もう、見ていられない」
静かに呟いた青年が、一歩前に出た。
仮面の下からあふれたのは、確かな“殺意”だった。
男たちが酔いにまかせて立ち上がる。
「なんだてめぇ……客か? なら出て行けよ、今すぐにな!」
青年は笑わなかった。ただ、手を掲げた。
酔いが一瞬で冷めたように、男たちが身じろぎする。
部屋の空気が、重く沈んだ。
「……おい、なんなんだよ、こいつ……」
男たちの酔いは完全に覚め、恐怖心がその場を支配していたのだった。
あとがき
最近読んでくれる方が増えてくれて、とても嬉しいです。
PVやブクマも着々と増えていってとてもモチベーションになります。
これからも、ゆっくりですが更新していきたいと思います。
今後の目標はブクマ100と合計PV1000を目指して投稿していきたいと思います〜。
では、また次回会いましょう。 by天使の羽衣
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