オッサンは異世界で剣聖となって無双する
大寿見真鳳
第1話 異世界へ
「すっかり遅くなったな」
何年着たか思い出せないほどに着込みくたびれたグレーのスーツ。そんなスーツを着た日暮大輔は今年40歳。
中堅食品会社の営業マンだ。
一人暮らしが長いため、自分なりに健康には注意しているおかげなのか、髪はまだしっかりと豊かだが、目の下のクマは消えそうにない。
ストレスのためか、同僚たちの中にはすでに頭頂部が不毛地帯と化している者達も少なくない。
取引先への営業周りが遅くまでかかり、空はすっかり暗くなり、街灯の灯りが灯っている。
今日は仕事を切り上げてさっさと帰ることにする。
「コンビニで夕飯でも買って帰るか」
帰り道にある行きつけのコンビニで、いつものように夕飯用に弁当を買って帰ることにする。
週末は気分転換に自炊をして、作り置きをできるだけ作るが、それがなければコンビニ弁当が多い。
急ぐこともなくゆっくりと歩いていく。
「暗くなるのも早くなってきたな。風も心なしか冷たくなってきているか。今年は冬が早いのかね」
独り言を呟きながら歩いていく。
すれ違う人々は、誰もがそんなことに意識を向けることもなく、足早にすれ違う。
誰からも注目されることの無い、平凡を絵に書いたような毎日で、気がつけば40歳。
仲が良さそうなカップルや、笑顔を浮かべた家族連れとすれ違うと、少し寂しそうな表情をする。
「今更だよな・・」
しばらく歩いているとよく通うコンビニが見えてきた。
今日は何を買おうか考えながらコンビニの中に入る。
その瞬間、一瞬激しい目眩を覚え倒れそうになったがすぐに治った。
「目眩なんて疲れてんのか・・えっ・・・俺・今コンビニに入ったよな」
コンビニに入ったはずが、目の前には草原が広がっていた。
夕暮れ時だったはずが、太陽は空の中心で輝いており、ほぼ真昼の位置にある。
慌てて周囲を見渡す。
周囲を高く大きな木々に囲まれ、自分を中心にぽっかりと1〜2km四方ほどだけ木が無く、足首ほどの高さまで草が伸びた草原であった。
見慣れたはずのコンビニが影も形も無い。
それどころかビルや建物も無い。
そして、夜だったはずが昼間になっている。
しばらく呆然としていたが慌ててスマホを取り出すと圏外になっていた。
「ここ、どこだよ・・何がどうなってんだよ」
知り合いに電話をかけようとしたが圏外となっているため通じない。
地図アプリを起動させようとしたが表記されなかった。
試しに他のアプリを使おうとしたが全て使用できなかった。
「こんな馬鹿なことが、いくら俺が少し方向音痴でも、コンビニの入り口と草原は間違えるなんてないだろう・・ここどこだよ」
しばらく呆然と佇んでいたが、微かに吹いてくる風には草木の匂いが含まれている。
ぐるっと周囲を見え渡すが、民家はなく木々しか見えない。
自分が立っているのは周囲を全て森で囲まれた中に、ぽっかりと空いた草原のようだ。
「俺の頭がおかしくなって、幻覚を見ている訳でもないのか」
このままで立っていても仕方ないため、前に少し進んで前方の森の方に行ってみる。
歩くたびに草を踏む感触が靴越しに伝わってくる。
森の方に行ってみたがその先は木々が生い茂り見渡せなかった。
もう一度周囲を見渡すと反対側に何やら木を折るような音がした。
振り返ると巨大な黒い牛が木をへし折りながら森の中から出てくるのが見えた。
その牛はどうみても通常の牛を遥かに超える大きさ。
少なくとも5倍ほどの大きさであった。
「何だよ・あの牛、デカすぎるぞ。あんな巨大な牛がいるなんて聞いたことがないぞ」
牛は大輔に気が付かずにのんびりと草を食べながら草原を動き始める。
すると大輔と視線があった。
穏やかそうな牛の目つきが凶暴なものへと変わり、唸り声をあげ大輔に向かって突進を始める。
「えっ・や・・やばい。逃げなきゃ・・」
大輔は必死に逃げようとするが恐怖のせいなのか足がうまく動かない。
そんな草原を巨大な影が覆う。
思わず空を見え上げる。
そこには翼を持った巨大な竜のような存在がいた。
「う・うそ〜・・ワ・・ワイバーンかよ」
よくゲームや映画に出てくる竜の一種であるワイバーンが、そのままの姿が翼を広げ空を飛んでいた。
その巨大なワイバーンがこちらに急降下してくる。
巨大な牛もようやくワイバーンの存在に気がついて逃げようとするが、高速で飛来して来るワイバーンからは逃げることができずに、ワイバーンの足で地面に押し潰された。
ワイバーンの目が大輔を捉えるが、しばらくすると興味がないのか大輔から視線を外す。
動くことができず呆然としていると、ワイバーンは牛を爪で掴み空に持ち上げ、そのまま飛び去っていった。
ワイバーンが飛び立つ時、翼が起こす風圧で数メートル飛ばされてしまう。
ワイバーンが遠くに去ったことで緊張が解け、腰が抜けて思わずへたり込む。
額には大粒の汗が浮かんでいる。
「この場所は一体・・・ここは、一体どこだよ」
視界の端に何か動くものがある。
よくみると半透明の動く水色のゼリーのような感じで30センチほどの大きさがある。
さらに周辺を見渡すと色違いで多くいることが分かった。
「もしかして、これはファンタジー物に出てくるスライムとか言うやつか」
そのゼリーのようなものを触ろうとした時、森の中から雄叫びのような声が聞こえてきた。
その雄叫びを聞いた瞬間、全身から嫌な汗が吹き出してきた。
「こ・今度は何だよ」
森の奥から一つ目の巨人が出てきた。
身長は5mほどで緑色の肌をしており、頭には角が一本。右手には巨大で長い棍棒のようなものを持っている。
「まじか、サイクロップスかよ・・」
一つ目の巨人サイクロップスがこちらを向いた。
同時、醜悪な笑みを見せる。
「不味い。見つかった」
慌てて立ち上がると森の中へと走り逃げようとする。
大輔を見つけたサイクロップスは雄叫びを上げて追いかけ始めた。
「やばいやばいやばい・・・ヒィ〜」
森の地面には、なぜかスライムが大量に隙間なくいる。
その中を走るため、走りながらスライムを次々に踏み潰している感触があるが、そんなことに構っている場合じゃないため、無視して走る。
『ピロリ〜ン!スキル:ステータスを獲得』
「え・ステータスだと!」
スライムを何匹か踏み潰したため、異世界物によくある魔物討伐でスキルをもらえたのか。
「ス・ステータス」
【氏名:日暮大輔
種族:人族
状態:疲労
職業:迷い人
スキル:ステータス 】
「たったこれだけかよ。他にないのか」
後方からはサイクロップスの唸り声が聞こえる。
スライムを踏み潰しながら必死に逃げる大輔。
『ピロリ〜ン!スキル:異世界言語を獲得』
「翻訳機能で戦えるか、戦えるか逃げ切れるスキルをくれ〜。あっ、もしかして通じるのかも」
後ろを振り返る。
「ハ・ハロー・・・僕無害・・友達友達・・OK!!!」
大輔が大きく手を振りながら大きな声で無害だとアピールするものの,サイクロップスは棍棒を上段に振りかぶり叩き下そうとしていた。
「ヤバ・・・通じねじゃねえか〜〜〜」
振り下ろされた棍棒を間一髪避け、再びスライムを踏み潰しながら逃走を始める。
『ピロリ〜ン!スキル:料理1を獲得』
「料理じゃ戦えねえだろう。俺が料理されて死んじまうぞ」
『ピロリ〜ン!スキル:長生き1を獲得』
「今殺されそうなのに、長生きじゃ意味ね〜。死んだら長生きも何もないだろう」
『ピロリ〜ン!スキル:暗視1を獲得』
「今は昼間だよ、昼間。ひと睨みで敵を倒す魔眼とかないのかよ」
必死しに走りながら次々にスライムを踏みつぶしていくと、何か虹色のスライムを踏み潰した様に見えたが、こんな非常時に確認している暇は無いから必死に走る。
『ピロリ〜ン!レアスキル:スキルコレクターを獲得』
「えっ・それって何だよ!コレクター・・意味分かんねえよ」
サイクロップスは、後ろから迫ってきている為、スライムを踏み潰しながら必死に走る。
『ピロリ〜ン!スキル:演舞1を獲得』
「こんな時に踊っている場合かよ」
『ピロリ〜ン!スキル:鑑定(極)を獲得』
「鑑定は嬉しいが、鑑定じゃ戦えねえよ!」
『ピロリ〜ン!スキル:弱点看破を取得』
「武器がねえのに、弱点調べても使えねえ〜強力な武器ぐらい寄越せ〜」
サイクロップスが棍棒を振り回し木々を薙ぎ倒して大輔に向かって棍棒を叩きつける。
間一髪避けるが爆風で飛ばされ転がりながら身体全身でスライムを潰していく。
途中で金色のスライムが見えたが爆風の勢いのまま転がるため、金色のスライムをそのまま潰して転がる。
『ピロリ〜ン!レアスキル:経験値十倍化を取得』
「経験値貯める前に死んじまうぞ!馬鹿やろ〜責任者出て来い!」
立ち上がりふらつきながらも必死に走り始める。
『ピロリ〜ン!スキル:斬撃1を獲得』
「えっ、斬撃・・斬撃ってなんだよ。なんか出るのか」
『ピロリ〜ン!スキル:物体強化1を獲得』
「はっ?物体強化、何がどう強化できるんだ」
必死に逃げるがなぜか大量にいるスライムは逃げずに危機感のないまま地面にいる。
その中をスライムを踏み潰しながら必死に走る。
『ピロリ〜ン!スキル:気配察知1を獲得』
その瞬間、背後に嫌な予感を感じて無意識にしゃがんだ。
頭の上を棍棒が通過して数本の木々を薙ぎ倒した。
「ヒィ〜・・・・死ぬ死ぬ死ぬ」
転がるように必死に逃げる。
『ピロリ〜ン!スキル:悪運を獲得』
「悪運だと!ここは幸運じゃ無いのかよ〜!ここは幸運だろ〜、幸運よこせよ!!!何とかしてくれ〜」
サイクロップスの棍棒が地面に振り下ろされ爆風が大輔や周辺の木々を吹き飛ばす。
転がりながら全身でスライムを潰していき、再び全身がスライムの体液まみれになる。
潰したスライムには銀色や黒色もあったようだが確認している暇がない。
「やばい・死ぬ死ぬ、俺をこの世界に送った責任者出て来〜い」
『ピロリ〜ン!スキル:第六感を取得』
『ピロリ〜ン!スキル:異空間倉庫3を獲得』
『ピロリ〜ン!スキル:生活魔法1を獲得』
「何・魔法だと、火よ出ろ!ファイアファイアファイア・・・・」
指先にマッチの火種ほどの小さな火が出た。
それを見たサイクロップスは腹を抱えて笑っている。
「くそ〜魔物に笑われてる。生活魔法じゃ戦えねだろう」
再び必死に逃げる。
しかし、棍棒が大輔のすぐ近くに振り下ろされた。
再び爆風で吹き飛ばされ砂煙が舞う中、再び体全身でスライムを次々に潰していく。
『ピロリ〜ン!スキル:気配遮断1を獲得』
「気配遮断1・・もう、足が動かん。逃げきれない。これにかけるしかない」
逃げるための体力もなく、日頃の運動不足もあって、すでに足が限界に来ていた。
砂煙の舞う中、大木の根元に隠れ必死にスキル気配遮断が働いてくれることを祈り、息を凝らして心の中で叫び続けた。
『気配遮断気配遮断・・・・・・・・』
スキル気配遮断の働きで気配を隠したため、見失ったサイクロップスは棍棒で周辺を叩き暴れていたが、大輔を発見できないため、やがて立ち去っていった。
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