第5話 カレー電線とオーダー電線「私の下をくぐってみて」

理科りかちゃん先輩!今日はずっと雨が降ってますね。」


「じゃあ今日は、なぜ雨が降るのか解説しよっかな?気になるよね?」


「雨ですか?さすがに僕でも知ってますよ!」


「もう知ってるの?」


「はい。雲があるからですよね?」


「そうだけど。じゃあ雲は、どうやって生まれるの?」


「勝手に生まれるんじゃないんですか?」


「それじゃ何の説明にもなってないよね?」


「そうですか?」


「雲は冷たい風と暖かい風が出会うと生まれるんだよね。」


「そうなんですね。どっちがお父さんで、どっちがお母さんなんですか?」


「冷たい風と暖かい風、どっちやりたい?」


「僕が選んでいいんですか?じゃあ僕が冷たい風で。理科りかちゃん先輩に温めてほしいです。」


「そしたら私が暖かい風ね。」


「はい。」


「じゃあ私の下をくぐってみて。」


「えっ?僕が理科りかちゃん先輩の足の間を通るってことですか?」


「うん。」


「大丈夫なんですか?この角度からだと、今にも見えそうですけど。」


「ただし勢いよく通ってね。」


「勢いよく?じゃあくぐりますね。」


「通ったよね。」


「はい。あっ、しまった!勢いよくくぐるのに夢中で、上を見るのを忘れてた。」


「今ので大丈夫。そうすると雲が生まれるのね。」


「今のだけで雲が生まれるんですか?」


「うん。雲が発生して、狭い範囲で激しい雨になるのね。」


「今ので激しいんですか?」


「こういう冷たい風と暖かい風が出会う場所を、前線ぜんせんって言うんだよね。前線ぜんせんは聞いたことがある?」


「はい。電柱でんちゅうにあって、電気が流れてるやつですよね?」


「それは電線でんせんだから!」


「えっ?違うんですか?」


「うん。このパターンの前線ぜんせんを、寒冷かんれい前線ぜんせんと呼ぶのね。」


「カレー前線ぜんせんですか?」


「さっきは冷たい風が、暖かい風の下に勢いよく入っていったよね。」


「あっ!もう一回だけ通っていいですか?今度こそ!」


「今度は逆のパターンをするから。」


「逆のパターンですか?」


「そこに寝転がってみて。」


「僕だけ寝転がるんですか?」


「そしたら私が上に覆いかぶさるね。」


「僕の上に理科りかちゃん先輩が覆いかぶさるんですか?かなり積極的なんですね!」


「積極的じゃないよ?今度はこうやって私が、ゆっくりと覆いかぶさっていくんだよね。」


「なるほど。焦らす感じですか?」


「そして私が上に覆いかぶさると、雲が生まれるのね。」


「えっ?またそれだけで雲が生まれるんですか?」


「そうだね。」


「僕の上に理科りかちゃん先輩が覆いかぶさっただけで、こんな状況から何もしないんですか?」


「うん。こうやって雲が発生すると、広い範囲で雨が降るのね。」


「広い範囲ですか?」


「そう。このパターンの前線ぜんせんを、温暖おんだん前線ぜんせんと呼ぶのね。」


「オーダー前線ぜんせんですか?」


「まとめると冷たい風と暖かい風が出会うと雲が生まれて、出会い方が違うと雨の降り方も違うんだよね。」


「さっきみたいに単に出会っただけで、雨が生まれるんですね。そういえば風は、どこからやって来るんですか?」


「風は高気圧こうきあつから低気圧ていきあつに流れてるんだよね。高気圧こうきあつ低気圧ていきあつは知ってる?」


「あっ、妹がよく低気圧ていきあつだって言ってますね!」


「それは低血圧ていけつあつだから!」


「僕の妹は低血圧ていけつあつなんですか?」


「妹さんがいたんだね?」


「はい。あれ?話しませんでした?」


「えっ?話してもらったっけ?」


「はい。妹も一重ひとえまぶたなんですよね。」


「この前、ご家族はみんな一重ひとえだって言ってたね。」


「そうなんですよ。でも妹は一重ひとえが嫌だって言って、アイプチを使ってるんですよ。」


「アイプチの伏線が、ここで回収されるんだ?妹さんは、科学に興味があるかな?」


「最初は理科りかちゃん研究部で覚えたことを、僕の妹にも教えてあげようと思ってたんですけど、よく考えたら説明しても理解できないと思いますね。」


「そうなのかな?」


「だって塩化水素えんかすいそ防火水槽ぼうかすいそうと間違えてるんですよ?」


「なんで人のせいにしちゃってるの!」


「しかもオームの法則を、鳥の法則だって言ってるんですよ?」


「それも人のせいにしちゃってるんだ?科学をわかりやすく説明するのって難しいよね?」


「それに前線ぜんせん電線でんせんのことだって言ってましたよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る