第16話 マリア様という方 オクトラス視点

 業務をなさるときの表情は真剣そのものだ。まるでこのカテリーナ国を我が国のように憂い真剣に業務をするその姿は聖母に近いものさえある。


 業務改革を私に進言されてきたときの表情はパッと咲いた可憐な蕾のような顔をされていた。なんとも愛おしいが、それでも業務改善の進言をしてきているマリア様を一言で表現するなら神童に等しいものがあると思った。


 一体あのような考えはどこから思い浮かぶのか。少なくともこの世界にはない考えのようにさえ私には思える。実際マリア様の言うことを聞くと10分の1ぐらいに楽になったことは確かだ。


 中庭でエルルとフラール嬢にからかわれたときは本当に恥ずかしい気持ちになった。まるで彼女たちの言うことは私の心の中に生まれつつある、温かななにか触れる物だった。そして照れたマリア様は本当に可愛いとさえ思ってしまった。私は武人だ。なよなよとした部分は見せたくはないと思うがどうにもマリア様のことになると自制が効かないらしい。


 お似合いなのにという言葉を聞いた時は本当になにか恥ずかしい気持ちで一杯になった。私は朴念仁と言われるがこの気持ちは恋なのではないかと思うほどだ。


 元々この辺境国、特に戦や魔物との戦闘が絶えない国の私のような国主の元へ嫁がれる方はまれなのだ。なぜなら早死にすることが多いからだ。


 父は騎士、母は魔法師だったがやはり戦で死んでしまった経緯がある。そのようなことは周辺国に伝わってしまうので、私の元へ娘を嫁がせるという物好きはいない。


 今は宰相のソラスがハルバート国と交渉しているので戦にはならないが、それでも国と国の緊迫した状態に変わりはない。


 話は変わるが、マリア様がまさかアルゼジャンの言葉を喋れるとは思わなかった。あの方はどれだけ有能な方なのだと思うと正直舌を巻く気持ちになる。


 本で読んでマスターしたとか最早化け物の領域にしか思えない。あまりの流麗なアルゼジャン語に私は聞き入ってしまったほどだ。


 更に魔法まで扱えるとは知らなかった。それも恐らくあれは高度な魔法だ。魔法学園の教師になれるほどの魔法だと私は見た瞬間に思った。そんな魔法に設計図を引いている彼女の姿は一角の職人を

想起させるほどの真剣な表情だと思った。


美しく雄々しく、まるで手練れの女戦士という印象さえ受ける。本当に出来る女性を生まれてから初めて見た。正直に言って格好がいいとさえ思った。


 その挙げ句あの魔法の理論体系を応用した魔法計算機だ。一体どういう頭をしていればあのような考えもつかない物を生み出してしまうのか、本当にその恐ろしい才能に脱帽するばかりだ。


 事実あの魔法計算機が出来てから本当に業務が楽になった。あの方はこの国に来た聖母なのではないかと思える。ときどき造語を喋られるのでそういうお茶目なところも可愛い。


 害獣よけの柵を作っているときも彼女が率先して指示を出していた。まるでその姿は騎士団長が剣を騎士に教えるごときの動きだった。ややお転婆にも見えなくないマリア様はとても可愛く、愛おしいなにかがあった。


 更にその発明の特許をこの国の貧民救済に充てるというのだ、最早なんという優しさと慈愛がある方なのだと尊敬の念さえ抱く。


 私はそんなマリア様に負けない国主にならなければならないと思うと同時に、マリア様に尊敬と愛情を抱くのだった。

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