第28話 ガランド砦レクチャー戦線 2

 どこまでも続く地下通路をひたすら歩いているうちに、光り輝いていた俺の全身はほぼ通常に戻りつつあった。


「かなり歩いているが、まだ地上へはたどり着かないのか?」


 時間にすれば恐らく数時間は歩き続けている。流石に聖女や王女は疲れ果てた表情を見せているが、ボスがどこかで立ち止まるといった様子も見られない。


「……もうすぐだ。あんたのその光った全身が消える頃には着く。まさか、もう歩けないとか言うんじゃねえよな?」

「俺は問題ないが……」


 クレアたちに目をやると、シャンテは平気そうなうえリミアをおんぶしているから問題ないとしても、聖女アルマとクレアはだいぶしんどそうに見える。


「聖女を含めた女性たちには酷だが、おっさんの仲間だろう? まだ限界は迎えてないはずだ。まぁ最悪の場合は、後ろの冒険者どもにでもおぶってもらえばいい」

「……それもありか」


 だが、後ろを歩くクレアとアルマからは非難の声がすぐに上がる。

 

「甘く見ないでくれる? アクセルよりも若いわたしが遅れを取るなんてありえないんだから!!」

「ふん、聖女ってだけで大事にされるのも悪くないが、あたしはアクセル以外の男におぶられるほど安くないんだ。そこんところ、覚えておきなよ!」

「む。そうだな、すまん」


 聖女をおぶったことはないが……しかし、冒険者たちに彼女たちを任せるのは安易な考えだったな。


「……いい仲間をお持ちなようで何よりだな、おっさん」

「そりゃどうも」


 ……などと茶化し合いながら歩き進むと、全身に帯びていた光が徐々に薄くなり、俺が放っていた眩しい光は完全に消えた。


「……なるほどな」

「半日経ったからな。それくらい時間が経ったわけだ。今なら後ろから夜襲をかけ放題だ。奴らは虚を突かれてその場でたじろくはずだ!」

「俺が先制攻撃するのは変わらないわけだな?」

「道具を駆使して強さを見せれば誰もおっさんに逆らう奴なんざいねえよ。無論、アライアンスパーティーの奴らもな」


 出来れば無限収納から出した道具で攻撃をしたくないのだが、そうも言ってられないわけだ。


「シャンテとクレア、それからアルマはこいつらと一緒に待機だ! リミアはそのまま寝かせておいてくれ。外に出た直後に俺が不意打ち攻撃を仕掛ける」


 もしかすれば俺が単独攻撃することを止めるかもと彼女たちに声をかけるが、


「いよいよアクセルさまの勇姿が拝見出来るのですか!」

「気をつけなさいよね、アクセル」

「ムニャ……」

「アクセル。あんたの弟子としてきちんと見届けてやる! 存分に暴れてやんな!」


 ……誰も俺を止めず、不意打ち攻撃に期待の眼差しを向けてくるだけだった。


 仕方ない、向こうのアライアンスパーティーにも俺の道具を間違って使ってる奴もいることだし、そいつらの懐にでも突っ込んでレクチャーしながら降伏させるだけだ。


「ここだ。バーネルのおっさん。ここの梯子を上り切れば奴らの拠点の背後らへんに出る。オレらはおっさんが仕掛けた後に動く」

「分かった」


 面倒だしやりたくないが、念を押されたので梯子を上って外へと脱出した。


「ふぅっ……」


 地下通路の梯子から上り、外に出ると辺りはすっかり暗くなっていた。すぐに辺りを警戒しながら冒険者がいるであろう場所に目をやると、いくつものテントが設置されているのが確認出来る。


 まだ夜は更け込んでもいないが、テントの前に立っている見張りの数は極端に少ない。この状態で奇襲をかけるとなると、目に見えた効果を見せることは難しいと考え、まずはテントの中にいる連中に全て出てきてもらうことにした。

 

 梯子から誰かが出てくるのを待たずに、無限収納から【暴風マント】を取り出し、それを身に着けずに見える範囲に向けて扇いだ。


 直後、俺から見える範囲にあった冒険者のテント、監視の冒険者もろとも数百メートルほど吹き飛ばすことに成功する。


 数十人ほどの悲鳴や叫びが周辺に響く中、ボスとシャンテが俺の後ろに立ってその様子に唖然としながらを黙って眺めていた。

 

「どうだ? アライアンスパーティーとやらの連中を一掃したぞ!」


 正確には風で一時的に吹き飛ばしただけで、連中に大ダメージを与えたわけではないのだが。


「さ、流石でございます!! あれほどの数を相手にマントを扇ぐだけで飛ばしてしまうなんて……! 流石はアクセルさま! あぁぁぁ!!」


 などと、シャンテは感動のあまりその場に膝をついて涙を流しているがはっきり言って全然大したことはしてない。


「バーネルのおっさん……いや、あなたは砦を築いた英雄と同等の力を有する本物の英雄だったんだな。これまでの無礼をどうか、お許しいただきたく……」


 砦のボスもどういうわけか、俺に跪いてこれまでの態度がガラリと変わっている。


「……ん? 悪いが俺は英雄じゃないぞ」

「いいえ! あなたのお使いになったマントは、英雄が持ち帰ることが出来なかったレア級の道具! だが、それをいともたやすく使い、一帯の連中を簡単に吹き飛ばすなどと、そんなことは誰にでも出来るものではなく……」


 かつての仲間から譲り受けた暴風マントなだけなんだが。


 今のところ地上に出てきたのはシャンテとボスの男だけだが、二人して俺に跪いている状況を後から外に出てくるクレアたちにどう説明すればいいんだ?


「アクセル!! 遠くから数人だけだけど、冒険者があんたに向かって来てるわ! 何とかしてよね!」


 順に地上に上がってきている中、クレアの気づきで俺に向かってくる連中にすぐに気づくことが出来た。


 すぐにでも攻撃態勢に入っているのは、二、三人のようで俺が貸した道具を手にしているのが見える。


 俺の役目はあくまでデモンストレーション的な奇襲だけをする予定だったが、シャンテとボスは跪いていてすぐには行動を起こせそうにないので、とりあえず俺のレンタル道具を手にしてる奴らを出迎えてやることにした。


「お師匠さま~頑張ってにぁ!」

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