一章 邂逅 04
「お嬢様、起きなくていいんですか?」
「ん……、何?」
織部本家で使用人として働く老婆に揺すり起こされた美栄は、まだ辺りが暗かったので顔をしかめた。
「……まだ随分と早いじゃない」
「今日は神祇卿宮様が出立される日ですよ」
老婆の発言に一気に目が覚めた。
「今何時!? やだ、早く支度しなきゃ!」
美栄は慌てて飛び起きた。
本当はもっと早く起きて、気合を入れて身支度するはずだったのに。
美栄は里の男にはない気品を持つ美形の皇子様に夢中だった。
もし気に入ってもらえたら、身分差があるから正妻は無理でも妾にして貰えるかもしれない。
そんな思いから彼がやってきてから二日間、案内役を買って出て精一杯自分を売り込んだつもりである。
(これが最後の機会なのに!)
大急ぎで何とかそれなりに見えるように取り繕うと、美栄は玄関口に急ぐ。
だが、廊下の途中で、今まさに正門を出て行こうとする神祇卿宮の姿を目撃し、間に合わなかった事を悟る。
がっくりとして肩を落とした美栄は、彼の隣に寧々の姿があるのに気付き、大きく目を見開いた。
神祇卿宮も寧々も旅装で、連れ立って門から外へと出て行った。
(どういう事?)
「美栄、やっと起きたの? 宮様はもうお帰りになったわよ」
呆然と立ち尽くしていると、玄関側からこちらに勢津子がやってきて声をかけてきた。
「お母様、お姉様が宮様と一緒に出て行ったんだけど」
「そうね。寧々は宮様に気に入られて、帝都でお仕えする事になったの」
「は?」
勢津子の説明に美栄は唖然とした。
「気に入られたってどういう事!? お仕えするって……」
「そのまんまの意味よ。妖魔の首を刎ねた姿に一目惚れしたみたい……。今でも信じられないけれど、宮様は毛色の変わった女性がお好みだったようね」
「お姉様みたいに野蛮な人が好みだったって事!? しかも宮様より年上の年増じゃない!」
「口を慎みなさい。あの子がうまく宮様に取り入ってくれたら里のためになるのよ!」
ピシャリと叱られて美栄は唖然とした。
「まさか何の役にも立たないと思っていたあの子が宮様に見初められるなんて、何があるかわからないものね……。こんな事ならもう少しあの子には、女の子らしい事を学ばせておくべきだったわ」
物憂げな表情でつぶやく勢津子の言動が信じられなくて、美栄は自失から立ち直れない。
(いや、おかしいでしょ!!)
昨日までは寧々にきつく当たっていた癖に。
「美栄、あなたの縁談も見直さないとね。宮様にお願いしたら、もっといいご縁をご紹介いただけるかもしれないわ。落ち着いた頃に様子を見に行かなくては」
浮き立った表情そう告げると、勢津子は美栄の前を通り過ぎるとそのまま廊下の奥へと去っていった。
残された美栄はわなわなと震える。
(お姉様の癖に……!)
路面電車に洋風建築、お洒落な喫茶店。霊布の納品に同行して少しだけ見物した帝都はとても華やかだった。
憧れの場所で、しかも神祇卿宮という高貴で見目麗しい男性の傍で、何もかもが自分よりも劣る寧々が暮らすと思うと、煮えたぎるような怒りが腹の底から湧き上がった。
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