1の6 特別な加護もちでした
◆
ヴィヴィアンを下層に送った馬車が、シュレーゲン公爵の屋敷に戻ってきた。
フェロウズ家は建国時から代々シュレーゲンという広大な領地を治めてきた、二大公爵家のうちの一つである。
カルロスは馬車を玄関の前でとめると、降りてきた主人に声をかけた。
「とりあえず今日のところは作戦成功ですね! ヴィヴィアン様が馬車に乗ってくれたとき、滅茶苦茶ホッとしましたよ。アレク様の顔が良くできてて本当によかったぁ~!」
「……あのな、俺の顔に釣られて馬車に乗ってくれたわけじゃないからな」
「あれっ違うんですか。僕はてっきりそうだと……じゃあ何に釣られてくれたんです?」
「仕事」
アレクはぼそっと呟いて屋敷に入った。その後ろにカルロスが続く。
「仕事かぁ、それはちょっと手強そうですね。ヴィヴィアン様がその辺の娘さんみたいに、簡単にアレク様に惚れてくれたら話が早かったんだけどな」
「別に、すぐに惚れてくれなくても構わない。とりあえず今日のところは繋がりを持てたからな……。やっぱり実物はいいな、俺の頭の中に住む彼女より何百倍も可愛かった……! 話してると楽しいし、聡明でしっかりしてる。今すぐ公爵夫人になっても問題なさそうだ」
「……妄想が爆走してますね。完全にヤバイ奴の発言ですよ……。お願いだからちゃんと
「これから頑張るさ。それより今は、なんでクラリーネがここに来たのかってことが気になる」
アレクは書斎に入り、引き出しから何かが詳細に書かれた一枚の紙を取り出した。
「本来だと、クラリーネはショーでヴィヴィを見つけるはずだった。それを阻止するためにクラリーネの仕事量を調整したのに、どうなってるんだ?」
「アレク様がギリギリまで
「仕方ないだろ、ヴィヴィを助けるためだ。……もしかすると、俺たちが違う動きをしたから、クラリーネも影響された――ってことなのかもな」
「でもマントで隠したんだから、ヴィヴィアン様の顔は見てないはずですよ」
「だといいが……。クラリーネは勘が鋭いから心配だ」
アレクは眉をひそめながらじっと紙を見ている。
カルロスは少しためらいがちに口を開いた。
「本当にこのまま作戦を続行しますか? ヴィヴィアン様を最後まで守った場合、僕たちにも何か影響が出るかもしれませんよ。……『あちら』に行かないわけですから」
「……分かってるよ。それでも、二度と会えなくなるよりはマシだ。……生きて戻ってこれるっていう確証はどこにもないんだ」
アレクの声には痛々しいまでの決意が宿っていて、カルロスは何も言えずに口を閉ざした。それはつまり、作戦は続けるしかないのだという、暗黙の了解だった。
◆
翌日早めに起きた私は、工房に出勤してすぐにライラさんへ昨日のことを報告した。
さすがにアレク様との同居うんぬんの話はしなかったけど、五着も契約をもぎ取ってきた私を大いに褒めてくれて、モデルの手当を当初の金額より少し増やしてくれた。
(最高! これでクリスの入学金は貯まったわね。あとは授業料だけだわ)
その授業料の方がずっと高額なのだが、私は努力が報われたことに満足していた。
今日は仕事が終わったらすぐに仕送りの手続きをしに行こう。アレク様にドレスのデザインについて詳細を聞くのは、また後日でもいいはずだ。
ウキウキしながら働いていたが、もう少しで終業という時刻にとても意外なお客様がやってきた。
「ヴィヴィ、あんたにお客さんだよ。教会の神官様だって」
「きょ……教会? え、なんで? 本当ですか?」
「嘘ついてどうすんのよ。なんの用かは知らないけど、あの白い衣装は間違いなく神官様でしょ。裏口で待ってらっしゃるから、早く行きなさいね」
(どうして私? 昨日の大聖女様の様子と何か関係があるの?)
首を傾げながら裏口に行くと、確かに神官の衣装を着た男性が立っている。眼鏡をかけた学者風の人だ。
「私は教会本部に在籍しているエリゼオと申します。ヴィヴィアンさんでしょうか?」
「は、はい。私がヴィヴィアンです」
「大聖女様があなたにお会いしたいと
「大聖女様が……。でも、ちょっと仕事が立て込んでて……」
アレク様との約束があるから、できれば教会には行きたくない。そう思って断ろうとした時、私の横を通りすぎたライラさんが手の動きで「早く行きなさい」と指し示した。
(うう、やっぱり駄目か……。アレク様との約束を破っちゃうけど、さすがに大聖女様の呼び出しは断れないわ)
私みたいな一般人がそんな失礼なことをできるはずもなく、エリゼオさんと一緒に大通りにとまっていた教会専用の白い馬車に乗り込んだ。
(ドレスを依頼する代わりに、教会に近づかないって約束……どうしよう。土下座して謝ったら許してくれるかな? あ、そうだ、同居することを了承したら許してくれるかも。……
悶々と考え込む私を心配したのか、エリゼオさんが優しげな声で言った。
「そう心配せずとも大丈夫ですよ。大聖女様はお優しい方です」
「は、はい」
私の不安を和らげようとしてくださっている。いい人だ……!
感動しているうちに馬車は上層の教会本部へ到着した。
全体的に白を基調とした荘厳な建物で、三つの棟から成り立っているようだ。後方には林があり、その向こうに聖騎士団の本部も見える。
エリゼオさんは真ん中の最も大きな建物に私を案内した。廊下を進んでいくと木製の大きな扉があり、彼はノックして「エリゼオです。ヴィヴィアンさんをお連れしました」と声をかけている。
すぐに「お入りなさい」と昨日も聞いた声が室内から響いて、私だけが中に通された。窓の前に執務机があり、髪をきっちり結い上げた大聖女様が椅子に座っている。
「急に呼び出して申し訳ありませんでしたね。あなたがヴィヴィアンさんですか?」
「はい。ヴィヴィアン・グレニスターと申します」
慣れないカーテシーをする私を大聖女様がじっと見ている。なぜか顔じゃなくて、服の方に視線を感じる。
「やはり昨日アレク様と一緒にいたのは、あなたで間違いないようですね。本当はもっと早い時刻にお呼びしたかったのですが、調べるのに手間取ってしまいました」
調べるのが大変だったのは、アレク様が私をマント包みにしたせいじゃないだろうか。
(アレク様と何があったかを聞きたいのかな?)
そう思っていたけど、大聖女様が言ったのは私が予想もしてないことだった。
「時間がもったいないですから、手短に話しましょう。あなたが着ている服には何かの加護がついていますね。昨日の服もそうですが、あなたが作ったのですか?」
「そ、そうですけど……。加護? 魔物よけの力が、加護だったってことですか?」
「魔物よけ?」
大聖女様が
「三年ぐらい前にこの効果があるのが分かって、それからずっと故郷の人たちに私が縫ったものを配ってるんです。でも効果は約三ヶ月で切れちゃうし、大きな魔物には効かないから……加護だとは思ってませんでした。加護って、神様の力みたいなもっとすごいものかと思ってて」
「……前代未聞ですね」
大聖女様はなぜかひどく驚いた様子で立ち上がり、衣装棚から聖女の白い上着を持ってきた。
「普通、加護というのは、このような
クラリーネ様が持つ上着の内側に、円と正方形が重なった図形があり、その中心には何かの文字が縫い付けられている。
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