第67話 輸送部隊

「おお、トウジ隊長戻ったか、ご苦労じゃったな。

 ん? ずいぶん人数が少ないのう、他の隊員はどうした?」


 ユーザ陛下が帰還した隊長に問う。

 トウジ隊長は、荷物を持ち帰ったメンバー以外は、ユネブ副隊長と共に新規階層の探索にあたっていると告げた。


「はっはっは、それでお主が戻ってきたと。

 まあよかろう、13階層ではまだお主の力は不要じゃろうて」


「しかし陛下、再度調査に戻る事も十分に可能ですが?」


 ドロップ品さえ届けてしまえば、また現場に舞い戻っても構わないのだ。

 あんな食事が美味くて、敵の手応えもない呑気なダンジョンに一週間ほど潜った程度では、休暇を取る気にもならない。

 トウジ隊長は干し肉と油だけ買い足し準備をして、またダンジョンに戻るつもりだった。


「あー、慌てるでないトウジよ。

 温泉ダンジョンの方の、一時的な強化薬が作れる階層は知っておるな?

 検証を任せておいたナウサ家の三女と、第2部隊によってあらかた効果は調べ上げたのだが。

 これを使って特訓すれば、より強さを身につけられるのではないかという話が出ておってな」


「!! 詳しくお聞かせ願えますか!?」


 パワーアップという話を聞いて、トウジ隊長の目が少女のように輝き、一瞬で食いつく。


「う、うむ、例えば一時的に筋力が上がる薬を飲み。

 普段なら絶対に持てない重さの重量でトレーニングをした場合、その成果はどうなるのか?

 あるいは一時的に体力が減らない薬が効いている間に、10秒で体力が尽きるような苛烈な運動を数分間行い続けた場合、その運動成果はどうなるのか? といった感じのアイデアが何十種類とな……」


「なるほど、たしかに実際にやってみなければわかりませんね……。

 体力の減らない薬が効いている間に、苛烈な運動をするという行為は。

 通常より効果的な訓練なのか、それとも全くの無意味な行為なのか、想像では判断ができません」


 そう口では言ってみるものの、

 その顔は期待に満ち溢れて笑みがこぼれている。

 人間どんな分野でも、鍛え上げるほどに「伸び悩み」や「成長の限界」に突き当たるのだ。

 限界の壁を破壊する可能性を感じる特訓法というだけでも、トウジ隊長にとってはとてつもない希望に満ち溢れている。


「うん、これは、やってみるしかありませんね、やりましょう! すぐにでも!」


「ただ、前にやったような、ダンジョンの奥でトレーニングや武術訓練に励むだけの日々は許可せんぞ?


 9階層まで限界を超えた重さの石鹸なり酒なりを運ぶ事で、ダンジョン品を運び出すといった国益にも添った業務を兼ねつつ訓練に励め」


「ん? なぜ9階層までなのでしょうか?」


「ダンジョンの瘴気が薄くなる浅い階層に行けば行くほど、パワーアップの薬の効果が低くなるから、薬を使った特訓の意味がなくなるらしいのだ。

 まあ、9階層から先は、ドロップ品回収専門の輸送部隊を作る予定じゃから、そいつらに渡す事になるじゃろう。

 登山が得意の体力自慢とそいつらの護衛をいくらでも大募集中じゃ」


 ドロップ品を運ぶ専門部隊は、他所の国の巨大ダンジョンには当たり前にいる。

 今までは、ダンジョンドロップ品を運ぶ専門の部隊は、セパンス王国には存在していなかったが。

 最近のダンジョンの品揃えならば、大規模な輸送部隊を設立した方が採算が取れる判断をしたのだろう。

 

 他国の輸送部隊にドロップ品を運ばせると、見返りに恐ろしい量の品をぼったくられるので。

 正直トウジ隊長は輸送部隊の事が好きではなかったが。

 自国の輸送部隊に渡す場合は、丸々全部持ち帰れるのと同義だ。


「第1部隊入りを望む志願者は毎年大勢おるじゃろ?

 そいつらの中で第1部隊になれそうにない奴も、輸送部隊に入れば悠々自適な生活には手が届く」


「まあ、毎年合格者はほとんど出てきませんし、その合格者も最終試験でだいたい消えてしまいますからね……」 


 セパンス王国では第1部隊に入隊できれば、貧民でも平民でも上位貴族級の身分を手にすることができるが、その門は狭き門だ。

 毎年仮入隊の合格者ですら大した人数でてこないし、他国で20階層以下のドロップ品を1年集めてくるという正式入隊の最終試験で大幅に減る。

 減る理由は死ぬか、壊れるか、耐えられなくなるかだ。


 なお、そんな試験を乗り越え正式な第1部隊になった後も、最終試験と同じような生活が死ぬか引退の日まで続くのである。

 そんな狂った部隊に入るよりは、安定した生活が望める輸送部隊になった方がはるかにまともな人生になるだろう。


「まあ小金持ちの平民で十分と言うやつも大勢おるじゃろ、さほど人材確保には苦労はせんと思うがの」


「ダンジョン探索人材の確保に苦労しないのは、セパンスの強みですね……」


 飯困らずダンジョン低階層という、食糧無限の貧民窟で。

 武功での立身出世を夢見る者が放っておいても湧き出てくるのだ。

 他国から見れば、兵士が畑から取れるかのような国なのだ。


「かしこまりました、ユーザ陛下、それでは温泉ダンジョンと、飯困らず、どちらの方のドロップ品確保を優先的に進めましょうか?」


「温泉ダンジョンの方じゃ。

 飯困らずの方は、お主らが行かずとも、数多の冒険者や他国の軍勢でも相当な量が確保できる。

 だがあちらは女以外は気軽には入れんからの、第2部隊の酷使にも流石にそろそろ限度がある。

 それに鏡の確保もしばらくセパンス王国の独占になるゆえ、常にあのダンジョンの地下に人材は送らねばならん。

 ……あとは、何よりもじゃ……」


「何よりも、何です?」


「新しい階層を、他所に最初に見つけられたくない」


「……なるほど」


「飯困らずダンジョンは構わん、あそこはただ異様に美味い食事と高価な宝石が出てくるだけに過ぎぬ。

 だが、温泉ダンジョンは違う。

 あのダンジョンは、深い階層になればなるほど、他国に気軽に漏らせぬ効果の内容が出てくる気がしてならん」


 14階層の一定時間パワーアップの効果食事も、ダンジョン限定なのでまだ良いが。

 あんなものが地上で使えるとなった場合、あっという間に世界で一番やばい兵器を量産できる国扱いを受けるだろう。

 いつ世界中から危険視されるようなものを、ポンと作ってしまうのかわからない怖さが、温泉ダンジョンにはある。


「かしこまりました、それでは温泉ダンジョンの下層は第1部隊が確保し。

 普段は鏡と石鹸の確保、薬の生産を日常業務といたしましょう」


 トウジ隊長としても、10階層の訓練効果が上がる湯がある分。

 温泉ダンジョンの方が都合がいいため、異論はない。


「うむ、飯困らずからユネブ副隊長率いる本隊が戻ってくるまでの間に、14階層のバフ飯の効果や作り方、それを使った訓練法の仮説をヴィヒタから聞いておくが良い」


「はっ」


 トウジ隊長は返事をすると、王宮を後にし。

 ヴィヒタから話を聞くため、ナウサ公爵邸へ向かっていった。

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