第25話 式部圭人:逆説的結果論
【戒視点】
――バサッ
(なんの音だ……?)
どうやら気を失っていたみたいだ。さっきまでは草原のど真ん中にいたはずだが、今は豪邸の中にいた。
「俺は一体何を……」
周囲を見渡す。
すると奥の闇から人の体が見えた。
「……だ……誰だッ……!」
俺は警戒しながら近づく。
だが闇に横たわっていたのは、人影などではなかった。
「……焔……?」
返事はない。
駆け寄って肩を揺さぶるが、温もりは既に消えかけていた。
胸に残る謎の痕。苦しんだ様子もなく、まるで眠るように倒れている。
そう言えば零がこんなこと言ってたっけ……
__________
【時は遡り天空戦線後】
「バルザーヌ……奴の力は想像を絶するものだ」
零が語り出す。
「奴は謎のエネルギー……"死"そのものを影狼にぶつけた」
「そのまま影狼はまるで最初から生命を授かっていなかったかのように倒れた」
バルザーヌ……
神崩しをまとめて俺たちを始末しようとしている集団。
___________
「そうか、バルザーヌ……」
思わず呟いた俺の耳に、冷たい声が差し込んだ。
「そう、我らが主。だが――今ここにいるのは俺だ、
闇の中から姿を現したのは、血のように紅い眼を輝かせた男――
「お前がッ……式部圭人ッ!」
式部が焔……違うッ……!
「許せないのはバルザーヌッ……!!」
「この傀儡戒がッ……散っていった友、
式部はゆっくりと微笑んだ。
「ほう……熱いな。だが、貴様は気付いていない」
「……何をだ」
「この血の匂いが――貴様自身をも蝕んでいることに」
そう言って、式部の掌から赤黒い血が滴り落ちる。
大理石の床に落ちたそれは、瞬く間に蛇のように蠢き出し、俺の足元を絡め取ろうと迫ってきた――。
「……
「痛ッ……なッ……!?」
式部の拳が俺の肋にめり込む。
そのまま壁に叩きつけられる。
「グハッ……!」
「お前が見ている世界は果たして現実なのか、それが真実なのか……考えたことがあるか?」
式部の声が揺らぐ。
その姿も、壁に叩きつけたはずの俺の体も、血の海に溶けるように歪み始める。
「やはりこれは幻覚か……!?」
「違うな。これは”事実”だ。――俺が血で描いた事実。虚偽であろうと、客観的に積み重なれば、それはやがて真実となる」
ダメだ……意識が薄れている……
肋にめり込む拳はどんどん押し込まれて行く。
「
「バルザーヌからお前たちの能力は聞いているからな、
薄れゆく意識の中、課長の声が聞こえてきた。
「見つけてわ〜式部ちゃん!」
「ッ……
「ふん、私だけしか警戒してないようだけど……零ちゃんもいるからねッ!」
次の瞬間
天井が崩れ落ちてきた。
そして空気が流れ込んでくる。
それも異質な……
「
【零視点】
雅から電話が来て、変な屋敷に来た。そして今、目の前に
「オラっ!くたばれッ!」
「ウグっあッ……」
そのまま式部を吹き飛ばす。
「はぁ……はぁ……しかしッ俺が攻撃を受けるたびに俺の能力がお前らを蝕むッ!」
次の瞬間、視界が歪む。
「クソッ……コレが式部の能力……」
「だけどッ、雅から能力は聞いている」
「すぅぅぅぅ……ここだァァァァッ!」
「
歪んだ視界の中、
「オラっ……オラララッ!」
感触は良好だ。
そして、俺は目を拭う。
すると視界が晴れる。
拭った手を見ると、赤い血がついていた。
「雅ッ、式部の能力は血を使って幻覚を見させる能力だッ!」
「そうよね、だけど私には届かないよッ!」
「それじゃあ行くよッ!戒ちゃんと零ちゃんはここから離れて!」
すると雅が視界から消える。
「離れるって……」
結局雅の言葉を信じて戒を担いで二階に避難する。
〜雅視点〜
「行くよ、ルナドールちゃんを打ち破った最強の技!」
『
消えた私を見て式部ちゃんはビックリしている。
「どこに行った……東方雅ッ!」
消えた私を探している式部ちゃんの腕が片方消える。
「なッ……ウガァァァァァ……血がッ……何が起こって……」
おそらくヒット!
まあ見えないし聞こえないから感覚だけどね!
「はぁ……はぁ……見えないが……触れたら死ぬッ!」
だけど、息がキツくなってきたな……そろそろ解除しないと息がもたないよ。
「最後にもう一回突撃!」
そして、
「ふう、どうかな?」
辺りを見渡すとボロボロの館だけが残っていた。
「あれ、式部ちゃんは?」
すると、上から零ちゃんの声が聞こえる。
「雅ッ、後ろだッ!
後ろを振り向くと式部ちゃんが襲いかかってきていた。
「
見えない回転に式部ちゃんが触れる。すると見る見る内に式部ちゃんの体が削れていく。必死に逃げようとするが慣性の力が悪さをしてそのまま飲み込まれる。
「なッ……ガハッ……やめろッ……俺は式部家の……」
そして完全に体は削り消える。
その先には零ちゃんが飛び込んでくる。
「ッ……マズイッ!?」
「大丈夫、解除したか……グハッ」
式部ちゃんを狙っていた零ちゃんの拳が飛びかかってくる。能力は解除したようだけど、普通にパンチが痛い。
「イタタタ……もう、零ちゃんったら!」
「こ……これ俺が悪いの……?」
零ちゃんの言葉を無視して屋敷を見渡す。〈おい、無視すんなッ!
「それより、式部ちゃんを倒したわよ!」
「まあ、そうだな」
「焔が……バルザーヌが……」
すると戒ちゃんがボソボソと何かを言い出す。
「どうしたんだ、戒?」
「バルザーヌ……バルザーヌッ……!」
戒ちゃんはバルザーヌの名を挙げると急に立ち上がり、何処かへ走って行く。
「ちょっと、戒ちゃん!」
すると背後から声が聞こえる。
それも、何処か聞いたことのあるような声だった。
「真空戦線・開幕!」
その声と同時に、館から他の空間に飛ばされる。
「な……なんだこれはッ!?」
「ッ……この空間ッ!?」
戒が何かを思い出したかのように、語り始める。
「天空戦線だッ……あの時の、神崩しの奴だ!」
すると、目の前に赤髪の少女がやってくる。
「ようこそ、私の真空戦線へ!」
そして、赤髪の少女の背後から低く、しかしはっきりと私たちに対する宣戦布告の言葉が聞こえる。
「どうやら、後は貴様らだけのようだな、
赤髪の少女の背後から体を出す。
「お……お前はッ……!?」
「ッ……バルザーヌッ!?」
すると不気味に笑い出す。
その姿はもはや悪魔そのものだった。
「ふはははは、どうやら我の配下を殺してくれたみたいだな。伏見禄や式部圭人、ゲリュウは知らないが、きっともう死んでいるだろう。だが、いいか?」
「これはただの宣戦布告ではない。
貴様……黒野零を裁く審判である」
バルザーヌは太陽のような物の逆光で神的な存在感を見せる。
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