haru.気まま短編集
haru.
言葉にならないこコトバ
駅前通りを過ぎた帰り道、裏路地の小さな商店街を抜けた先にある、三本目の電信柱は、何故か妙にどっしりと構えた印象がある。
そして、そこに辿り着く数歩前に、僕は今日は人影がないということに気付いた。
これは動揺とは違うのかもしれないが、頭の中の兵隊達が、勝手にわさわさと動き始める。
一歩、二歩と近付きながも、司令官は待機命令を出すのか、それとも平静を装って通過するのか、と少しだけ慌てている。
そのうちに柱へと辿り着き、そのまま一歩踏み出して通り過ぎようとしたところで、司令官が待ったをかけた。
携帯をポケットから取り出し、邪魔にならないよう柱の影に入って、取り込み中を演じる。
長居はしなくて良い。ほんの少し立ち止まっている間に、冷静に僕等の関係を考えてみる。
約束は一度もしていない。
どちらからともなく、先にここに着いた方が、たまたま近くの自販機でコーヒーを買い、その場でゴクゴクと飲み進める。
そんな場面に、どちらかがたまたま通りかかると、一緒に談笑しながら帰ることがある。
そして、先に居る方が飲み物を買っていない時は、
何かむしゃくしゃしているという合図で、後から来た方が飲み物を奢る、
という謎のルールが、僕等にはある。
これが僕とユナの関係だ。
以上でも以下でもない。
友達かと聞かれても分からない。
勿論、連絡先は知らないし、毎日会うわけでもない。
ただ、最近は多かったのと、あんなことがあった後だから、少しばかり気になってしまった。
さて、今日は帰ろうかな。
そう一歩踏み出すと、後ろから小さな手で肩をつつかれた。
「奢る?」
自販機を指差す彼女は、少し心配そうに僕を覗き込む。
「いや、今来たとこだよ」
よっぽど、彼女の方に疲れが見えた。
こんな時、奢ってあげたくなるが、変なルールのせいでそうはいかない。
「今日は遅かったの?」
「何それ?w変な話w」
僕というよりは、この奇妙な関係性を彼女は笑っているようだった。
「あっ。ちょっと待ってね。この間話してたとこだけど、行ってみたんだ。写真。」
無邪気そうに携帯を出し、写真を漁って僕に見せる。
並んで歩きながら何枚か覗き込んでいると、何故か僕は安心していることに気付いた。
「あ、ちょっとごめん。」
彼女の携帯に通知が入り、僕から離される。
おもむろに、真剣になった横顔を見ながら、
「それさあ」
という言葉が喉の手前で止まる。
あっという間にお互いの別れ道まで来ると、
「じゃあ、また明日」
「うん、また・・・。」
期待させる言葉はずるいと思いながらも、応えたい自分もいた。
右手を振りながら、何の未練も無さそうに去って行く彼女を見て、あと何回会えるだろうかと現実に戻る。
「異動になったんだ。他県に。」
言う筈の言葉ほど、夜の闇に呑まれて消えて行く。
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