33.穏やか熊さん、ジェイコブ・ウォール

(Side:雷切玲衣)



 最後まで丁寧に話してくれたウォールさん――正直、彼こそ親切だし気遣いのひとだと感じる――へ、

 私と遥さんは順にお礼を伝えたけど、

 遥さんはかなり今びっくりしてて、心が重く跳ねてるっぽい沈痛な面持ちだったから、

 まず私からウォールさんに思ってたこと、疑問点を訊いてみることにした。


「ウォールさん、じゃあ質問なんだけど先ずね、ウォールさんは今251歳でも若手らしいけど、

 この土地やレネアシャ全体の人口とか出産事情ってどういう風になってるのかしら。


 みんなウォールさんくらい寿命が長かったら、

 地球の人間基準だと人口爆発が起こりまくってヤバそうに感じたんだけど、

 話を聞く限りそうでもなさそうだったし、ちょっと気になって。

 本題から逸れた質問でごめんなさい、もし大丈夫なら教えてもらえる?」



「あハイ全然いいです、大丈夫です。こっちこそすンません、説明不足でした」


 ブラウンみホワイトグレージュの毛色も優しくて、ほどよく涼しいハンサム熊さんはスッと自然に応じてくれると、

 太くてしっかりの聞きやすい声ですぐ説明を続けてくれた。



 ……で、それによると、レネアシャでは人類カテゴリーでも種族ごとに寿命や多産性が異なっていて、

 いわゆる地球の人間と一緒な〝ヒューマン〟はその辺りもおおむね共通、

 ただ医療技術が未発達らしいのと治癒系ウィザードの人数不足から大往生の平均は現状60歳くらい、

 ヒューマン女性一生涯での平均出産数は3.2人。


 ウォールさんたち獣人さんの場合は寿命こそ非常に長いけど、

 多産性はヒューマンよりもっと、ずっと低くなっていて、

 獣人女性一生のうち出産は2回のみ、計2人しか子を産めない、成せないのが普通とのこと。

 双子、三つ子などは幻より幻の存在で、もし誕生したらそれこそ千年、万年に一度の吉事らしい。


 ただ、ご夫婦の身体能力や、あとスキル的能力、魔法的能力などが素晴らしく高ければ4人か5人までは子を成せるそうで、

 ウォールさんの言ってた三族のおささんご夫婦がどこも、その事例へドンピシャに該当していたそう。

 あと3人以上の子を成すには、特にお母さんの身体能力が重要だとか――まあそれはそうよね。地球の人間だって、多かれ少なかれ同事情はあるもの。


 また、エルフ、フェアリー、ドワーフ、オーク、オーガといった各妖精種族――フェアリーの呼称は大分類と同じ〝妖精〟とか、〝純妖精〟とされることも多いとか――の寿命や出産事情も獣人さんたちとほぼおんなじだけど、

 とりわけ高能力かつ長寿なエルフやオーガは多産性がさらに低くなってしまってて、

 エルフ女性は一生涯での平均出産数1.4人、オーガ女性は1.6人という少なさだとか。


 ただ、エルフさんやオーガさんは個々人の能力次第で、それぞれハイエルフ、ハイオーガに成長かつ変化できるそうで、

 そこまで行けると寿命的には不老不死――怪我や病気で死亡することはあるそうだけど――に成れるから、

 種族が絶滅してしまう危険性は今のとこ無いだろう、とのこと。


 あと妖精系の種族はこの土地、現魔王国では昔からかなり少人数しか居ないらしく、

 そこに来て現在はケネス・クレイグの統一戦争、大殺戮を経たあとだからもう本当に希少な存在と化してしまった、とか。


 ただ、フェアリー種族だけは精霊と同じく稀に自然発生することもあるから、

 統一戦争未経験の〝新世代〟なひとたちが率先してケネス・クレイグを信奉することも多くて、

 これはまさにフェアリー種族の、マシュー・クレイグ殿下も一緒らしい――と、ここでウォールさんは話が前後したことを謝ってくれた。ほんときちんとしたひとね、立場もあるのに謙虚で、凄いわ。


 で精霊種族、と、性質が近しいというフェアリー種族は、

 女性一生涯で出産は1回、たった1人の赤ちゃんしか産めないけれど、

 ごく稀に自然発生して誕生することがあるからこちらも絶滅はまず起こりえないんだとか。

 ケネス・クレイグ、マシュー・クレイグと、第1師団所属の大隊長、ゾーイ・ステリーってひとも自然発生組で、

 ケネス・クレイグが精霊種族、マシュー・クレイグとステリーさんはフェアリー種族。


 フェアリーが自然発生する確率は精霊よりさらに低いから、特にステリーさんはその点においてエリートを自称してるらしい。



 フーンいろいろめんどくさそうなひとね、なんて思ってたらウォールさんが今どうにも悲しそうな顔で、


「あいつ清浄院さんや葵さんにも迷惑かけてホントすみませんでした、

 清浄院さんのおかげで解決してくれてありがとうの限りです」


 とか言い出したんだけどちょッなにそれ聞いてないし気になるし尋ねなきゃッ、あでも聞いたわねお茶会でケネス・クレイグが言ってたわ、

 琴子が〝魔王国のソルジャー序列2位と3位に勝った〟からその技術よこせとか巫山戯ふざけまくった事、

 だからたぶんその2位or3位がステリーさんかな、試合でも強制されたのかしら?

 ただ琴子は今日ずっと元気いっぱいで、怪我なんて全然なかったからトラブル起きても無事だったのは確かね、ほんと良かったわ――まあ、考えたらサッと落ち着けたし、ウォールさんに確認取ってみましょう。


「あの、初耳のとこ多いからちょっとまた訊きたいんだけど、

 解決というのは琴子がステリーさんとの試合に勝って、何かしらの揉め事が終わったということ?


 お茶会で聞いた話から推測するに、

 ステリーさんはソルジャー序列2位か3位のヤバいひとっぽいでしょ、

 じゃあ彼女の方に怪我とかは無かった?


 勝った琴子が全身健康体なのは今さっきまで練習見てても、マッサージしてても良く分かったわ、

 でもステリーさんが武器使う上にめっちゃ強いなら、

 琴子だって相手の故障、怪我ね、そこ気遣う余裕無かったかもしれないから」



「あ、はい大丈夫です、全部雷切さんの言った通りですし、ステリーのやつもごく軽傷でした。

 それだって治癒魔法ですぐ元通りです、だから心配することないですよ。全然です。

 あと勿論、と言っていいんでしょうか、清浄院さんは二試合とも全くの無傷でしたよ。

 清浄院さん、動きもお体もほんッと強くて、凄く速いのに綺麗なのがはっきり理解できました。


 力が大きくて、柔らかくて、しなやかなんです、目にも止まらないのにはっきり印象に残って、だから分かるって言うか、

 ずっと綺麗で強くて、凄かったです――そう、ずっとですね、清浄院さんはいつも強いんだって分かるんです、

 まだほんの少ししか知りませんし、試合や練習を見させてもらってないですけど、でも強くて綺麗なのが特別な構えとかじゃない、

 清浄院さんのいつでもなんだってこと、分かります。

 いつも強くて綺麗だからこそ、あんなに凄くて、強いんでしょうね、きっと。


 アッ、すみません知ったようなコト言って、雷切さんの前で、あの専属のお医者様なのにほんとすみません、

 試合前後の事に戻りますンで、えっとはなし、説明続けますが、いいでしょうか?」



 ウォールさんが正しいのに慌てちゃってて、丁寧すぎるのがいっそ面白くて、

 私はちょっと笑顔で応じる。


「ええ勿論。あと気にしないで、聞いてて楽しかったし、嬉しかったから。

 琴子のこと、強いのも綺麗なのも、ちゃんと見てくれててありがとうね、ウォールさん♪」


 すると彼は微かに頬を赤くして、でも眉はキリリと誇らしげにスマイル、照れてもしっかり喜んでくれた。


「――はい。はいッ! こちらこそ、ですッ!」


「分かったわ、ご説明をよろしくね。まだ気になることあるし、ちょっと長いかもだけど、心からお願いするわ」


「どうもです! 時間でしたらこっちは夜以降でも全然いです、仕事も私生活も問題無いですから。

 ただ雷切さんと葵さんのご健康は、どうかお気をつけてくださいね。

 食事休憩とかもご随意に取れますから、なんでもご遠慮なくどうぞ」


「うん、ありがと。じゃあ続きね、琴子の試合たちから、聞かせて?」


「はい、では時間が前後しますけど、あとの方だったステリーとの試合に至ったワケから、行きますね。

 ステリーが試合前にやらかした自己強化の卑怯も――まあ清浄院さんはむしろ望むところらしくて、

 真摯にお喜びでしたけど、でもきちんとお伝えしますから」


 自己強化の卑怯? あ、自分とか武器とかをパワーアップするスキルや、

 あとひょっとしたらドーピングに、私がまだ知らない強化手段なんかもフライングで使ったってことかしら、

 それだったら確かに琴子は喜びそうね、相手が闘いに最善を尽くしてくれるんだもの。


 ステリーさんも軍隊の一員だから、最低限のルールや法律は守ったでしょうし――そもそも地球じゃないしねここ、ドーピングぽいことも多分OKなんでしょ。

 試合と言っても軍事的模擬戦の一環とか、そこに近い雰囲気なら尚更フルOKがそう。


 まあとにかくウォールさんのお話を聞いてから、また新たに尋ねさせてもらいましょう。


 ――次はセネットさんの立場とか、関係性を知りたいわ。

 特にウォールさん始め、土地に昔から居るひとたちと如何いかがな感じか、仲悪くないのかどうかとか。


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