【短編】“桃太郎”の原作知識しか持っていない俺が異世界にやってきたら……
左腕サザン
第1話 俺は異世界にやってきた
俺の名前は
国内最難関のTK大学に受験をするも、落ちて浪人することになった、18歳の高校三年生だ。
浪人したと言っても、正直TK大学なんか余裕で合格できたはずだった。
ならなぜ落ちたのか? そんなものは簡単。つまらないからだ。
大学っていうのは本来、自分のやりたいことをやるために行くものだろう? 学びたいものをより深く学ぶために行くものだろう?
だが俺にはそれがない。
それはなぜか?
俺だって本当なら、今頃勉強もそこそこ頑張って、趣味にも没頭して、友達と遊んで、青春を謳歌しているはずだったんだ。
だが、俺がこうなってしまったのは、俺の両親にある。
両親と言っても、俺の母と父は義父母だ。
本当の両親は、俺が5歳の時に交通事故で死んだ。
それから義父母に引き取られたんだが、この2人がとにかく学歴コンプレックスで、何かと俺に勉強を押し付けてきたんだ。
大好きだった読書もダメ。運動もダメ。当然ゲームやスマホなんてものは死んでもダメ。
良いのは勉強のみ。
そんなんだから、俺が勉強以外で知っているものと言えば、小さい時に両親が読み聞かせてくれた『桃太郎』くらいだった。
義父母に見つかれば殺されるだろうが、今でもその桃太郎の本は、大切に俺の部屋にしまってある。
まぁそんなことは良しとして、俺がTK大学の受験に落ちた時、2人は絶望した顔を浮かべていたな。
義母は一日中泣いて、義父は俺に暴力を振るう。
俺は運動もさせて貰えなかったから、2人に歯向かう力すらなく、言われるがままに勉強を続けるしかなかった。
だが、ついに限界が来たみたいだ。
「あっ……なん……で……ぐっ……」
そう、俺は過労死した。
一切の娯楽もなく、目的もないまま勉強を強いられたんだ。むしろよくここまで耐えてきたと思うよ。
「はぁ……良かっ……た……」
死は苦しいはずなのに、どういうわけか、あの2人から解放されると思うと、俺の心に安心感が宿った。
口元を僅かに綻ばせながら、俺はこの世と別れを告げた。
「ん……んあ……?」
次に目を覚ました時、俺は見知らぬ場所にいた。
真っ白な壁に高い天井、大きなシャンデリアに赤いカーペット。
ここは謁見の間だろうか。
正面には数多の金のアクセサリーを身につけた国王らしき人物と、王妃らしき女性。
その周りには、重厚な装備を身につけた数人の兵士。
その全てが、俺にとって目新しいものだった。
すると、国王らしき人物が口を開いた。
「いきなり呼び出してしまってすまない。私はこのアラガンス王国の国王、プライドだ。早速なのだが、君たちに頼み事があるのだ」
君“たち”?
その時、俺は隣に人の気配を気取る。
横を見てみると、俺と同じ歳くらいの青年が、辺りを俺と同じようにジロジロと見回していた。
だが、俺とひとつ違ったのは、彼の目はキラキラと輝いており、まるで憧れに手が届いたかのような、そんな目をしていた。
「ゔゔん。貴様ら、私が話しているのだから、私の目を見ぬか馬鹿者が!」
謁見の間に、国王の怒声が木霊する。
すると、隣にいた青年がハッとしたような顔をして、すぐに国王に向かって跪いた。
「申し訳ありません国王! どうかご無礼をお許しください!」
いきなり知らない地に呼び出しておいてなんだと思いたいところだが、相手は一王国の国王様だ。
確かに話している最中に別のことを考えているのは失敬だったかもしれない。
俺も彼の真似をして、国王に向かって跪いた。
すると、国王は怒りを沈めたのか、再び穏やかな表情と声に戻って、続きを話し始めた。
「実は、長年アラガンス王国が敵対しているオーガ族との抗争があるのだが、どうも戦力が足らず、こちらが劣勢となってしまっている。そこで、強大な力を持ちし異世界人に、是非とも力を貸していただきたいのだ」
その言葉に、隣の青年は嬉しそうな表情を浮かべる。
「はい! そういう話でしたら、是非ともこの
多田野さんがそう言うと、その態度に感心したのか、国王と王妃は嬉しそうに口角をつり上げた。
そして、次に、『お前はどうなのだ』と言わんばかりに、俺に鋭い眼光を向けてくる。
「はっ! そういうことか!」
その時、俺は完全にこの世界を理解した。
ここは、俺が昔両親に読んでもらった桃太郎の世界と同じなのだと。
「爺さん、婆さん、俺が必ず鬼ヶ島に行って、鬼を倒して、宝を取り返してくるから、安心してくれ!」
「なっ! なんて無礼な!」
「貴様! 誰に対してそんな口を聞いているのだ!?」
俺がそう言うと、2人は顔を真っ赤にして怒り出した。
なるほど、爺さんと婆さんは、俺が一人で鬼ヶ島に行くのが心配なのだろう。
「ありがとう。爺さん、婆さん。でも、俺は一人じゃない。ちゃんと仲間を作って、皆で鬼を退治してくる。だから、心配なんてしなくて良い!」
「なっ……私が、婆さん……?」
すると、ようやく理解してくれたのか、2人は体をプルプルと震わせながらだが、静かになった。
「ねえねえお兄さん」
その時、多田野さんが俺に話しかけてきた。
「お兄さん、俺、めっちゃ色んな異世界系の小説を読んできたっすけど、これ、100%追放っすよ」
なるほど、どうやら多田野さんもこの展開を知っているようだ。
「多田野さんも、桃太郎がお好きなんですね」
「……は?」
そう言うと、なぜか多田野さんは困惑した表情を浮かべてしまった。
「この無礼者が! お前たち! 今すぐこの無礼者を城から追い出せ! 早くしろ!」
いきなり爺さんが大声を上げたかと思えば、周りにいた兵士たちが俺のことを取り囲み、腕を掴んだ。
「貴様……国王様に無礼を働きおって」
「ほら行くぞ! さっさと歩け!」
俺は兵士たちに囲まれながら、謁見の間から連れ出された。
きっと、爺さんがようやく俺の意見を理解してくれたのだろう。
ここまで必死に俺を連れていこうとしてくれているのだから。
そうしてここから、俺、桃田郎による、異世界での鬼退治劇が幕を開ける。
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