第14話(生徒会選挙編③・完結):勝者は誰だ!?政(まつりごと)の果てに

 生徒会選挙・公開討論会。


 壇上に立つ3人――田所将宗、氷川清志、五十嵐士門。


 体育館には、選挙戦の空気とは思えないほどの熱気が渦巻いていた。


 これは、学校行事ではない。


 政(まつりごと)である――少なくとも彼らにとっては。



「では最後に、候補者それぞれから締めの一言をどうぞ」


 司会の先生の声に、まず前へ出たのは氷川。


「僕はこの学校が好きだ。真面目で、静かで、でもどこか優しい。そんな空気を守るために、僕はここに立っている」


「政治とは、目立つことじゃない。“支える”ことだ。みんなの未来のために、僕は政を貫く」


 全校が静まり返る。重く、真っ直ぐな言葉。


 続いて、五十嵐士門。


「YO! おれは正直、ふざけてるって思われてるかもだけど――」


 笑いが漏れる。


「でもさ、この“政(まつりごと)って遊び”、おれにとっては本気の“居場所作り”なんだよ。

 笑って、撮って、叫んで……そうやって繋がれた仲間の力を、今度は“本物の力”に変えたいって思った」


「バズだけじゃ終わらせねぇ。おれも、“学校”ってステージで、本気になる!」


 拍手が起きる。まばらだが、力強い。


 そして、最後は――田所将宗。


 陣羽織の裾を翻し、彼は一歩、壇上の中央へと進む。


「拙者、田所将宗!」


 言葉に、笑いがかすかに混じる。だが、それでも誰も止めない。


「かつて拙者は、ただの戦国オタクにござった。己の妄想だけで世界を変えられると思い、旗を立てた」


「“幕府ごっこ”と呼ばれたあの日々。文化祭、SNS、校外学習、夏の海……。すべて茶番と思われたかもしれぬ」


 そこで、彼は口を閉ざした。数秒の沈黙。


 そして――


「だが拙者は、胸を張って言える。“ふざけていても、真剣にやれば世界は変わる”と!」


 体育館がざわつく。


「拙者の政は、混沌にござる。理性でも秩序でもない。“勢い”と“愛”と“バカの本気”の結晶!」


「だがそれが、人を笑顔にし、誰かの背中を押し、“なんかちょっとやってみたくなる”――そんな政(まつりごと)だ!」


 藤宮がそっと目元をぬぐい、風魔が鼻をすすった。


 将軍は締めくくる。


「さあ、選ぶがよい。我らが未来を、我ら自身の手で!」



 ――翌日。


 HRにて、生徒会選挙の結果が放送で発表された。


「第68代 生徒会長、当選者は――」


 教室の空気が凍りつく。


「……氷川清志くんです!」


 田所はゆっくりと立ち上がった。


 拍手が沸き起こる。田所も、藤宮も、風魔も、その輪の中に加わった。


 そこへ、廊下から現れた氷川本人。


「田所」


 将軍と氷川、視線が交わる。


「……敗軍の将、兵を語るまい」


「違うな。今回の選挙、“勝った”のは僕かもしれない。でも、“学校を動かした”のは、お前だよ」


 その言葉に、田所はぽかんとした表情を浮かべた。


「制度も、文化も、空気も、お前がやった“遊び”が、ぜんぶちょっとずつ変えた。生徒が笑って、話して、考えて。あれは本物の政だ。誇っていい」


 ――政敵は、静かにそう言った。


「そして。生徒会からの提案がある」


「……?」


「幕府を、公式部活化してほしい」


「なんだと……?」


「いや、もうここまで来たら、認めない方が不自然だし。ちゃんと申請してくれれば、生徒会としてもバックアップする」


「……っ!」


 その瞬間、田所の目に光が宿った。


 失ったはずの“天下”が、思いがけない形で戻ってくる。


 ――否、初めて得た“本当の政の器”。


「感無量にて候……!」


 その夜、ブログが更新された。


 【政道終幕】選挙にて敗北、されど幕府、未来に在り。


 政とは何か? それは人の心を繋ぎ、笑わせ、泣かせ、歩ませるもの。

 拙者、政敵に敗れたれど、道に勝ち申した。


 明日より、幕府は“公認団体”として活動を継続する。

 次なる目標――部活動連合との条約締結である!


 将軍、さらなる乱世へ。


 第1部 完


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