第12話「え、勇者が飴で仲間になるんですか?」

「はあっ、はあっ……おーちゃん、今日も一緒に頑張ろうね!」


朝焼けの草原で、あーちゃんは息を切らしながらアーマンタイトスライムの幼体――おーちゃんと並んで剣を振っていた。

虹色に輝くゼリー状のその体は、ぴょこぴょこと跳ねながらリズムよく反応している。


すでにあーちゃんのレベルはいーさんを超えており、町の人々からも「小さいのにすごいねぇ」と褒められるほど。

しかし、いーさんはその事実に苦い笑みを浮かべていた。


「……このままじゃ、立場が……。」


悩んだいーさんは、スライム狩りの極意を求め、スライム牧場の主――えーさんのもとを訪れる。


「お願いです!レベル上げの極意を教えてください!」


「簡単だよ?」


えーさんはさらっと答える。


「育てて、殴る。ただそれだけ。」


「…………。」


いーさんの口が開いたまま、閉じられなくなった。


一方その頃、あーちゃんとおーちゃんは探索の途中、見覚えのある黒マントの男――四天王最弱の男、バルゴ・ザ・グレイと再会する。


「ぬおっ!?また会ったな、勇者のちびっ子よ!」


「あ、おじさん!」


「お、おじさん!?わ、私は立派な……いや、まあ、いいか。」


バルゴは懐からキラキラ光る飴玉を取り出した。


「これは……我が故郷で作られた“極上魔糖飴”。特別だぞ?」


「ありがとう!」


あーちゃんは無邪気に飴を受け取ると、その場でペロリ。

おーちゃんもきらきら光ってご機嫌。


「うむ……また会おう、真の勇者よ……!」


そう言い残して、バルゴはまたも謎の穴に飛び込んで消えた。


その日の夜、あーちゃんはえーさんに飴玉のことを報告する。


「えーさん、今日知らない人から飴もらったよ!」


「なにぃ!?知らない人から食べ物もらっちゃダメだって言っただろ!」


「あっ……ごめんなさい。でも、叱ってくれてありがとう……。」


あーちゃんの目に涙が浮かぶ。


「だって、怒ってくれる人がいるの、嬉しいんだ……。」


――あーちゃんは孤児だった。

両親を失い、誰からも心から心配されることのなかった日々。

そんな中、えーさんの叱責は、彼にとって“家族の証”のようなものだった。


「……もう、変な人からは何ももらわないから!」


そう誓うあーちゃんの横では、おーちゃんがポフポフと跳ね、虹色の光を放っていた。


そしてその夜、牧場のログハウスでは、えーさんが静かに呟く。


「守るって……簡単なようで、難しいな……でも、あの子の笑顔を守るためなら……俺、もっと強くなるよ。」


星空の下、また一歩、彼らの絆は深まっていくのだった。

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