やぁ!僕は勇者のバックアップ!

第1話「え、勇者じゃないんですか?」

異世界に召喚される時ってこんなに眩しいんだ~。

そう思ったのは自宅でエンジニアとして仕事をしている時に急に「世界を救って!」なんて言う切羽詰まった女性の声が聞こえてからビカビカ光る魔法陣に飲み込まれた後のことだった。

最初は目を開いて「お?異世界転移ものか?」なんて考えていたが、流石に目の前が真っ白になってからは目を閉じざる負えなかったし、手に持っていたカップ麺は落とした。

しばらく待っていると目の前が真っ暗になったので目を開ける。

目の前にはギラギラした装飾をゴテゴテつけているえらそうな中年男性。

と、頭の上に乗っているカップ麺!

笑いをこらえる魔導士っぽい人々!

「……正直すまんかった。」

もちろんそれで許されるわけもなく、しばらくお説教された。

俺のせいじゃないんだけどなぁ。



「お前は勇者じゃない。予備だ!」

玉座に座りなおした(入浴済み)王様からの第一声がこれだった。

え、俺勇者じゃないんですか?

こういうのって普通勇者一人とか勇者数人とか召喚するものでは?

ラノベとゲームの知識を総動員してそんなことを考えていると、王様はさらに付け加える。

「名はええええと名乗るがいい!」

え、嫌だが?

何でそんな珍妙な名前を名乗らねばならんのだ。

「これは伝統ある異界渡りの対応策である!元の世界に送還するときに縁が強すぎると失敗に終わることがあるのでな。」

あ、アフターケアはばっちりなのね。

まぁそういうことなら……と思ったがやっぱり嫌がらせでは?

何でああああ系統の名前なんだよ。

4番目ってこと?

しばらく仕事回ってこねぇなこれ。

「そなたは好きに生きるがいい。何でも今代の勇者は優秀なようだからのぉ。」

ニヤニヤしながら告げる顔は非常にむかつく。

おぉ?なんだ?喧嘩か?こちとら頭にラーメンのっけた王様って言いふらしてもいいんだぞ?

そんなこと思うもののしばらく仕事相手以外と話していなかった引きこもりの俺ではラップバトルとかになっても勝てないだろう。

力なら今の体が軽い状態なら負ける気はしないんだが……。

そう思っているとようはすんだとでも言わんばかりにしっしっと手でサインされる。

仕方がないの出ていくことにした。

大広間から出ると、小さな男の子が泣きそうな顔できょろきょろとしていた。

「……大丈夫か?」

流石に声をかけないという選択肢はなかった。

ちょっと声はかすれていた気がしたが、その子供はこちらを見るとキョトンとした顔で固まった。

「困ったら周りの大人に助けてもらうんだぞ?」

とりあえずそれだけ伝えて立ち去ることにした。

去り際に頭をなでるとさらさらとした髪の感覚が伝わってくる。

良かった。虐待とかいじめとかそういうのではないらしい。

それだけ確認できれば十分だろう。

俺は王都を離れて魔王城を探す。

え、異世界転移だよ?

最強になってたりしたら真っ先に魔王倒した方が効率がいいじゃん。

ということで魔王城がありそうな黒い雲がかかっている場所を目指して歩きだす。

と、その途中でモンスターに出会った。

なんか、でかい鬼みたいな……。

そう思った瞬間俺は死んだ。

嫌だって目の前に王様いるし。

「おぉ!勇者の予備よ!死んでしまうとは情けない!いや、本当に情けない!何してんだお前!知らない場所に来たら警戒するもんだろうお前!」

いや、それは本当にすみませんでした。

簡単に行けると思ってたんです。

適当に謝罪しつつ、異世界ものネタを必死に思い出す。

あ、

「ステータスオープン。」

そういうとステータス画面が目の前に現れる。

「弱いのぉ。」

レベルは1。ステータスは大体5。

うん!普通に弱い!

これはレベル上げが先だな。

王様の説教を適当に聞き流して再度外に向かって歩き出す。

好きだったんだよね。レベル上げ。

とりあえず自分が倒せるぎりぎりのラインの敵を狙おう。

宿屋で泊まればHPは回復するだろう。

よ~し、頑張るぞ~。


この時はまだ、俺が世界を救う鍵になるなんて、俺を含めた誰も知らなかった。

そして、レベルって上限がないんだなってことも誰も知らなかった。

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