第41話 村へ向かう

   ▽第四十一話 村へ向かう


 俺とミン、それからネル師匠は揃って馬車に乗っていた。


 御者はスケルトンに任せている。

 練習だ。

 あまり賢くないスケルトンではあるが、簡単な指示くらいはこなしてくれる。日常生活ではわりと便利で、横になっている時にモノを取ってこさせたりもできる。


 ミンが「わたくしにお任せください」と拗ねるのがデメリットだ。


「まずサブジョブについて教えておく」

「ひゃ、ひゃい! 何でも教えてください……」

「ああ。サブジョブについて教える」

「はい……」


 隣に座るミンに言う。

 ミンはそわそわしている。ハードゴア領にて「手を出してしまった」ので、以降、こいつは二人きりになる度に「そういうこと」が発生する懸念を抱いているのだ。

 今、ネル師匠は完全に夢の中。


 事実上の二人きりが発生してしまっている。

 ゆえにいつも通りの「懸念」を持たれてしまっているわけだ。


 懸念ってか、期待というべきか。


 マジでやってしまった、と思う。

 それほどにサキュバスの能力は高かった。俺ていどの理性や自制心ではどうにもなんねえ。ミンには悪く思うのだが、クビアが居ない時に抱くことは……ない、と思いたい。


 こいつ13にしては妙に色気があるからな……


 ファンタジーの住民、恐るべしだ。

 こっちも肉体が幼く、そっちに少なからず寄っているらしいから危険は高まる。あり得ないことにミンのことを時折、年上として認識してしまうんだよな……


 調べたら肉体に引きずられるのはあるあるらしい。

 まあ網膜移植とかでも人格に影響が出るらしいからな。全身が他人のものであれば、精神の侵食幅が大きいことには頷けるかもしれない。


 ミンがそっと手のひらを重ねてくる。

 俺は退けるのも申し訳なく、そのままにして真面目に説明する。ミンは賢いので真面目な時は空気を読んでくれるはずだ。

 手への愛撫は止まらなかった。


「サブジョブはメインジョブとは違い、限度レベルが50までになる。メインジョブは100だな。またマスクデータ……ステータスを確認する術はないんだが、おそらくメインジョブしか影響していないと言われている」


 レベルアップによってステータスも上昇していく。

 たとえば【死霊術士】はMP量が多いジョブとされている。他にも魔法攻撃力も高い。が、その代わりに他のステータスは高くない。


 一方、【剣士】は本来HPと物理攻撃力が同じくらいに伸びるジョブだ。

 ちなみに【剣聖】は物理攻撃力ばかりが上昇する。その所為でわりと直撃に弱いジョブだったりもする。


 が、サブジョブになった時、検証班によれば「1レベル上昇毎に、全ステータスが3上昇」するらしい。

 何をサブジョブに置いても、だ。


「わたくしのサブジョブになるという【聖女】に支障はございますか?」

「ない。正直、【聖女】のステータスは悪いからな。MP特化ジョブだ。ステータスに限れば【白魔道士】のほうが良い……基本はな」


 その分、使える術が【聖女】は強いんだがな……

 回復魔法は「魔法攻撃力」と「魔法防御力」を参照して威力が変化する。が、【聖女】の術はぜんぶ基本的なスペックが激高だ。


 ただステータス特化【聖女】ならば、【白魔道士】よりもスペックに勝るが。


「次に聖女の取得条件だ。サブジョブにする場合、ジョブを決める前に最低でも村単位を救うこと、だ」

「村単位……」

「今から行く村を救う」

「本当に村は窮地なのですか……?」

「ああ」


 俺の知っている【スティグマ・ダウト】ではミンは死んでおり、ネル師匠は復讐者としてディクトを殺すように動いていたはずだ。

 つまり、まだ……ゲーム時代に追いついていない。

 ゲーム時代は「終わっていた事件」もまだ発生していないわけだ。


 気掛かりはある。

 まずゲーム時代はディクトは死んでいなかったらしい。ネル師匠が「殺せるタイミング」を捜していたらしいからな。


 俺はやっていないが、どうやらネル師匠のストーリーで戦うらしい。

 なお、その歳のディクトくんは【剣士】なのだとか。

 ともかく、まだ死なないはずのディクトくんは死んでしまい、その中に朽園忍おれが入り込んでいる。


 これはプレイヤーが世界に干渉したが故のバタフライエフェクトだと思われる。


 本来、あそこでディクトは死ななかった。

 ゆえにミンは奴隷商に攫われ、その先で何らかの理由で――どうせろくでもない理由で――殺される、あるいは死んだのだろう。


 俺たちが向かう村も、事態が解決している可能性がある。

 そっちのほうがめでたいがな。

 その時は別の村でも捜せばよろしい。こんな世界だ。いくらでも村単位での存亡の危機なんざ転がってやがる。


 異世界で三日掛け、俺たちは……ラケル村にまで辿り着いた。

 無論、ミンはおろかネル師匠にも手なんざ出してねえ。ずっと物欲しそうに見られていたのは気のせい、自信過剰だと思っておくことに決めた。


 ラケル村の様子はほかの村とあまり変わらない。小規模で閑散としていて、どこかもの悲しく、不便そうな雰囲気が拭えない。

 この時の俺は知らなかった。

 ゲーム時代とは異なるバタフライエフェクトが、この村にもまた生じていることなんて。

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