第32話 変態不審者さん

「おぉ、ようやくお会い出来ましたね。初めまして。数日前から、この村の宿に滞在させてもらっているブルーノという者です。どうぞよろしくお願いいたします」


 そう言って、目の前の男が握手を求めてきた。

 見た感じは、人の良さそうな好青年といった様子に思える。

 だが、腰に差しているのは間違いなくこの王国の騎士の剣だ。

 鎧こそ着ていないものの、隙を見せてはいけない。


「それはそれは。この村は良いところでしょう……おっと、挨拶が遅れました。この教会の神父、アキラと申します」


 握手に一切力を込めず、非力な神父を演じながらブルーノと対峙する。

 現時点のブルーノは、騎士団――日本で言う警察や自衛隊みたいな組織の一員だと村人も知っているので、何か揉め事を起こせば、俺が悪い奴だと認識されてしまいかねない。

 ティアナの為にも、今はまだこの教会に滞在し続けたいので、とにかく俺の素性がバレないようにしなければ。


「ところで、神父さん。さっき掃除をしている幼い女の子に会ったのですが……孤児院も運営しているんですか?」

「えぇ、その通りです。ボロボロの教会ではありますが、小さな命を見過ごすわけには参りませんので」


 さぁ来たぞ。ここから互いに腹の探り合いだ。

 とはいえ、俺としてはここが何の問題もない、普通の孤児院だと思ってもらい、さっさと村から出ていってもらいたいという想いしかないが。


「なるほど。教会はボロボロですが、先程の女の子は、そこまでボロボロの服ではなかったと思うのですが?」

「そう見えるのであれば、こちらも嬉しいですね。というのも、この個人の運営をサポートしてくれている女性が非常に優秀でして、服をかなり上手に修繕してくれるのです」

「おぉ、そのような方が居られるのですか。えっと、村で聞いた話では、いつもメイド服を着ている金髪の美少女だとか。羨ましい限りですよ」


 フローラの事を知っているのか。

 というか、村人から俺たちの事を聞いているのだろう。

 この村で、俺たちの事を一番知っているのはレベッカだが、幸いティアナにはまだ会っていない。

 なので、ブルーノもティアナの事は知らないはずだ。


「確かに、その女性の事ですが……私は神に仕える者です。子供たちの為にと、孤児院の運営を支援してくれている女性に、そのような劣情を抱くような事はありませんので」

「おっと。これは大変失礼致しました。どうかお許しください」

「いえ、ご理解いただければ問題ありません。ですが、そろそろ子供たちのところへ戻っても良いでしょうか」

「えぇ、今日のところはご挨拶に伺っただけですので。ですが最後に……こちらの孤児院では、何人の子供が居るのでしょうか」

「三人です」

「ふむ、そうですか。村の金物屋で、六つの食器セットを買ったとも聞いたのですが……いえ、ありがとうございました。では、また」


 そう言って、ブルーノが頭を下げて踵を返していったが……最後の質問で、一瞬口元がニヤリと笑っていた気がする。

 人数を聞かれた際に、ティアナを除いた三人だと答えたのは失敗だったか!?

 だがティアナが家を出る時は、必ず帽子で髪の毛を隠しているし、村で情報収集を行っているようだが、確信にまでは至っていないはずだ。

 とはいえ、さっきの感じだと、またブルーノはやって来そうだな。

 どうしたものかと考えながら、みんなが待っている屋根裏部屋へ。


「パパー! おはなし、おわったー?」

「あぁ、大丈夫だよ。初めまして……って挨拶しただけだよ」

「そうなんだー! さっきのおとこのひと、ノアのことをジロジロみてきたから、ちょっとこわかったのー」


 ノアが顔をしかめながら抱きついてきたので、抱きかかえて安心させるように優しく頭を撫でる。

 しかし、やはり孤児院の子供を観察しているようだな。

 だけど、そのノアの言葉を聞いたマリーが、ピクッと身体を震わせ、俺をジッと見つめてくる。


「えっ!? 男の人がノアを!? ますたー! まさか、その人って……」

「い、いや、マリー。別に騎士とかでは……」

「もしかして、ロリコンなんじゃない!? マリも気を付けなきゃ! ティアナやシオンも気を付けないとダメだからね?」

「お……おう。そう、だな……」

「ますたー! そのロリコンの人が来たら、すぐに言ってねー! マリがお姉ちゃんとして、ノアたちをこの屋根裏部屋へ避難させるからー!」


 よ、良かった。マリーは、ブルーノがティアナを狙う騎士だとは思わなかったみたいだ。

 というか、よく考えたらリリスの洞窟では音が遮断されていたから、マリーたちはティアナの事を知らないんだった。


「まりおねーちゃん。ロリコンってー?」

「うーん。ノアにイタズラするかもしれないから、近付いちゃダメな男の人の事だよー」

「わぁっ! ノア、ロリコンさんには、ちかづかないのー!」


 マリーの言葉を聞いて、ノアがギュッと俺に抱きついてくる。

 ブルーノが完全にロリコンの変態不審者扱いされているが……むしろ好都合なのでこのままにしておこう。

 これなら、シオンやティアナも近付かないだろうしな。


「……ロリコンという言葉を初めて聞きましたの。まだまだ私の知らない事が沢山ありますの」

「私も知らなかったのです。えっと……どうして、マリーは知っていたのです?」

「リリスおばちゃんがいろいろ教え……こほん。もちろん、マリがお姉ちゃんだからだもん!」


 ティアナとシオンの疑問にマリーが答えるが……リリスは子供たちに一体何の話をしているんだよっ!

 リリス……ちょーっと、お話ししようか。

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