第25話 じりじり
じりじりと太陽に焼かれている。
少しくらい黒くなったって、いいって思ってる。それくらいのことで、わたしはわたしの価値を変えないから。
撮らせてもらえませんか。練習してるんです――声をかけて撮影をしていくわたしのあとを、黒嶋くんは驚きといっしょについてくる。
さっきっから黒嶋くん、気配がぎこちない。それはそう。だって、写真家・黒嶋雄三の目には、ちゃんと、わたしの写すものが見えている。裸体の話なんかしちゃったから、なおさら。
「こういうの、苦手だよね。セクハラになっちゃうかな」
「や、別に、すけど」
目が泳いでるよ、黒嶋くん。ピュアね。ああでも、うん、そう。今の時代って、難しい。
黒嶋くんがいけないのよ。わたしのことなんて知りたがるから。わたしの話をすると決めたら、避けられないというのに。
「ううん。いいの。そりゃあ、たしかに。芸術とは切っても切り離せないものだけど。わたしには、言わないって、選択もできた。でも。心も身体も丸裸にされて、撮って、撮られて。そんなこと」
いじけたように砂を蹴る。すごく、熱い。でもやわらかい。
「わたし、そんなことばかり知ってる。不公平。すっごく不平等。ね、どっちがだと思う?」
こんな難しい時代なのに。
代償と引き換えに大きなものを得たのだと言えば、少しは格好がつくかしら。つかないに決まってる。純粋な後輩(とは言えないくらい、彼もいろいろ知ってるんだろうけど)の顔を直視できなくなって、カメラを構えた。
「南さん、ホントのことと嘘を混ぜるの、巧いっすよね。でも僕、そこまで鈍くないっすよ」
「なんのことかな」
「……口では認めるつもり、ないんすね」
フレームのなかで、黒嶋くんが大きくなってく。じりじりと、追い詰められてる。これが、悪いことした犯人の気持ち。
でもね。覚えておいて。追い詰められた者は、たまに、とてつもない反撃をするものだから。
「今日、素敵なことが起こるって。わたし、予感してた」
反撃をする準備も、ばっちりよ。
「ね、期待しても、いいのかな。暗室デート。誰も来ないように、してくれるんでしょ」
反撃には反撃されることもあるってことを、わたし、知らなかった。
被写体がフレームアウトしたと気づいたときにはもう、黒嶋くんはわたしの背後にまわっていて、後ろから伸ばされた手が、わたしの手の上からカメラを操作する。
シャッター音が聞こえない。
今度こそ本当に。わたしの心臓の音が、うるさくって。
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