第18話 交換所
「黒嶋くんがモノクロ専門の暗室マンだったら、わたし……逃げ出していたかも」
予定してた量よりずっと多くプリントを終えて、明かりをつけた暗室。
暗闇のなかでクリップを留めていった写真の位置を調整しながら、南さんは呟いた。
「酢酸の臭い、苦手なの」
「そういうの、知ってんすね」
「あ……うん。写研だもん。ちゃんとね、調べてるんだよ」
慌てたようすで「写研だもん」と言い訳を重ねる南さんは、ちょっと可愛かった。
洗濯紐で吊った写真は、運動会の万国旗みたいだ。乾きやすいよう考えられたその並びを生みだす手には、迷いがない。背伸びのしすぎでたまにフラつくくらい。自分で口走った言葉にはすぐ焦るくせして、行動には気づいてないんだろうか。
「……なんだか、交換所みたい」
南さんは言う。
「写真すか。ま、こんだけありゃ、見栄えもするっすよね」
店でも開いてるみたいだと同意すると、南さんはきょとんとして、それから「あ」と合点がいったように顔をほころばせる。
「ほんとだ。気づかなかった。今日はいいモノが入ってるぞい、ってね? ……ふふ、うん。だけど、わたしが言ったのはね、わたしたちのことなの」
「よくわかんないです」
南さんの謎テンションも、よくわからねー。
「ほら。知ってるかな。昔、電話交換所ってあったでしょ?」
「トトロのやつだ」
「そうそう。写研がね、それみたいだな、って」
「余計わかんないんすけど」
なんでかドヤ顔をする南さん。
「わたしたちの、会話のことなの。わたしたち、写真を通してしか、お話できてない。別の場所を経由して、すっごく、遠回り。それにね」
――他者の思惑の入る余地が、ありすぎるでしょ。
「繋ぎ間違えたら、きっと、大変なことになっちゃうのに」
「あー」
それはまあ、うん、たしかに。
ものすごく納得して、俺は心のなかで、南さんみたいな反応をした。
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