レーゲンデートル

山田奇え(やまだ きえ)

第一節『レーゲンデートル~魔女の遺骸~』-第零話「危急存亡と『秋』」

第一節『レーゲンデートル~魔女の遺骸~』著:山田 奇え


第零話「危急存亡と『秋』」



 九軒町くのぎちょうが燃えていた。

 それは【秋雨戦争】と呼ばれた事件の日のこと。

『魔法使い』の紛い物たちは互いの存在理由をかけて殺し合った。


王君おうくん】は崩れ、

賢哲けんてつ】は謀られた――。


英雄えいゆう】は倒れ、

神仙しんせん】は侵された――。


狂獣きょうじゅう】は蹂躙され、

踊子おどりこ】は奪われた――。


悪鬼あっき】が抗い、

御使みつかい】が堕ちた――。


 戦いの中心に二人の青年がいた。

 二人は親友で、同じ志を持っていたはずだった。

 二人の道行きを分けたのはたった一つの『解釈の違い』だった。


 その日、【悪鬼】の青年は泣いていた。

 その日、【御使】の青年は笑っていた。


「『共感』か……。悲しいね――雨月桂あめつきけい。【悪鬼】の血筋に、それは必要のないものだ」

「なあ、響、なんだよコレ。なんでこんなことになってるんだよ……」

 響と呼ばれた青年の向こうに、一人の少女が倒れていた。

 少女はいたぶられ、虚ろな瞳が、無機質な記録装置のように青年たちの行く末を映している。

「俺はお前を倒さなきゃいけない――秋島響あきしまひびき

「お前にだったらそれも構わない。けどな、甘いよ――」

【秋雨戦争】を引き起こした青年は笑った。

 不敵に吊り上げられた口の端は、自分たちがいずれこうなることを予期していたかのようだった。

「こういう場面じゃさ……――『殺す』って云うのが正解だと思うぜ」

 何も言わず、【悪鬼】の青年は駆けだした。

 行き所のない怒りを、武器の小刀に込めて――。


「――響ィィイイイイ!!!!」


 ――そして、彼らは戦った。

 結果だけを見れば、勝ったのは【悪鬼】の青年だ。

 だけど、彼は――雨月桂は――誰よりも多くのものを、その日失った。


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