第12話 授業料の無償化とは

 大阪府では「教育改革」と称して、公立も私立も高校の授業料は「無償化」を果たしたと、橋下知事、松井知事、吉村知事が功績のように語っています。

 しかし言葉というのは使いようで、「無償化」というのは、府の予算で税金から授業料を支払っているということです。これには大きな穴がいくつかあります。

 確かに授業料は「無償化」でしょう。しかし、例えば修学旅行の積み立て費や、制服や体操服などは「無償化」ではありません。私立ではカバンなども学校指定のものを買わせるところもあります。むろんこれも「無償化」ではありません。私立では寄付金を納めることが半ば義務化しているところもあります。当然これも「無償化」ではないのです。

 私立高校の授業料が「無償化」になったことで、公立高校よりも私立高校を選ぶ受験生が増えたということですが、授業料以外の経費が高く、結局公立高校に転入を希望する生徒もいます。また、私立高校への助成金を減らしたので、授業料を高く設定し、減らされた助成金をカバーする学校もあるとのことです。

 また、かつては生徒の数に応じて公立と私立の募集定員の割り当てを決めていたのが、私立が募集定員を増やして多数の生徒を集めるということもしているといいます。

 そのため、公立志望の生徒は少なくなり、募集定員に応募者数が満たない定員割れを起こす公立高校が増えました。三年連続で定員割れをした公立高校は統廃合の対象になるという「改革」で、多くの高校が無くなりました。私の妻の母校も統廃合でなくなりました。私が現在再任用で勤務している高校は、大阪府でもかなり最初に統廃合の対象になった高校です。そこまでして減らしながら、その統廃合でできた新しい高校も現在では定員割れを起こしているのです。

 定員割れを起こすといろいろな問題が起きます。生徒や開講している科目の数に応じて教員の定数が決まります。当然定員割れをすると生徒の数は少なくなりますから、教員の数も減らされ、行き届いた教育ができにくくなります。

 さらに、定員割れを起こすと、本来なら高校に合格できないような成績の生徒も入学してきます。そういう生徒は高校の授業についていかれず、単位不足で中退したり、通信制の学校に転学したりすることになります。

 教員たちは高校の授業についていかれない生徒に手を取られ、学習意欲のある生徒に対してきめ細かにその能力をのばす事ができにくくなります。高校卒業後の進路についても、入学しやすい大学を選ぶ生徒が増え、高いレベルの大学に挑戦しようという生徒は一部の進学校に限られていきます。

 橋下知事以降の知事たちが行った「教育改革」とは、大阪の教育全体のバランスを崩すという結果を招いたのではないかとぼくは実感しています。

 それなのに、教育委員会は「特色のある学校づくり」」や「魅力のある学校づくり」を要求してくるのです。校長はその目標を達成するために、生徒の実態とかけ離れた目標を立てることになります。

 かくして学校からは魅力がどんどんと薄れてしまうことになってきています。ぼくが現状の学校を好きになれないのは、こういう実態があるからなのです。

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