第2話ー因果と史実を結ぶ視界ー

現実ってさ、意外と律儀なヤツだと思うのよね。

あまりに静かな私室の中で彼女は語り出した。

その姿は誰もが惹きつけられる美貌とプラチナブロンドにサファイアを思わせる瞳。

その瞳には理知的な光が宿されていて、まるで絵画の中のご令嬢そのものである。

それに加えて彼女は彼の国の皇統に繋がる血筋という高貴な生まれで初めて会った時は気後れもかなりあったと思う。

…いやその厳かなイメージが崩れ落ちるまでにそんなに時間がかからなかった事も衝撃ではあったかな。

「イレーネ…私の話より重要な考え事とは余程の緊急事態を抱えているのね?少しでも力になれるといいのだけれど。」

彼女は私に訝しい視線を向けると適切な弁解を要求してくる。

参ったな…この状況はなかなか機嫌が治らないケースだ。

これから控えている事案に対して協力を渋られるとかなり困ったことになるな。

「義眼の皇女」、"ソフィア•レイドワークス"。

それが彼女の通り名でありこの欧州で認知されている名前だ。

そして欧州の魔術文化圏におけるトラブルシューターとして良くも悪くも名を轟かせる存在でもある。

彼女の持つ異能や魔術、そして多方面のコネクションを持ってしか解決できない事案は案外多い…彼女がどれほどの破綻要因を抱えた人間であってもである。

イレーネは今唯一頼りになるアテである筈の眼前に座る破滅の化身に改めてお伺いを立てる。

「ソフィア…貴女がこの件に関して苦々しい思いを抱えているのはわかっているの。それでもこの案件が片付かない事で起こる不都合は日常を取り返しのつかないレベルで歪める可能性を持っている。何とかここは割り切ってくれないかしら?」

「イレーネ。"千里眼魔女"の貴女がわざわざ私にこの案件を持ってくる意味をわかっていない訳ではないの。全ての要因をあらかじめ俯瞰した上でここに来る選択をしたって事は余程差し迫った事態なのでしょう。だったらここで隠し事をするのが無意味なのも当然"観てきた"はずよね?」

イレーネの首筋に冷たい汗が一筋流れる。

そう、当然そこは"観てきた"未来ではあった。

私が"千里眼"だとか"魔女"という仰々しい二つ名で認知されているのにも理由がある。

私の固有異能でありオリジナルな術式、「因果の系統樹」と名づけた未来予知をも可能にする力。

本来は「観るだけ」の占星術師である私が現実を塗り替える事をも可能にしている所以だ。

無論その正体がバレている事は無いはすだが、毎回私の出す「最適解」があまりに役立つ事が広まりすぎた。

当然ながら魔術文化圏の裏のコネクションにも影響力を強く示す彼女がソレを考慮していない訳もない。

明らかにこの場の酸素濃度が低下しているように感じる。

「イレーネ。私は数少ない友人である貴女を吊るし上げることはしたくないの。未来の可能性をあらかじめ"観て"きた貴女には適切な判断ができるわよね?そう件の「禁忌の果樹園」についての説明から始めるとか。」

私は守秘義務を破った際のペナルティと彼女に締め上げられた際の苦痛度合いを天秤にかけるまでもなく判断を下す。

勿論速やかに彼女の軍門に下る決断を、だ。


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