第23話 金髪ギャルと陰日向者の帯選び

 今日は7月7日。七夕の日だ。俺や葵が住むこの黎明市では市を上げての七夕祭りが各地で行われる為、祝日に指定されている。


 その為か。黎明市近くにある七宮ショッピングモールは人がごった返していた。


「暑い……人が本当に多いな。葵、体調大丈夫か? さっきはボーッとしながらよだれ出してたろう? 気分は悪くないか?」


 さっきも同じ質問をしたが。近年の猛暑をなめていると良くない。熱中症なんかは放っておくと後遺症などが一生続くというし。


 大切な幼馴染み《葵》に何かあっては不味い。


「う、うん。大丈夫。大丈夫……(光を独占出来る嬉しさで。ボーッとしちゃう~! 雪乃~、カレン見てる~? 今日私は光を貰ちゃうから覚悟しなさいっ!)」


「熱とか無いよな? ちょっとおでこ触らせてくれ。葵」


「へ?……エヘヘ//// うんっ!」


 俺は何故か嬉しがる葵のひたいに手を当て熱があるか確かめた。


「……熱っ! 本当に熱中症とかじゃないよな? 大丈夫か? 葵」


「だ、大丈夫。大丈夫。今、最高にリラックスしてるから大丈夫よ。光~、エヘヘ////」


「?……なんだ。そのだらしない顔は? 心配だからどっかの店で休憩するか」


「了解よ~」


 俺は体調が悪い葵を引きずりながら近くのファミレスへと入っていった。


「あのカップル熱々過ぎない?」

「いや。てか両方ともビジュアル半端ないわ」

「雑誌のモデルの関係者とかかな?」


 俺達が去った後。周囲の人達は何故かざわついていた。


「皆さん見惚れてますね。流石、織姫さん達です。雪乃お嬢様」


「「雪乃お嬢様。追いかけますか?」」


「いえ。今日は止めておきます。今日の葵さんのせっかくの誕生日ですからあの娘の大切な日を邪魔したくありません。夏休みの旅行では容赦しませんからね。葵さん。覚えておいて下さいね」


「親友思いの良い判断かと。しかし雪乃お嬢様は本当に葵様の事が大好きなのですね。光様が取られてしまって宜しかったのですか?」


「……そうでもしないと。あの娘は変わりませんから。そうでない葵様は私のライバルとは認めたくありませんしね」


「しかし。それで光様と葵様が今日の七夕祭りで本当にお付きいしたらどうするつもりのですか?」


「……多分。そうはなりませんよ……汐崎君は超がつく鈍感なお方ですからね。ねえ? 葵さん」


《ファミレス ディスティニー》


 葵を引きずりつつファミレス内へと入り。空いていた席へと案内された俺は顔が火照ほてっている葵にキンキンに冷えたメロンクリームソーダとフルーツジャンボパフェをご馳走し。


 満面の笑みでパフェを頬張る葵の顔をジーッと見ていた。つうか全然熱中症とかじゃなかったんだな。


 めちゃくちゃ元気だわ。体調悪くなって良かった。


「このファミレス。七宮ショッピングモールにまで出店してたのか。本当にどこにでもあるんだな」


「むぐっ……だってここの系列店。雪乃のお父さんの会社の七宮グループの系列な筈よ。このパフェ美味しいわね。光~」


「口に食べ物含みながら喋るなよ。葵。行儀悪いぞ」

「光が頼んでくれたパフェが悪いのよ。パフェがっ……(モグモグ)」


 ……2年前疎遠になる前は学校の放課後は良く2人でファミレスで時間を潰してデザートを食べていたものだが。


 あの頃の葵は───


(……食べきれるかな? 美味しそうだね。光君)


(へぁ? ご馳走してくれるの? ありがとう。光君)


(私のデザートも食べてみる? はい! アーンだよ。光君)


 ……可憐で大人しめな女の子だったんだよな。それが今では────


「(モグモグモグモグ)……光~、このフルーツジャンボパフェって奴。美味しいわね。お代わりしよ~、すみません~」


 超巨大パフェを平然と平らげる大食間の大食い娘ギャルへと変貌したんだよな。まぁ、活発な葵も可愛いんだけどな。


「つうか。あんだけあったパフェをもう完食したのかよ。ここに来る前にもコンビニでお菓子買って食ってたろう? そんなに甘いものばっかり食ってるとえるぞ」


「……肥えないわよ。それに私の場合はスイーツで得た全てのカロリーは胸に集約されるのよ。最近また成長したしね。どう?」


 葵は両手で自身の胸を持ち上げると俺に見せつけ始めた……コイツ。本当に2年前のより大胆になったよな。


 そして、やはり2年前よりも葵のお胸は確実に成長している。


「……形の良い綺麗だと思う。美乳ってやつだな。見ていて全然飽きないわ」


 俺は葵の胸を見て感じた事を嘘偽りなく正直に応えた。


「美、美乳って……お、お馬鹿。何変な感想言っちゃってるのよ。アホ光」


 そして、葵は俺に感想を言われた瞬間。ほほを赤らめて自分の胸を俺に見えない様に覆った。


 見せびらかせたいのか。隠したいのかどっちなんだろうか?


「それより。鼻にクリーム付いてるぞ」


「へ? ど、どこよ? 恥ずかしい」


「……ここに取ってやるよ」


 それは無意識な行動だった。昔から葵とはファミレスで食事をしていた為だろう。


 無意識に葵の鼻に付いていたクリームを手でぬぐってやると。俺は手に付いたクリームをそのまま自分の口でペロッとなめてしまった。


「へ~最近のファミレスのクリームも美味しいんだな。三久がデザートとか趣味で作る時に使ってる高級生クリームに劣ってないっていうかさ」


 俺は葵に付いてクリームの美味しさについての感想を述べていると……


「へぁ?! 光っ! アンタ何してるのよ? なんでクリームなめてんの? 私の鼻に付いてたクリームをっ!」


 葵は口をパクパクさせながら俺の口元に指差し驚いている。コイツ仕草一つ一つ本当にオーバーリアクションで可愛いよな。


「ん? ああ、なめたぞ。これで葵の鼻も綺麗になったろう? しかしこのパフェ美味しいんだな? 次食べる時は俺にも少し分けてくれ葵……」


「こ、このっ! デリカシー皆無の羞恥心無自覚男~! なに恥ずかしい事しちゃってるのよ。もう////」


「うおっ! どうしたんだよ? あんだけ糖分取ったくせにまだ足りないのかよ?」


「御客様どうされました?! 店内での奇声は控えて頂けると……」


 葵はファミレスで叫び声を上げた結果。俺達は従業員の人達に注意されてしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る