第4話 金髪ギャルと窓際のご令嬢

 朝から酷い目に遭ったものだ。


 黎明高校でも人気者の金髪ギャル幼馴染みに公衆の面前であんなやり取りをさせられるなんて。


 葵の奴め~、俺は陰日向かげひなた者の一般ピーポな男子高校生なんだぞ。


 高校デビューを気に清楚可憐な娘から陽キャギャル進化した美少女と、あんなやり取りを見せられた男子生徒の反応は────



「くそー! 我が校のマドンナとイチャイチャしよってー! 許せん!」

「織姫さんと何で登校してんだ?」

「俺達のマドンナがNTRされるなんてぇぇ!」


 校舎に入ってから周囲からは怨嗟えんさの声が聴こえて来る。


「な~んか。私達凄い注目されてますな~、ひかりく~ん。ニッシシ!」


 相変わらず夏の大陽の陽射しみたいな明るい笑顔をするよなあおいの奴。近くで見るとやっぱり可愛くなったよな。


 ……いやいや。何を俺は考えてるんだよ! ここはちゃんと何かしらの抗議をしないと、またさっきみたいな可笑しな行動に出るかもしれん。


「そんな事より。さっきのは何なんだよ? 皆が葵に注目している前であんな大胆な事をするなんて」


「……はぁ? 皆が私に注目してる? 光、アンタ本気で言ってんの?」


 何だ? 葵の奴先とは売って変わって何で不機嫌になってるんだ?


「ご、ごきげんよう~、光様」

「ああ、おはよう。マキナさん」

「お、おはようございます! 汐崎しおざき先輩っ!」

「おはよう。佐伯」

「おお、おはようではないか。汐崎」

「おはようございます。雨宮先輩」


 自分の所属クラスに向かう通路で知り合いの同級生、後輩、先輩達が朝の挨拶をしてくれたので挨拶し返す。


 朝の日常的なやり取りだ。その他の生徒も何故か積極的に俺へと朝の挨拶をしてくれる。


「……あの女の子3人と随分親しそうね。光」


「ん? マキナさんと佐伯と雨宮先輩のことか? 別に普通だろう? まぁ、昼休みの食事や放課後たまに遊びに誘われたら行ったりしてるけどな」


「ハ、ハァー?! 私と疎遠になってる間に何でそんな事になってるのよ?!……まさか。あの男の差し金?! くっ! やられたわ」


「お、おいっ! 何、いきなり教室に走り出してるんだよ! 葵ー!」


 葵は突然、駆け出すと自分が所属する教室へと入って行った。


《光&葵の所属クラス》


五月女さおとめっ!! アンタ。やってくれたわねぇー?! 何? アンタを昔振った嫌がらせなわけ?」


「む?……おお! これはこれは。織姫君か? 朝から犬の様にワンワンとうるさいクラスのマドンナだなぁ~」


「うるさい。それよりも女の子達に光を紹介しまくってるのアンタでしょう? じゃなきゃ。奥手の光があんな可愛い子達と接点なんて持てるわけないもの。陰キャだし」


「ゴフッ!……陰キャは余計だ。俺は陰日向かげひなた者なだけだ」


 教室へと入ると同時に葵の言葉のナイフが俺へと突き刺さる。


「我が親友たる光が陰キャだと? アホかクソビッチもどき」


「は、はぁ~?! だ、誰がクソビッチもどきですって?! 腐れ外道の女好き」


「貴様の事だ。織姫 葵!」


「何か言ったかしら? 五月女さおとめ喜一きいち!」


 朝から凄いレスバトルが始まった。お互いがお互いの呪言じゅごんののしりあっている。


 五月女さおとめ喜一きいち。俺の自称親友らしい。


 五月女とは中学校からの知り合いで、それ以降同じクラスだ。

 

 そして、葵と五月女は2年前のとある出来事とで、出会えば直ぐにレスバトルを繰り広げる程お互いを嫌いあっている。


 犬猿の仲というやつだろう。低燃費男子高校生にはカロリーが高すぎるやり取りだな。


 しかし葵の奴。本当に攻撃的な性格になったよな。あの口が上手い五月女さおとめ相手に一歩も引かないとは。感心する。


「私が悩んでいる間にれだけの女の子を光に差し向けたのよ?」


「はん? それを知ってどうするのだね? 清楚可憐からクソビッチに転生した貴様がそれを知ってどうするのだね? 大事な事だから2回言ってやったぞ! 織姫 葵」


「くうぅぅ! 腹立つ!! アンタ。本当に根に持ちすぎよ。ネチネチネチネチ。そんなんだからあの娘にフラれるのよ」


「ぐぉ!……貴様。言って良い事と悪い事を解らぬ珍獣か? だが良い。今更、貴様が足踏みしていた2年間は取り戻せんぞ。なんせ光にこの黎明高校の殆んどの女子生徒を知り合いとして紹介したからな……貴様は負けるのだ。クソビッチよ! フハハハハ!」


「な?! アンタ馬鹿なの? いつもいつも余計な事を……この腐れ外道!!」


「おお! 良いぞ! もっと言い合え!」

「出ました! Aクラス名物。五月女と織姫さんの罵り祭り」

「やれやれ~!」


 ノリの良いクラスメイト達は何故か盛り上がる。


「……皆、ああいうノリ本当に好きだよな。この隙に背景の一部に溶け込もう」


 俺はクラスメイトの視界に入らない様にしながら窓際の自分席へと向かった。


「葵の奴……何であんなに怒ってるんだ?」


「それは汐崎君が関係しているからだと思いますよ」


「七宮さん……おはよう」


「フフフ。おはようございます。汐崎君。今日もお元気そうですね」


 女神の様な微笑みを俺に向け朝の挨拶をしてくれる美人な女の子。ロングヘアーの銀髪をカチューシャ。右側の髪を藍色のリボンで結んでいる。


 この人は昔から勉強も運動もできる才色兼備で……俺の昔からの憧れの人だ。


 七宮ななみや・アスタナシア・雪乃ゆきの。確かお父さんが北欧系の出身のハーフだったか。そして、七宮さん家は超が付く金持ちの資産家で。七宮さんはご令嬢なんだ。


 中学校に転校して来た時は銀髪が恥ずかしとかで茶髪に染めてたのを覚えているな。


「それよりも七宮さん。なんだよ。葵が俺関係で怒ってるって?」


「んー? それはですね……放課後までの秘密です。汐崎君。覚えてますか? 今日の放課後。私のお買い物に付き合ってくれる約束」


「約束?……ああ。そういえば今日だったか?」


『はぁ?! 何それ? 聞いてないんですけど?』


 教室の廊下側から葵の声が聴こえた気がした。


「はい。私、今日が来る日をとてもとても楽しみにしていて……それでですね。その時、私の……」


『ちょっと! 邪魔よ! 腐れ外道。そこを退きなさい』

『ごはぁ?! 貴様。織姫 葵。やはり貴様は我の天敵なり』


 葵の声がどんどん近付いて来ている気がした。


「ん? 私の? 何?」


「はい。是非、汐崎君をお父様にご紹か……」


「私も放課後。そのお買い物に付いていくからよろしくね。雪乃っ! これは決定事項よ」

「葵?! お前、レスバトルしてたんじゃ?」


 そして、俺と七宮さんとの会話に割り込んで来た。


「……葵さん。本当に地獄耳ですね。貴女は」

「抜け駆け禁止よ。雪乃……これからは全部私のターンなんだから!」


 葵と七宮さんはなぜかお互いを睨み合いながら火花を散らしていた。そして、俺はその光景を静かに見守っている。


 ……2年前は大人しかった葵は本当にどこに言ってしまったんだろうか。





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