第11話 書店
城下町に出てわたしとジャックは書店に向かう。
セオ書店はこじんまりしているが、倉庫がありたくさんの蔵書が眠っているという。
外見はいかにもオバケ屋敷といった様子だが、中に入ってみればただの本屋だ。
見た目に気圧され客並みは遠いているが、主人のセオは気にした様子もない。一風変わった人なのだ。
セオは貴重な書物も扱っているが、高額である。
だが最新版をいつも取り寄せてはいる。
だからお客さんもけっこう多い。
「なんだか、怖い雰囲気だね」
ジャックは困ったように眉根を寄せる。
「大丈夫よ、行きましょう」
わたしはジャックの手を引いて店内に飛び込む。
古本の並ぶエリア、新刊のあるエリアなどなど。様々に区分けされた店内。
本の匂いが充満された店内には数人の人が本を吟味している。
陳列された棚から受験のための本を探す。
「あ。エルミリアの新刊だ」
何やら嬉しそうに声を上げるジャック。
そういえばベッドからあまり動かなかったジャックにとって、本は友達なんだね。
その理解をしたところで、もしかしたらわたしよりも頭がいいんじゃないか、と不安になる。実際彼の方が学院では先輩なんだし。
あまり考えてもしかたないか。
今は勉強することだけを考えよう。
そして多くの人を救うのだ。
教科書を探しているといいのが見つかった。
「これなんてどう? ジャック」
「どれどれ。……うん。いいと思うよ」
パラパラとめくってみると、ジャックは満足げな顔をする。
きっとお眼鏡にかなったのだろう。
なかなか読み応えのある分厚い教科書だ。鈍器と見間違うくらいには厚い。
「これ、買う」
いくつもの本を読んできたジャックのオススメだもの。買う価値はあるわ。
会計を済ませると、わたしは本を大事に持ちながら書店を出ることにした。
「そうだ。このあたりに新しくできたカフェがあるの、寄ってみない?」
「うん。いいよ」
素直なジャックらしく、優しい笑みを浮かべている。
しばらく街道沿いを歩いているとしゃれたお店が見えてくる。
外観はシックな雰囲気漂う、大人のお店だ。
入っていく客層も年齢高めである。
からんからんと鳴るベルの音を聞きながら店内に入る。
モダン調の内装は落ち着きある雰囲気で、何度でも来店したくなる。
わたしとジャックは一番奥の二人がけに案内される。
「いいところだね」
ジャックは耳打ちしてくる。
悪いことを言っているわけでもないのに。
「そうだね」
わたしも思わず耳打ちをする。
メニューを見て注文するものを選ぶ。
「ジャックはどれがいい?」
「うーん。どうしようかな……」
ジャックが悩んでいる間にわたしは決めた。
「じゃあ、僕はアイスティーにするよ。リンちゃんは?」
「カフェモカとパンケーキ!」
注文を終えると、届いたパンケーキに舌鼓を打つ。
二段重ねのパンケーキにはハチミツとバターがのっていた。
見ただけでジュルリと唾液が生まれる。
ふわふわの生地にナイフで小分けにしていく。
フォークで口に持っていき、噛む。
ふわふわな食感、口いっぱいに広がる甘さ。
「おいしい……」
わたしは思わず零してしまう。
「ん?」
わたしは目の前で苦笑をもらすジャックを見やる。
「食べる?」
「え?」
「はい。あーん」
先ほどと同じく小分けにしたパンケーキを差し出す。
「ええっと」
困惑しているジャックに疑問符を浮かべるわたし。
何を戸惑っているのだろう。
「じゃ、じゃあ一口もらうね」
ジャックはあーんを受け入れ口でぱくっと食べる。
「うん。うまい」
「ふふ。良かった」
わたしは笑みを零すと再びフォークでパンケーキを食べ始める。
ジャックの頬が赤くなるのにも気がつかずに。
パンケーキを食べ終えたあと、カフェから出て、街の中を散策する。
「どこか寄りたいお店ある?」
わたしは暇そうにしているジャックに声をかける。
「うーん。あっ、あそこに行きたい」
ジャックの提案により、わたしはそのお店に向かうことにした。
大きな岩の塊にわたしはぽけーっとする。
「じゃあ、このくらいの大きさに切り分けて、それでここまで運んでください」
ここに置いてある岩はただの岩じゃない。
墓石になるための岩だ。
ジャックは弟のアッシュを亡くしたばかりだ。
そのため、墓石はまだ用意していなかった。
アッシュを思う彼の気持ちを安らげるためにも、この岩は必要なのである。
「ずいぶんと高い買い物だね」
「うん。でも僕がアッシュにできる最後のことだから」
わたしは言葉を失った。
そこまで考えることができなかったわたしが悪いのだけど。
でも彼にとっては最後のプレゼント。
弟さんが喜ばないはずがない。
そう言っているように聞こえた。
もう口なんて聞けるはずもないのに。
それに墓石は亡くなった人のためだけじゃない。
今を生きる、残された者たちが安寧を手にするためにも必要な行動なのだ。
安らぎをえるためには墓石も必要なのだろう。
墓石は数日後にお墓に設置されるらしい。
ほっと安堵するジャックを見守り、再び街道をぶらぶらとするのだった。
「アッシュのこと、思っているんだね」
わたしの能力なら救えるかもしれない。
でもそれはわたしが能力を成長させないといけない。そのためにも、王立学院に進む必要がある。
それにアッシュがダンジョンへ行ったのなら、剣術指南も受けたい。強くなりたいんだ。アッシュを守れるくらいに。
「アッシュは僕の弟だからね。あのインチキ医師がいなかったら、アッシュは……」
悲しげな声で言うジャック。
自分のことで憂いているのだろうか。
俯いていて、表情は読めない。
「ジャック……」
「それよりも。アクセとかみない?」
「え。あ、うん」
無理やり話を変えたのは分かっている。
着飾るのが得意でないわたしだもの。
無理して毅然と振舞っているのは百も承知。
それで男のプライドが保てるのなら。
「そうだね」
自然と笑みがこぼれていた。
アクセサリーショップに訪れると、ジャックはそわそわした様子で店内を見やる。
「わー」
色とりどりなアクセに目を奪われるわたし。
それを微笑ましく見届けるジャック。
「リンちゃんはどんなのをつけてみたい?」
「ええっと……」
どうしよう。
そう言われると参っちゃうね。
「えーと。これもいいけど、こっちもいいなー」
「リンちゃん、全部つけてみようよ」
ジャックは微笑ましい目線を向けてくる。
「全部は無理だよ。可愛くない」
ジャラジャラとアクセをつける女性なんて品がないよね。
「こういうのはワンポイントでつけるから、素敵なのよ」
ちちち。とジャックをたしなめるわたし。
「そ、そうなの?」
ジャックは困惑した様子で首を傾げる。
「でも、母上はたくさんつけていたけどなー」
「分かっていないなー。そんなの自己主張が激しいだけじゃん」
「一応、この国の女王なんだけど……」
苦笑を浮かべるジャック。
測らずも、わたしの性格が彼にとってはいい刺激にはなっているみたいだけど。
「じゃあ、これつけてみようかな」
イルカのデザインで純金を使っているみたい。
ジャックはもちろん、わたしだってお金持ちな方だ。
金銭面で困ることはないだろう。
「これいくら?」
ジャックが店員さんに尋ねる。
「一六億六千ニックです」
「国が買えるね」
わたしはそう呟き、購入することを諦めたのだった。
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