Phase 03 風は語る

1

「窓が開いているだけって、ここは完全な密室のはずじゃ……」


 あたしは思わず遥斗くんに問い詰めた。


 でも、遥斗くんはあたしの問い詰めに対して冷静に答えていく。


「これは僕の憶測なんだけど、『視聴覚室が生徒の自死によって使われなくなった』というのは嘘だ。使われなくなった本当の理由は――恐らく、そこにいる牧町先生が知っているはずだ」


 確かに、視聴覚室の教壇の前には――牧町先生がいた。どうして、こんなところに?


 あたしはなんとなく彼女に対してそのことを尋ねてみた。


「どうして、牧町先生がそこにいるんでしょうか?」


 あたしの問いかけに対して、牧町先生は正直に答えていく。


「もちろん、あなたたちを待っていたんです。佐波さんと冴草さん、そして岡野さんが幽霊騒ぎについて追っているのは知っていましたからね。――それで、どうしてここで幽霊が出るようになったかというと……私のせいなんです」

「牧町先生のせいって、どういうことなんでしょうか?」

「実は、私……かつてある生徒に対して贔屓していたんです。生徒の名前は『望月祥平』って言うんですけど、彼、複数の生徒からいじめを受けていて、それで私が庇ったんです。そうしたら、私に対する誹謗中傷が酷くなってしまって……。祥平くん自体は自死を図る前に退学届を出したんですけど、私としてはそれが不本意で仕方なかったんです。だから、毎日視聴覚室で彼の映像を再生しては、泣いていたんです」


 つまり、すすり泣きというのは本当に牧町先生のすすり泣く声だったのか。


 彼女の話は続く。


「それで、辛くなった私はあるとき自らの手で命を絶とうと思ったんです。でも、踏ん切りが付かなくて……。ここって、実習棟の3階じゃないですか。3階から飛び降りるって、思っている以上に高いんですよね。だから、遺体になる瞬間の自分のすがたを想像しただけで――怖くなったんです」


「ああ、だから窓が完全に閉まっていなかったと。窓が閉まっていないということは、隙間風も入ってくる。この時期の隙間風というのは、北寄りの風で――おまけに強い。だから、僕と志穂里があの時聞いた『幽霊のうなり声』は、窓が開いていることによる隙間風の音だったんだな」


 遥斗くんは、牧町先生の話に対してそう答えた。


「そうですね。その日、窓にカーテンが挟まっていたみたいで……窓は完全に閉まっていなかったんです。それに気づけなかった私も悪いんですけど、隙間風が入ることによってうなり声の様な音がしていて……それを、誰かが幽霊だと勘違いしてしまったんです」

「じゃあ、勝手にバタンという音がしていたのも――風の仕業だったのか」

「はい。あなたたちがポルターガイストを見たのは恐らく昨日のことなんでしょうけど、あの後、私が視聴覚室に入ると……掃除用のモップが倒れていたんです。隙間風によって倒れたものだと思っていましたが、タイミングが悪すぎてポルターガイストだと疑われても仕方なかった。ことが大きくなる前に、あなたたちには事実を述べたかったけど、結局……焼け石に水でしたね」

「いや、そんなことはない。確かに視聴覚室で幽霊騒ぎが起こったのは事実だが、あなたが思っている以上にそこまでことは大きくなっていない。――龍成、入ってこい」

「分かりました……」


 遥斗くんの呼びかけに対して、宮地くんが視聴覚室の中へと入っていく。いつの間に呼んだんだ。


 宮地くんは情けない声で話す。


「そもそも、僕が視聴覚室で勉強しなければ、こんな騒ぎになりませんでした。僕、不登校で他の人よりも勉強の進捗率が遅れていたから、ある先生に教えてもらっていたんです」

「先生? それって、もしかして――」


 あたしが言うまでもなく、宮地くんは答えていく。


「牧町先生です。彼女、いつも視聴覚室にいたから……もしかしたら、授業の練習でもしているんじゃないかって思っていたんです。でも、牧町先生の担当科目は音楽。普通に考えて、音楽以外の教科なんて教えてもらえるはずがない。それでも、『かつて小学校の先生をやっていた時は色んな教科を教えていたから、あなたに教えられることは教えてあげる』って言って、個別授業が始まったんです。――今から2ヶ月前のことでした」


 今から2ヶ月前――文化祭が終わって、違法薬物騒ぎが起こる少し前か。確かに、あの時期なら中間テストもあって勉強に追われる日々だったけど……。


「つまり、宮地くんは中間テストで良い点を取るために牧町先生から授業を受けていたんですね?」


 私が言いたいことは、合っていたらしい。


「そうです。僕は牧町先生から勉強を教えてもらって、その結果……学年で3位という好成績を残しました」

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