第11話 国王の裁定! 王太子の追放危機?②
王太子アルフレッドが青ざめた顔のまま遠巻きに放置され、舞踏会の熱気がどこかざわついた空気へ変わったその直後だった。私は、父と兄から「よくやった」「だがまだ油断はするな」と次々声をかけられて、内心ちょっと浮き足立ち気味。ノエルの「お嬢様、最高です!」というテンションも相まって、周囲の貴族たちから祝福なのか好奇の視線なのか分からない視線を受け流していた。
「ふう……とにかく、これでひとまず王太子に仕返しはできたわね。今夜はまだ先が長いし、次の展開を見て動かないと……」
心の中で呟きながら、ふと視線を落とした先に、磨き上げられた大理石の床に赤いドレスをまとった私が映り込む。そこに、すっと別の人影が重なり、私は思わず眉をひそめた。気づけばいつの間にか、あの第二王子セバスティアンが私の横に立っている。
「よくやったな。なかなか痛快だったじゃないか、あの王太子の自爆ぶりは」
耳に届いた声は低く落ち着いているのに、なぜか底知れない冷たさを感じさせる。私がゆっくり顔を上げると、セバスティアンは相変わらず優雅に微笑んでいた。金色がかったプラチナブロンドの髪と深い瞳、王子としての品格を凝縮したような美貌――見とれてしまいそうになるのを我慢して、私は視線を逸らす。
「……見てたのね。あんな醜態、誰が見ても笑えるでしょ。殿下が自ら崖から落ちていった感じだもの」
「はは、まったくだ。僕が手を下すまでもなく、お前の手腕で兄上は散々な目に遭った。おかげでこっちは退屈しないで済んだよ」
セバスティアンの言いぐさに、私は内心ちょっとムッとする。彼は王太子を陥れたいと思っているくせに、あえて裏から動かずに私の“復讐”を利用していたのだろうか。強制はされていないけれど、結果的に彼の望む展開に加担してしまっている気がして複雑だ。
「別にあなたのためにやったわけじゃないわ。あの方とは昔から婚約者としての縁があったんだもの。私の名誉を踏みにじられた以上、黙ってはいられないでしょ」
「その気迫が面白いと言っているんだ。お前の復讐もなかなか見ごたえがあったが、僕としてはもっと楽しみたいね。この先、兄上がどう落ちていくかとか、お前がそのあとどう動くのかとか」
セバスティアンが意味深に微笑む。その目はどこか楽しげなのに、同時に“利用できるものはなんでも使おう”という冷やかな感じが滲み出ている。私は警戒心を抱きつつも、目の前の圧倒的な美貌に少しだけ心がドキリとするのがなんとも腹立たしい。
「楽しみたい? あなた、あくまで傍観者でいるつもり? それとも私をも利用するつもりなの?」
「どちらでもあり、どちらでもない、かな。必要があれば協力するし、そうでなければ見物に徹する。僕は常に自分がいちばん得する道を選びたいだけさ」
その率直すぎる言葉に、私は一瞬言葉を失う。第二王子としての立場があるとはいえ、ここまで自分の“腹黒さ”を隠さないとは。もちろん私は騙されるつもりもないが、彼の気ままな姿勢が妙に羨ましくも思えてしまう。
「まあ、僕の助けが欲しくなったら呼んでくれ。僕もお前の復讐劇は面白いと思っているから、悪いようにはしないと思うよ。あくまで“今のところ”だけど」
「……あなたが私に手を貸す理由なんて、ただの暇つぶしじゃないの? それに手を貸すどころか、最後に私を裏切る可能性だってあるでしょう」
「はは、そこはお互いさまじゃない? 僕だって、お前に裏切られない保証なんかない。まあ、とりあえず兄上が落ちてくれるのは悪い話じゃないから、僕はあまり焦ってはいないけどね」
セバスティアンのエレガントな笑みが深まるにつれ、私はますますこの男が掴みづらいと感じる。一見すると穏やかなジェントルマンなのに、本性は鋭い刃を隠しているような危うさだ。忘れちゃいけない。王太子よりもはるかに手強いかもしれないのだから。
「……とにかく、あなたが私の成功を面白がっているのは分かったわ。だけど、私もあなたの駒になる気はないし、これ以上利用されるつもりもない」
「いいんじゃないか? 僕はそういう強気な娘が嫌いじゃないよ。おかげで“もっと楽しめる”」
「楽しむって、ほんと人のことを……」
思わず睨もうとしたら、セバスティアンはふっと私から視線を外し、会場の隅に沈んでいる王太子の姿を見やった。そこには殿下が頭を抱えていたり、コーデリアが姿を消したりと、むしろ惨劇の後始末が漂っているようす。彼は苦笑混じりに肩をすくめると、小声で私に囁く。
「さっきの裁定で、兄上はしばらく謹慎だ。もしかしたらさらに厳しい処分が下るかもしれない。お前の恨みは晴れたろうけど、この先どう動くつもりだ?」
「どう動くって……私はただ、自分の名誉を回復したいだけ。それが済んだら、別にこの国の政に関わるつもりはないわ。あなたの野心に加担したくもないし」
「なるほどね。じゃあ、もし兄上がまだ何か企んだときは? あの人間がもう一度足掻く可能性は否定できないし、公爵家への逆恨みは十分あり得るんじゃない?」
言われてみれば確かに、王太子がすんなり沈黙してくれる保証はない。逆襲を狙うかもしれないし、コーデリアが変な動きをするかもしれない。それらすべてが私にとって頭痛の種だ。
そうかといって、セバスティアンに「助けて」と素直に言うのも抵抗がある。この人は確実に、私より自分の利益を優先するのだから……。
「もし本当に危なそうなら、その時は考えるわ。あなたに頼るのは最終手段よ」
「それでもいいさ。お前と組めば、きっと面白いことになると思っているよ。……まあ、せいぜい気をつけてな。公爵家も過激な人材が多いし、内紛だけは起こさないように」
意味深に言い残して、セバスティアンはくるりと踵を返した。まるで興味の一部を満たしたから退散する――そんな軽やかさが腹立たしくもあるけれど、彼が本気で私を邪魔する意図はなさそうだ。ただ、自分の都合のいいタイミングで手を貸したり遠ざかったりを繰り返すのは目に見えている。
「……やっぱり利用しているだけ、か。ああもう、やな感じ……。なのにちょっとイケメンだからドキリとする自分が嫌すぎるわ」
本人は遠くへ行ってしまったのに、その残像が視界に焼き付き、胸が騒ぐ。イケメンの笑みなんて平気だと思っていたのに、セバスティアンの悪趣味な優雅さはなぜか心をかき乱す。
私は自分の頬を軽く叩いて気を取り直す。もはや王太子は終わりかもしれないが、セバスティアンの野望はまだ続く。私が巻き込まれないためには、冷静さを保ち、もし必要なら“こちらから”彼を利用しなければならない。
「いけないいけない……少しラブコメじみた感情なんて、私のプライドが許せないわ。あんな性格最悪な男に振り回されるのはまっぴらよ」
そう自分に言い聞かせ、私はふうっと息を吐く。まもなく舞踏会も後半に入り、国王のさらなる裁定がいつ下ってもおかしくない。王太子は今にも失脚しそうな状態だし、コーデリアは姿を消したきり。それでも、セバスティアンの薄笑いと父の衝動的な言動の両方を頭に入れて、行動しないと。
……ドレスの裾を小さく整えながら、私はもう一度だけセバスティアンのいた方向に目を向ける。そこには彼の姿はなく、代わりに兄やノエルが心配そうにこっちを見ているのが目に入った。彼らのところへ戻って、まずは状況を整理すべきか。
何が起こるかわからないこの宮廷の中、王太子は崩れ、コーデリアは自滅、第二王子は暗躍――混乱はまだまだ続くだろう。けれど私は胸を張って歩き出す。セバスティアンに翻弄されるつもりはないし、逆に利用するならその隙を狙えばいい。そう、私はもう被害者で終わるつもりはないのだから。
「さあ、次はどうなる? どんなことが起こっても、もう私は逃げないわ」
小さく呟いて再び歩みを進める。明日を変えるのは私自身……そう思いながら、私は煩雑な舞踏会の人波へと戻っていった。セバスティアンの誘いに乗るかどうかは、これからの展開次第。勝負はまだこれから――そう確信しつつ、イケメンへの動悸をきっぱり振り払って、私は顔を上げるのだった。
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