第6話 コーデリアの自爆作戦と王太子の愚行③
用事を済ませて宮廷内を歩いていると、やたらと派手なドレスのコーデリアをちらっと見かけた。つい先ほど、彼女が仕掛けてきた罠(?)を自爆して転んだ姿が脳裏に浮かんでくる。それを思い出すたび、思わず苦笑いが漏れてしまう。
「お嬢様、あちらにコーデリア様がいらっしゃいますね。どうやらまだ何か企んでいるようですが」
「うーん、分かってはいるんだけど、あれほど空回りしてる姿を見ると逆に同情したくなってきたわ。せめてもうちょっと上手に立ち回ればいいのに……」
ノエルと一緒に柱の陰からこっそり観察してみると、コーデリアは「ふんっ」とドレスをはためかせながら、あちこちに声をかけているように見える。だが、その周囲には微妙な空気が漂っていて、あまり取り合ってもらえていない様子だ。
「お嬢様を貶めようとしているはずなのに、自分が盛大に失敗してばかりですね。さっきも転んで、周りに笑われてましたし」
「そうなのよ。普通はこういう企みを仕掛けられたら、もっと怒りが湧くと思うけど、ここまで自爆されると拍子抜けというか……」
遠くのほうで、コーデリアが貴族らしい男性に話しかけている。身振り手振りが大きいのは彼女なりのアピールなのだろうが、男性が苦笑して手を振っているのが見え、会話がうまく噛み合っていない雰囲気が丸わかりだ。
「言い方は失礼ですけど、本当に空回りがひどいですよね。あの様子だと、皆さんが“コーデリアってなんだか痛い人だよね”という認識を強めるだけじゃないでしょうか」
「本人は必死だと思うんだけど……その熱意が伝わってこないというか。こういうとき、なんて言ったらいいか分からないわ」
私は頭を振りつつ、残念な光景を見守る。どうやら彼女は“リリエッタこそ危険だ”という噂をもっと広めたいらしいが、まともに相手にされていない。宮廷の貴族は表向き「へえ、そうなんですか」と微笑しているが、裏では「でもその本人が自滅してるよね」という目線が強いようだ。
「お嬢様が脅威だと思われているのが不思議で仕方ありません。大半の方はむしろお嬢様に好意的ですよ。公爵家もですし……」
「ノエル、それは多分あなたの個人的な評価が入りすぎてると思うわ。私はたいして脅威じゃないし、実際そこまで凄い訳でもないもの」
「何をおっしゃいます! お嬢様は女神のごとく偉大な――」
「そこまでいくと逆に気恥ずかしいからやめて! ……でもまあ、あれだけ転びまくって罠に自爆してるのが彼女って思うと、私はそれほど警戒する必要もない気がしてきた」
私が苦笑交じりに言うと、ノエルは大真面目な顔で「いえいえ、警戒はしておきましょう」と強調する。確かにコーデリアの策略が単純とはいえ、最終的に予想外の手段を使ってくる可能性も否定できない。でも、このありさまでは当分その心配は薄いかもしれない。
「まあいいわ。どうせ狙うなら王太子との立場とか……そっちを頑張ってくれればいいのに。私には、そこまでしつこくちょっかい出す理由が分からないのよね」
「お嬢様は、いわば彼女からすると“過去に王太子と繋がっていた存在”ですからね。嫉妬と対抗心が混ざっているんだと思います」
コーデリアが再び大げさな笑い声を上げながら、周囲に「リリエッタなんて信用ならないわ!」と力説しているのが見える。しかし、周りの反応は苦笑やうんざり顔ばかり。気づかない当人はひとり勝手に盛り上がっているようだ。
「うわぁ……どうもありがとうございます、コーデリアさん。本当にいいイメージを振りまいてらっしゃる」
「ええ、あの調子なら大丈夫です。お嬢様には何の被害も及びませんわ」
私とノエルがこそこそ話していると、ふとコーデリアがこちらに気づき、目を合わせてくる。やばいと思ったが、すでに彼女は「くっ……またいたのね!」といった表情で突進しようとした……が、ドレスの裾を踏んで転倒。ギャラリーから失笑が起こり、彼女は真っ赤な顔で立ち去っていった。
「本当に毎回転ぶのね……大丈夫かしら。普通に心配になるわ」
「そうですね。向こうが一方的に闘志を燃やしているのに、成果ゼロというのがまた可哀想というか」
思わぬ騒動を見届けた私たちは、顔を見合わせてため息まじりの苦笑を交わす。彼女の空回りぶりは、正直言って敵視されている実感をわざわざ抱くまでもないほどの威力しか発揮していない。
「このままいけば、いつかコーデリアが自分で墓穴を掘ってくれそうね。困るのは王太子のほうかもしれないけど」
「まさに自爆作戦という感じですから。もっとも、本当に要注意なのは殿下のほうですし、お嬢様にとってはそちらが最優先でしょう」
ノエルの言うとおり、私がやるべきは王太子への復讐。それから、あわよくば第二王子――セバスティアンの動向にも気を配ること。コーデリアの妨害なんて微々たるものだと感じられるほど、現状はもっとやっかいな相手が山積みなのだ。
「そうね。変な騒ぎに首を突っ込む前に、目標を見失わないようにしないと。王太子に復讐するっていう大きな目的があるんだもの。こんな小競り合いに時間をかけるのはもったいないわ」
「はい! お嬢様の大勝利を目指して、私もますます頑張りますね!」
まったく、コーデリアが必死になるのは自由だけど、その方向性が間違っているからこそ足をすくわれているんだろう。私は心の中で「あまりに自爆ばかりしてると、逆にこっちが気まずいんだけど……」とぼやきつつも、結局は笑って流すことにした。
「とりあえず彼女を相手にする余裕があったら、もっと重要な準備を進めましょう。ね、ノエル」
「ええ、お嬢様。それが得策ですわ。コーデリア様が足元をすくわれるたびに、私たちが慌てる必要なんてありませんから」
こうして、あらためて王太子への復讐心を燃やし直す私。コーデリアの空回りぶりを思うと「まあ頑張ってね」と声をかけたくなる半面、余計な引き金になるのも嫌なのでそっと放っておくことにした。これ以上のトラブルを呼び込まないためにも、今は賢く距離を置いて見守るのがベストだろう。
コーデリアを横目に、私はノエルと足早に宮廷を後にする。背後から聞こえる微かな悲鳴やドタドタという足音が気になるが、きっとまた彼女が段差か何かに引っかかったんだろうと思うと、妙に気楽に感じられるのだった。
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