うっかり
蓮司「何にも無いだろ?」
棗「まぁ、確かに。」
すみれ「棗君!」
蓮司の案内で町を見て回ってるんだけど確かに特筆すべき物は無い。
棗「ただ、俺の住んでた婆さんの小屋よりはマシだと思う。あそこは山と木しかないし。」
蓮司「それも見たいけどな。」
お互い無い物ねだりだな。蓮司の地元は確かに何も無い感じだが、食べ物はそんなに悪く無い。聞けば観光客へ向けた物で、食事に関しては町全体で力を入れているらしい。ただ、食べ物が美味くても金が無ければ食べ歩きは出来無い。
棗「金が無いな。」
すみれ「そうだね。」
蓮司「金を稼ぐなら良いバイトがあるぜ。」
蓮司に言われ役所へ向かう。役所でバイト、仕分けか何かと思っていた。
蓮司「見つけて、場所と数を教えるんだ。緊急性があればそこまで案内するとか。色々さ。」
すみれ「大丈夫かな?」
職員「大丈夫だよ。蓮司君はもう何回か退治しているからね。まぁ、本当に危険だったら直ぐに逃げるんだよ?」
俺達は近くの森へ向かう。
ここで改めて説明をしたい。蓮司の言うバイトとは、この『世界』で"鬼"と言われている存在である"魑魅魍魎"達。その"魑魅魍魎"達の位置と数を確認し、そのデータを本部へ送るという仕事だ。どうやって送るのか?そこで使うのが先程、役所で渡されたガントレットだ。なんかボタンがあって、ガントレットを"鬼"に向けてボタンを押す事で"鬼"の位置と場所を本部に知らせるらしい。
棗「どういう仕組み?」
蓮司「さぁ?」
古風な物語かと思いきや、急なSFへのシフトでビックリだ。確かに小説でこのアイテムの話があったのは知ってるけど、いきなりのハイテクでかなり驚いている。因みに位置を特定してどうするのか?場所の確認をした職員達が会議をし危険がある様なら討伐、そうで無いなら様子見かを決めるとか。
蓮司「一応知らせるだけの仕事だけど、倒せるならそのまま倒して良いって言われてる。」
棗「年端も行かない奴に、そんな事を言うなんてあそこの職員こそ"鬼"だな。」
蓮司「いやいや、こう見えてこの仕事に関してはベテランだから。」
すみれ「でも危険だよ。」
蓮司「とにかく離れ過ぎるなよ。2人共。」
蓮司とすみれは危なげなく"鬼"を捕捉して行く。俺も茂みに隠れ"鬼"を探す。しばらく進むと前方に"鬼"を見つけた。さて、ここで信号を送れば完了だ。ただ、気になっている事がある。
婆さんから教えて貰った技の事だ。果たして婆さんが教えてくれた"霊力を固めて叩き付ける"は本当に有効なのか?実際に試してみないと不安で仕方ない。
"鬼"のサイズはそれ程大きく無い。これなら大事にはならないだろう。人に知られず婆さんの技を試すチャンスだ。俺は指の第一関節くらいのサイズに霊力を固め、指弾として撃ち出す。俺の放った霊力玉が"鬼"に命中した瞬間、ボンッと音を立て吹き飛ぶ。
棗「いや、怖いよ婆さん。と言うかよくこんなの人に投げたなあの人。」
闇精霊「ああ、前に言ってた試験官の事?」
火精霊「それだけあの老婆の霊力コントロールが精密だったと言う事であろう。」
確かに凄い事なんだろうけど、俺は尊敬より畏怖の方が強くなった。
棗「はぁ、考えるの止めよ。婆さんの事なんか気にしたら俺が倒れちまう。」
とにかく2人と合流しようと振り返る。
すみれ「・・・・・。」
棗「・・・・・。」
すみれが目を丸くしながら俺の顔を見ている。と言うか見られとる!
棗「誰にも言うなよ。」
すみれ「え?で、でも!」
棗「頼む!あまり騒がれたく無いんだ!」
蓮司「どうした?」
棗「いや、何でも無いよ。」
すみれ「・・・・。」
俺達は仕事を一通り終え役所へ戻る。職員のおっさんが待ってましたって感じで寄って来る。何かあったのか?
職員「少年!凄いな!今日が初めてじゃないのか?」
蓮司「え?何が?」
職員「少年が"鬼"を一瞬で倒したんだ。」
棗「な!何でそれを!」
蓮司「言ってなかったっけ?このガントレットで位置を捕捉すると、倒されるまで位置が確認出来る様になるんだよ。」
棗「その話が俺の事とどう繋がる?」
職員「"鬼"を倒したその人間も捕捉出来る様にしてるんだよ。」
棗「え!」
職員「誰が何処にいるか把握してないと支援が出来無いだろ?」
要するに捕捉された"鬼"を倒したから、俺が倒した事を知られていたって事か?
棗「でも、捕捉なんて・・・・。」
俺は"捕捉なんてしていない。"と言い掛けた時だ。あの時の事を思い出し、すみれの方を見る。
すみれ「あ、あのね。棗君が凄い真剣な顔をしていたから私も目を凝らして見たの。それで棗君の見つけた"鬼"が見えて、直ぐに情報を送ったんだけど。」
その直ぐ後のタイミングで俺が"鬼"を倒して今こうなってるって事か。
蓮司「へぇ〜。棗ぇ!やっぱりお前って凄い奴なんだな!」
職員「いやぁ、君の様な優秀な少年が国の為に尽くそうと学園に在籍している。そう思うと嬉しくなるよ!この国は安泰だな!はははっ!」
職員のおっさんが笑いながら俺の背中をバジバシと叩く。色々あり過ぎてもう"痛い"と発言する気力も無い。
蓮司「流石は俺の親友!ははっ!」
棗「は、はは。ははは。」
俺は笑うしか無かった。
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