魔法少女はルールを決める?

「賭けは勝ったか」


ダムドは自身が開けた穴から、青空を仰いでいた。

ダムドは無謀じゃない。

魔法少女が陥りがちな万能感を克服し、一人で戦わなくてはいけない筈の状況でも助けを求めた。

それこそが『入学許可証』

賭けた部分は、あの学園長が『千里眼』でこちらの様子を確認しているかどうか。

ゴッズが来ているかどうかは賭けではない。

来ているという確信があった。


「死なないで! 寝たらダメだよ! たーちゃん! しっかりして」

「だから揺らすなって。やめろ苗。死ぬ、ガチで死ぬから」

「死んじゃいやぁ!」

「わざとやってのんのかテメェ!!」

「ターちゃんがキレた!」

「……弾は内臓を傷つけてない。安心しろ」

「! うん……うむ、それでこそ我が友だ」

「くっ……笑わせんな、傷に響く」

「笑わせとらんわ!」


ゴッズは嘘をついていない。

ただ、本当のことも言わなかった。

弾丸は内臓を貫いていない。だが、その近くの血管を撃ち抜いていた。

貫通した傷から、少しづつ血が溢れている。


それは、ゆっくりと命を蝕む、致命傷であった。


□ □ □


炎。


それは突如として私の手から噴出しました。

不思議と熱はありません。

気分はアイアンマン……いや、あんな洗練されたジェットの炎ではなく、本当に手が燃えてるって感じです。

この手でおにぎりとか握れば自動的に焼きおにぎりになるんでしょうか。

いや、火力的に出来上がるのは炭ですねこれ。


『何をしている早く立ち上がれ、そして戦え』


YES。と言いたいところですが、それどころじゃありません。


コレ、私の体から出てますよね。私の魔法、こんなこともできるんでしょうか? 取り敢えず、何とか抑えなきゃいけません。


念じればいいんでしょうか。


炎よ、しぼめー、しぼめー。


あ、少し小さくなりました。いけそう。


しぼめ、しぼめー!!


だんだんと縮んだ炎はゆっくりと手のひらへと消えていきました。


危ない危ない。何はともあれ落ち着きました。


ほっ


多分、この『ほっ』がいけなかったんでしょう。

次の瞬間、私の全身からキャンプファイヤーのごとく炎が噴出しました。


□ □ □



「殺す」

「いいぜ、やってみろや」


まず動いたのはパラメデス。

宣言通り、その拳には確かな殺意が乗せられていた。


「ゴロテスの名を汚したこと、後悔させます」

「だからさぁ!」


その拳をパラメデスは受け止め、その前に進行方向に引き上げる。


「なっ」

「そういうことは、やってから言ってくれねぇかな?」


ゴッズはそのままパラメデスの懐に自身の半身を潜らせ、強引に背負い投げた。

ボロボロの地面に叩きつけられたパラメデスは思わず呻き声を漏らした。


一方で、ゴッズは不思議そうに、それでいてどこか嬉しそうに先ほど投げる時に掴んだ左腕を見つめていた。


「残念だな。感情的に来るなら俺の独壇場だったのによ」


話しかける目線の先で、パラメデスはすでに起き上がっていた。


「掴まれた瞬間に冷静になって、投げられると同時に跳躍と飛行で、投げられる勢いをつけたな。俺がつかんだ手を離す様に」

「…………」

「守ったのは、手首か? そこまで『飛行』を使いこなしているなら、当然投げられたダメージも軽いだろうよ」


そこまでいうと、ゴッズは両手の平を静かに打ち付け、パチパチと拍手をした。


「? ……何のつもりですか?」

「賞賛だ。褒めてやる」

「変わった命乞いですね」

「冗談。俺の殺害対象は『俺の周囲の人間を明確な悪意を持って傷つけた者』もしくは、『俺に殺意を向けた者』。前者は微妙だが、後者の条件をお前は満たしてる」

「『殺害対象』……随分と緩いルール決めてるじゃないですか」


裏社会に関わる上で、学園所属の一部の魔法少女が、自主的かつ非公式的に取り決めたルールである。


それは、相手を殺す条件を設定すること。

際限がなくならない様、設けるルールは二つ。

逆に言えば、このルールを破らなければ、殺されることはない。


それは、強制力のないルールであり、決して絶対のルールでもない。学園の魔法少女の極一部が取り決めた者であり、仲間同士の暗黙の了解である。

だからこそ、そのルールは簡単に破れる者ではない。


そして、ゴッズは不意に拍手を止めた。


「だからこそ、俺は殺す相手への賞賛を惜しまない。その努力を、才能を、知性を、感情を。その素晴らしい全てを、俺は俺の都合とルールで終わらせる。人殺しとはそういうモノだ」


壊れている。魔法少女ゴッズは、精神を病んでいる。

彼女は人殺しをしてはいけなかった。

真面目で、善良で、正気な彼女の本質は、自身の罪と正面を向き合わせる。


だが、その目から光が失われることはない。


「あなたは……」


その時、二人の視界の端で、巨大な火柱が立ち上った。

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