魔法少女は殴られる!!
銀騎士到着より、少し時間は遡る。
第四射を防がれたラストは、不機嫌そうにギャッカに報告した。
「『熱線』が防がれた」
「……珍しいこともあるものだね。攻撃力最強クラスの『熱線』が日に二度も破られるなんて」
「……逃げる? ……それとも、もう一回撃つ? 見た軌道をなぞってくるなら、そのまま撃ったら当たると思う」
防がれるのを分かっているのに撃ちたくない。そう言わんばかりの渋々の確認だった。ギャッカは少しだけ思考する。
無論、出来れば撃ってもらいたい。だが此処でラストにストレスを溜めたくは無い。むしろ、自分から言ったことを褒めるべきだ。褒めないけど。
「うん、撃って」
ギャッカのその言葉に、ラストは絶望的な表情を浮かべる。
「ただし、銀騎士を撃たなくていい。さっき反撃してきた方の魔法少女を狙って」
「もう、目印はない。流石に移動してると思うし、狙えない」
「さっきと一緒で勘でいい。大切なのは、狙いが銀騎士でないと銀騎士に教えることだ。上手くいけば、こちらが狙えると勘違いして、銀騎士が魔法少女を守る為に退却するかもしれない」
「! 『
こちらの狙いを伝えると、ラストは嬉々としてチャージを始めた。ギャッカら褒めるのは苦手だが褒める以外にも士気をあげる方法を心得ていた。
「さぁ、どうするかな。そろそろ連絡が取れない『メタルシップ』も心配になってきたし……」
「人の心配より、自分の心配をした方がいい」
ギャッカの視界を拳が埋め尽くした。
「え?」
「『熱線』!」
咄嗟に、ラストがその拳に向けて『熱線』を飛ばす。
拳を振るった下手人は、当たり前のようにそれを後ろに引いて回避する。
「そんな、この距離で『熱線』を避けるなんて……」
「は、はは。何で、こんなところにいるんだゴロテス!」
緑の髪をたなびかせて、下手人―ゴロテスは、真っ直ぐにギャッカに目を向ける。
その目線を受けて、ギャッカは表情を緩めた。
「あぁ、ゴロテス、ゴロテスゴロテス! ゴロテス!! 何で君が此処に! やばい! 好きだ! 愛してる!」
ギャッカは、先ほどまでの冷静な態度が嘘のように狂乱した。
その事に対し、思わずゴロテスは眉を顰める。
「……誰だ?」
「あぁ! 覚えてないだろうとも! 君はそういう人間だ! 君はそういう人間なんだ! だから大好き! 好きでラブで恋してる! だから……」
「殺してほしいなぁ」
その狂気に満ちた言葉と目に、ゴロテスは戸惑う事しかできない。
そして、そんなギャッカの肩をラストが掴む。
「何! 今ちょっと忙しいんだけど! 私は今ゴロテスに殺して、」
「ダメ」
ラストは、じっとギャッカの目を覗き込んでいた。その皿のような目が、ぐるぐると渦巻くような瞳が、ギャッカを落ち着かせる。
「……そうだね、ごめん。
「………分かったなら、いい」
そのやり取りをゴロテスは、値踏みするように見ていた。『不統合同盟』の情報は少ない。その言動も貴重な情報となる。
「というわけでゴロテス。口惜しいが、ほんとーに口惜しいが、此処から去らせてもらうよ」
「逃すと、思うのかい」
「こっちのラストとは目が良くてね。遠距離を見る事に関しては魔法少女一だと思っているよ」
「………むふ」
心なしか、嬉しそうにラストが腕を組み、アピールする。
「……それが、どうしたと?」
ゴロテスはスルーした。
ラストはちょっと傷ついた。
「目がいいってのは、遠くを見るだけじゃない。動体視力も含めてだ。特に、変身した彼女は弾丸ですらスローに見える、らしいよ。変身しているならともかく、
「…………」
ラストは腕を組みかけたが、さっきのことを思い出してやめた。
その結果二人の視線が一瞬だけ、何か残念な物を見るそれに変わっていた。
ラストは『どうせならやればよかった』と後悔した。
「勘違いするなよ」
ちょっとおかしくなった空気を変える為に、ゴロテスは言った。
「僕は何も、身体能力だけで『最強』って呼ばれてるわけじゃないよ。僕は武術を磨いたからそう言われるんだ」
「? 武術ってのは『より速く動く』技術だろう?」
「そういうのもあるけどね。武術ってのは基本的に、」
トンっ、と。ゴロテスはゆっくりとギャッカの目の前に
「『早く動く』技術だよ」
動体視力は、関係ない。その動きはギャッカにもはっきり見えた。ゆっくりと、正面から近づいてきただけ。なのに、一切の反応が出来なかった。
「「!」」
「遅い」
そして今度こそ『速く動く技術』が使われる。
ギャッカに想定外があったとすれば、その一撃が
右手でラストを
左手でギャッカを
それぞれ殴り飛ばす。分かりやすい暴力。故にそれは、格の違いを理解させる。
ラストは地面を数度跳ね、木にぶつかって止まった。
ギャッカは直線的に吹っ飛ばされ、木にぶつかり、その木をへし折ってからその場に崩れ落ちた。
『最強』の魔法少女ゴロテス。その強さに、一切の隙はない。
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