魔法少女は調査中!?

「ははは」


 思わず、男の口から乾いた笑いが溢れる。

 中堅魔法少女の手足と引き換えに、使い所のない情報を渡す。

 それだけのぬるい取引だった。

 なのに今、男が手にしているのは『最優』の首。

 これをオークションにかければ、億は硬い。


「いいでしょう。では、こちらをお受け取り下さい」


 男は黒スーツの一人に指示を出し、懐から封筒を取り出させる。

 机の上に並べた書類は全てブラフ。

 もしアベレージが力強くで奪おうとしても、襲いかかっている間に部下が書類を燃やす手筈になっていた。

 アベレージは受け取った書類を細やかに確認する。


「確かに。だが……」

「!」


 アベレージはブラフのために並べられていた書類を掴むと、一瞬で着火。瞬く間に燃やし尽くした。


 魔法番号22番『フレイム

 好きな場所に着火、延焼させれる魔法


「もし、この情報が虚偽であった場合。お前らの支店を放火して回る」

「ッ! ……口調が崩れてますよ」

「……失礼しました」

「虚偽など誓ってありませんよ。その情報の提供元はかのーー」


 その先の言葉は、誰の耳にも届かなかった。

 代わりに全員の耳に届いたのは、轟音。


 だった。


「は?」

 その疑問符は、全員の総意だ。

 誰もが見間違いを疑った。何せ、天井をぶち抜いて、ナニカが降りてくるのを目撃したから。


「違法建築だから床が薄くて助かった。ところで、」


 降り立ったものは机の上の瓶を蹴り飛ばし、周囲を見渡す。

 魔法少女と怪しい男。

 見るからにヤバい物が入った袋と床に散らばる燃えカス。


「これ、どういう状況?」


『最強』の魔法少女、ゴロテスが降臨した。


 □ □ □


「ゴロテスがなぜ『最強』なのか……お前は、そんな事を聞くためにわざわざ私の時間を浪費させるのか」

「必要な事だ。早く話せ」


 学園長室で対峙するのは学園長の天内と魔法少女ゴッズである。


「口の聞き方に気をつけろよ。私はお前が正式な手順で面談を申し込んだから話をするだけで、お前の様なクソガキは嫌いなんだ」

「そいつは結構。俺も答えを聞いたら出ていってやるよ。こんな辛気臭い部屋に長居するつもりはねぇしなァ」

「……何故、私に聞く? ゴロテスのことをよく知る人間は幾人もいるだろう」

「自惚れんなババァ。お前にだけ聞いてるわけじゃねーよ」

「ほう、他の魔法少女や教員にも聞いたのか、それでどうだった?」

「チッ、どうもこうもねーよ。まるで当てになんねぇ。ほぼ全員、ぇんだからな」


『闘神』『蛮人』『無敵』『魔法少女でない何か』『達人』

『人類の究極形』『何かの極地』『武の化身』

『台風の擬人化』『一撃必殺』『化け物』『異端』


 そして、『最強』


「ただ一つ、どうやら『最強』なのは確からしいぜ」


 それでこそ、と言わんばかりの態度のゴッズに対し、天内は不快そうに眉を顰めた。


「……私のゴロテスに対する評価はそうだな、『最強』であるが、一番強い訳ではない。と言ったところか」

「あ? どういうことだぁ。なぞなぞしてんじゃねーぞ」

「例えば、私が仮に魔法少女の評価をランキング形式で表すとすれば、三位か四位と言ったところだろう」

「ゴロテスより強い奴が、少なくとも二人いるってことか?」

「そもそも、『最優』がいる。アイツは攻撃力も攻撃範囲も継戦力もゴロテスより上だ」

「ふーん。じゃあアンタにとって本当の『最強』はあの生徒会長さんな訳?」

「違う。『最強』と『最優』には決定的な違いがある」

「決定的な違い?」

「カリスマだよ」


 天内は、言い切った。

 ゴロテスが最強たる由縁を。


「アイツの戦い方は、鮮烈で、例外的で、圧倒的だ。それでいて善人、面倒見も良い」

「……何が言いてぇ」

「『安心感』が違うんだよ。ゴロテスが来ればどれほど危機的な状況でもなんとかなる。そう思わせるからゴロテスは『最強』なんだよ」

「くだらねぇ」


 天内のその結論を、ゴッズは切って捨てる。

 如何にも時間の無駄だったという態度だ。


「邪魔したな」


 ゴッズは不機嫌な態度を隠さないまま席を立った。

 その時、「あぁ」と、さも今思い出したと言うように、天内が声を上げる。


「後一つ、あいつが最強と言える理由を上げるなら、奴は全ての魔法少女に共通するはずの弱点がない」

「共通する弱点?」

「……つまりコロデスは、」


 □ □ □


「これ、どういう状況?」


 そう尋ねたゴロテスへの返答は黒スーツ達の殺意だった。

 複数の銃口が机の上のゴロテスの頭部へ向けて照準を合わせる。一瞬後、連続した銃声が響き渡る。

 発砲許可はない。ただその場にいた黒スーツの全員は直感で攻撃ではなく、に引き金を引いた。


「1、2……4人か」


 放たれた弾丸はゴロテスに当たっていない。

 ゴロテスは、黒スーツの一人の前に、当たり前みたいに立っていた。周囲を見渡し、黒スーツの数を確認する。


「この、化け物が!」


 瞬間的に目前へ移動したゴロテスに対して、黒スーツは驚愕しつつも銃を手放した。

 超至近距離では基本両手で構えなければならない銃よりも、両手を自由にした方がいいと判断したのだ。

 男は銃を手放したその手をそのまま振り下ろす勢いでゴロテスの袖を掴む。

 ゴロテスが着ているのはダボついたジャージだ、人差し指と中指だけでも十二分に引っ掛けれる。

 掴んだ後も勢いは落とさず、袖を地面へ引っ張りゴロテスの体勢を、体勢を


「その程度で崩れるほど、やわな体幹をしていない」


 ゴロテスは棒立ちのままだ、腰を下ろしている訳でも足や手で構えている訳でもない。

 ただ棒立ちのまま、今度は逆に男の手を掴み返し、自分の方へ引き寄せた。


「は?」


 男の口から間抜けな声が上がる。無理もない引っ張られた瞬間、彼は自分の足が地面に離れるのを感じたからだ。ゴロテスは引き寄せた男の、その惚けた顔面に、正拳を叩きつける。

 男の体は再度、今度はさっきと逆方向に宙を浮き、ザリザリと地面を転がった。

 ゴロテスは、残りの黒スーツに目を向ける。


「次」



 □ □ □


「つまりゴロテスは、

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